栃木県の大観光地である日光・鬼怒川温泉と東京を結ぶ、東武特急。東武日光線を走る特急には、発着する駅によって、大きく分けて2つの系統があります。
一つ目は、メイン系統である、浅草駅から東武スカイツリーラインを経由し、東武日光駅・鬼怒川温泉駅(栃木県日光市)までの区間を走る「けごん」「きぬ」号です。
二つ目は、サブ系統ともいえる、JR新宿駅からJR湘南新宿ラインを経由し、同じく東武日光駅・鬼怒川温泉駅までの区間を走る「日光」「スペーシア日光」「きぬがわ」「スペーシアきぬがわ」号です。これはJR・東武直通特急列車で、2006年から直通運転が開始されました。
JR線と東武線を直通運転するため、きっぷの買い方や紙のきっぷの様式がとても特殊です。特殊ゆえに、複雑で分かりにくいと思う方が多いのではないでしょうか。
この記事では、JR新宿駅を発着する「スペーシア日光」「スペーシアきぬがわ」号の普通車指定席における、特急券の料金体系や買い方について詳説します。
そして、「スペーシア日光・きぬがわ」号のきっぷとして発行される、多様な様式の端末券や常備券、補充券の数々をご紹介したいと思います。

元々の料金が割高なので、ネット割引「えきねっとトクだ値」料金をうまく活用できると吉です!
「スペーシア日光・きぬがわ」号の概要 ~JR・東武連絡特急~
JR・東武直通特急列車には、この記事で扱う、東武100系車両で運行される「スペーシア日光」「スペーシアきぬがわ」号の他、JR253系電車で運行される「きぬがわ」「日光」号があります。
いずれの列車も、JR新宿駅からJR大宮駅を経由し、栗橋駅から東武日光線に入り、東武日光駅もしくは鬼怒川温泉駅まで向かいます。栗橋駅(埼玉県久喜市)では、JR宇都宮線と東武日光線との渡り線に入り、乗務員交代のため運転停車します(乗客の乗り降りは不可)。

2023年3月のダイヤ改正にて、運行本数が減便になりました。一日2往復の「スペーシア日光」号「きぬがわ」号は、毎日運行されます。多客期には「日光」号「スペーシアきぬがわ」号も従前通り運行されます。
臨時列車は、「スペーシア八王子日光」「スペーシア八王子きぬ」号として、JR武蔵野線経由で八王子駅(東京都八王子市)まで乗り入れることもあります。

「スペーシア日光」号「スペーシアきぬがわ」号「スペーシア八王子日光」号「スペーシア八王子きぬ」号として、JR線内に乗り入れる東武100系車両です。車齢が30年以上と、経年劣化が進んでいます。いつまで現役で活躍するのでしょうか。

東武100系車両の普通車車内。座席が頑丈な造りで、シートピッチにも余裕があります。モーター音も重厚で、乗り心地が良いです。車両としては、名作の部類に入ると思います。

「きぬがわ」「日光」号として東武線内に乗り入れる、JR253系電車。元々成田エクスプレスとして使用されていた車両が転用されたものです。

253系電車の普通車車内。東武車両と比較して、質感が劣ります。シートピッチは十分ですが、居住性が良いとはいいがたいです。
乗車する区間によって、
● JR線内のみ乗車
● JR線と東武線をまたがって乗車
● 東武線内のみ乗車
の3パターンがあります。
JR線と東武線直通で、接続する栗橋駅で改札を通らないため、きっぷの買い方が特殊です。また、JR線の運賃・特急料金と東武線の運賃・特急料金を合算するため、東武線区間のみを走る特急列車よりも、値段がかなり高めです。
「スペーシア日光・きぬがわ」号の料金体系・きっぷの買い方

