筆者がかつて従事していた、国際線航空券の運賃計算・発券業務。地球が広い割には体系的で、意外にシンプルな業務です。
航空業界における発券業務は、現在はほぼ完全に電子化した分野です。そのため、紙媒体はほとんど使用されていないと思います。しかし、時代を遡ると、ドットインパクトプリンタで印字された、カーボン複写用紙の「OPTAT券」や、サーマルプリンタで印字された、厚紙連続用紙の「OPATB券」が航空券として存在しました(感熱式)。
また、小切手や約束手形と似た要領で手書きで記載する「MCO」という有価証券も扱いました。
この記事では、「CRS」もしくは「GDS」といわれる航空予約システムにおける運賃計算について触れてから、紙媒体のOPATB券を使用したEチケットレシートをいくつかご紹介します。筆者の業務経験を織り交ぜた記事ですが、なにしろブランクがあります。筆者の備忘録、昔話と割り切ってお読みください。
航空運賃の自動計算

国際線航空便の予約や発券は通常、「GDS」もしくは「CRS」といわれる航空予約発券システムを使用します。
日本国内で使用されている代表的なものに、AXESS(日本航空系)やINFINI(全日空系)といった日系のシステム、SABRE(米国)やAMADEUS(欧州)といった外資のシステムがあります。
【自動発券】
航空運賃の運賃計算は、これらのシステムの運賃計算機能を利用します。その際、ほとんどが自動運賃計算され、そのまま発券操作を行います(FQコマンドなど)。上記のシステムベンダーが運賃計算結果を保証するのが一般的で、旅行会社に直接火の粉が飛んでこない格好でした。
JRのマルスでは、あらかじめ運賃登録された区間をベースに自動計算で発券するのに相当します。
【マニュアル発券】
ところが、複雑な旅程の発券やクーポン類の発券については、運賃の自動計算が対応していません。発券するためには、手作業で運賃計算を行い、金額などの情報を手入力しなければなりません。これが、マニュアル発券といわれます。
システム上に運賃登録がないことから、JRのマルスにおける「金額入力」に相当するかと思います。
マニュアル発券を行う場合、システムベンダーによる運賃計算結果の保証がありません。万が一運賃計算を誤って発券した場合は、後日航空会社から「ADM」として差額が徴収されてしまう形です。発券担当者・旅行会社にとってはリスクがある作業で、筆者も極力避けたい仕事でした。
【航空券:紙券とEチケット】
このように運賃計算を行って、航空券が発券されます。かつては、いま述べたOPTAT券やOPATB券といった紙券ではなく、Eチケットとして航空会社のシステム上に電磁的に置かれます。
かつては、OPTAT券と呼ばれる、複写4片制(あるいは2片制)の赤いカーボン紙が綴じられた用紙が航空券として発券されました。その後、OPATB券と呼ばれる硬い用紙(感熱紙)に置き換えられました。現在でも、海外の空港のチェックインカウンターでは、ATB券が備えられていて、搭乗券やEチケットの控えとして印字されて入手できる場合があります。
なお、OPTAT券やOPATB券をはじめとする航空券発券のための諸規格は、IATA(国際航空運送協会)が規定するものです。したがって、加盟航空会社共通の(世界共通の)規格です。
このような航空券管理の電子化は、1990年代に実装されました。いまだに紙のきっぷありきの考え方がベースにある日本の鉄道よりも、思想がはるかに進歩的です。
電子ボーディングパス

現在は、ボーディングパスを電子情報としてメールで受け取り、QRコードをゲートでそのままかざすことが原則かと思います。
かつての紙のフォームを振り返る前に、現在の状況を押さえておきましょう。

このボーディングパスは、貯まったマイルを還元したアワードチケット(特典航空券)です。運賃計算の内容などは旅客の目に見えませんが、システム上には記録されています。
Eチケット控えとしてのATB券

OPTAT券やOPATB券の違いは、紙媒体や印字方法・プリンタの違いです。それぞれの券面の様式は基本的には同一で、航空券としての記載事項がすべて載る形です。
ここでは、ごくオーソドックスなOPATB券の様式を紹介します。元々は、紙の航空券として効力を持っていましたが、いまでは電子情報として有効な航空券(Eチケット)の内容を紙片に印字したものにすぎなくなっています。
下図は、米国のアラスカ航空で発行された、Eチケットの内容ををATB券にプリントアウトしたものです。
空港のチェックインカウンターでリクエストすると、EチケットをATB券にプリントしてくれます。米国では、かつての紙の航空券の様式そのものであるATB券に情報を印字することがありますが、日本では現在存在しなく、白紙に印字されると思われます。
Eチケット自体は電磁記録されたものなので、プリントアウトされたこの紙片は、あくまでも複製にすぎません。

これはシステムが自動計算して発券したもので、マニュアル発券ではありません。印字状態が良くなく、文字がかすれているのが残念です。
このチケットは、米国オレゴン州ポートランドからカリフォルニア州サンディエゴまでの片道航空券で、シアトルで自動発券されたものです。
券面には、航空券番の他に、航空券の情報である氏名、エンドースメント(制限事項)、予約番号、運賃計算欄、運賃・税金、支払手段など多くの項目が表示されています。支払手段欄には、自分のクレジットカード番号の一部の桁がそのまま表示されているので、取り扱いに注意しましょう。
ボーディングパスとしてのATB券

下図は、デルタ航空におけるOPATB券です。
デルタ航空においては、様式がそのまま印刷されたOPATB券の使用が縮小され、単なる白い感熱紙(レシート用紙)に印字されていることが多いです。この例は、ATB券に印字されています。
レシート用紙に印字されるので、Eチケットレシートと呼ばれるわけです。
このケースでは、ボーディングパス(搭乗券)として発行されました。

バーコードからも簡単に個人情報が読み取れてしまうので、取り扱いには注意を要します。
この航空券は、貯まったマイルを使用した無償のアワードチケットです。そのため、「No FF Credit」と表示され、さらなるマイルが貯まらないのが読み取れます。
今回は、ボーディングパスの他に、上述したEチケットレシートを、同じATBフォームに印字して渡してくれました。アラスカ航空のEチケットレシートとは、様式がとても対照的です。


Eチケットの記載内容がすべて印字された良い例です。
1枚目に旅程、2枚目に運賃計算内容が印字されています。これも、ウェブ上で予約が完了したアワードチケットであり、自動計算されています。
上記アラスカ航空の例と同じく、「Issued in exchange for」という欄に元の航空券番号が記載され、最終的な航空券が交換発行されたものであることが分かります。
タイ国際航空のボーディングパス

タイ国際航空のボーディングパス。用紙のサイズや厚さは、上述したATB券と同じですが、実体は単なるボーディングパスです。これも、貯まったマイルを還元したアワードチケットです。

特典航空券を利用して、生まれて初めてファーストクラスに搭乗した、間違いなく最初で最後の体験でした。タイ国際航空でファーストクラスを利用すると、有償か無償かを問わず、サービスが至れり尽くせりでした。
改訂履歴 Revision History
2016年02月28日:初稿
2022年12月12日:初稿 再構成
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