JR・東武連絡特急である「スペーシア日光・きぬがわ」号は、全車指定席です。乗車する前に、指定席特急券と乗車券を購入します。
先に、JR線の運賃・特急料金と東武線の運賃・特急料金を合算すると申し上げました。具体的には、下表の金額になります。
始発駅のJR新宿駅から終点の鬼怒川温泉駅を例にすると、
会社 | 発駅 | 着駅 | 営業キロ | 所定運賃 | 所定料金 |
JR | 新宿 | 栗橋 | 54.3 | 990 | 1,050 |
東武 | 栗橋 | 鬼怒川温泉 | 85.9 | 1,000 | 1,050 |
合計 | 140.2 | 1,990 | 2,100 |
と、乗車する距離の割に運賃・料金が高額なことが分かります。
JR線と東武線の区間をまたがって乗車する場合、JRのネット限定料金「えきねっとトクだ値」の設定があります。トクだ値を利用することで、東武線単独の特急列車並みの料金になります。
● えきねっとトクだ値の値段
発駅 | 着駅 | 料金 | 種別 |
新宿 | 東武日光・鬼怒川温泉 | 2,860 | トクだ値30 |
池袋 | 東武日光・鬼怒川温泉 | 2,770 | トクだ値30 |
大宮 | 東武日光・鬼怒川温泉 | 2,520 | トクだ値30 |
それでは、これから乗車する区間のパターン別に、具体的なきっぷの買い方をお話ししていきます。なお、この記事では普通車のみ扱い、個室のきっぷについては説明を割愛します。
JR線内のみ乗車する場合
新宿駅から大宮駅までの区間、もしくは八王子駅から大宮駅までの区間のみ乗車する場合、JR線の運賃とB特急料金(指定席)がかかります。
割引料金は特になく、所定運賃・料金を支払うことになります。チケットレス特急券の設定もありません。
乗車券については、紙のきっぷの他、Suicaなど交通系ICカードも使用できます。
【きっぷの発売箇所】
ネット予約システム「えきねっと」を利用するか、JR東日本管内の駅のみどりの窓口もしくは指定席券売機にて購入します。主な旅行会社でも購入可能です。
JR線内で完結するため、東武線内の駅では購入できません。
【きっぷの発売開始時期】
購入する箇所により、発売開始時期が異なります。
● えきねっと:乗車1か月前の10:00分から(1か月7日前14:00分から事前受付)
● 駅のみどりの窓口(JR東日本管内):乗車1か月前の10:00分から
● 駅の指定席券売機(JR東日本管内):乗車1か月前の10:10分から
えきねっとで申し込み、決済した場合、事前に必ずJR駅に立ち寄り、紙のきっぷを受け取ります。東武線内の駅では、受け取ることができません。
JR線と東武線をまたがって乗車する場合
JR大宮駅と東武栃木駅の区間を含み、前後の区間を乗車する場合、JR線の運賃とB特急料金(指定席)、および東武線の運賃と特急料金がかかります。ネット割引料金の「えきねっとトクだ値」を利用できます(列車によって設定区間が異なります)。
両社の接続駅の栗橋駅で改札を通らず、列車に乗ったまま直通するため、乗車券の扱いが特殊です。乗車券として交通系ICカードは使用できず、必ず紙のきっぷを事前に用意します。
紙のきっぷの区間は、特急列車の停車駅の他、周辺の各駅までの通しのきっぷとすることが可能です。JR線と東武線との連絡運輸の設定が広範なため、東武線内の多くの駅と首都圏内のJR線の駅の間の任意の駅で乗車券を購入することが可能です。
【きっぷの発売箇所】
ネット予約システム「えきねっと」を利用するか、JR東日本管内の駅のみどりの窓口もしくは指定席券売機にて購入します。主な旅行会社でも購入可能です。
ネット限定料金「トクだ値」を利用する場合、「えきねっと」で申し込みます(駅では購入不可)。

JR東日本管内の駅の他、東武線内のほとんどの駅でも購入可能です。野岩鉄道線内の駅でも、取次発売の形で特急券を購入できます。
後でお話ししますが、東武線内の駅できっぷを購入する場合、手書きのきっぷとなる場合があります(野岩線の駅を含む)。そのため、きっぷを受け取るまで時間がかかります。
また、JR東日本の駅ではクレジットカードで決済できますが、東武鉄道の駅では現金決済のみです。
【きっぷの発売開始時期】
購入する箇所により、発売開始時期が異なります。
● えきねっと:乗車1か月前の10:00分から(1か月7日前14:00分から事前受付)
● 駅の出札窓口(JR東日本管内・東武線内):乗車1か月前の10:00分から
● 駅の指定席券売機(JR東日本管内):乗車1か月前の10:10分から
えきねっとで申し込み、決済した場合、事前に必ずJR駅に立ち寄り、紙のきっぷを受け取ります。東武線内の駅では、受け取ることができません(JR日光駅で受け取ることは可能)。
東武線内の自動券売機では、JR直通特急のきっぷを購入できません。特急券、乗車券とも、駅の出札窓口で購入します。
東武線内のみ乗車する場合
東武栃木駅以北の区間のみを乗車する場合、東武線の運賃と特急料金がかかります。ネット割引料金はなく、所定の運賃・特急料金を支払います。
乗車券については、紙のきっぷの他、PASMOなど交通系ICカードも使用できます(定期券は不可)。
【きっぷの発売箇所】
東武線内の駅窓口で購入します。特急列車の停車駅ではない、他の駅でも購入できます。主な旅行会社でも購入可能です。JR線区間を含まないため、JR線内の駅では購入できません。
野岩鉄道線、会津鉄道線内の駅でも、取次発売の形で特急券を購入できます。
このパターンでも、特急券および乗車券が手書きのきっぷとなる場合があります。そのため、きっぷを受け取るまで時間がかかります。
余談ながら、特急停車駅以外の駅では、駅員が他の列車に誘導したり、きっぷの購入を他駅に誘導するケースが散見されます。本来あってはならないことなので、正しい対応を求める必要があります。
【きっぷの発売開始時期】
● 駅の出札窓口(東武線・野岩線・会津鉄道線内):乗車1か月前の10:00分から
東武線内の駅にある自動券売機では、JR直通特急のきっぷを購入できません。特急券、乗車券とも、駅の出札窓口で購入します。
JRのマルスシステムを使用しているため、乗車1か月前の前売開始時刻は、9:00分ではなく、10:00分からです。

きっぷに興味ある方は読み進めてください。いずれのきっぷも有効です。
「スペーシア日光・きぬがわ」号の多様なきっぷ
「スペーシアきぬがわ」号をはじめ、JR・東武連絡特急列車の座席管理は、JRのマルスシステムで行われています。
私鉄特急列車の座席管理は、社線のシステムで行うことが多いこともあって、この管理方法は、至って例外的です。
東武特急の場合、東武線内の特急列車は東武鉄道の予約システム、JR連絡特急は上述の通り、マルスシステムと、ハンドリングがとても煩雑です。
このような事情があって、JR・東武連絡特急には、実に多様な様式の紙のきっぷが流通しています。それゆえ、東武鉄道の駅員さんには気の毒ですが、きっぷ鉄的にはとても興味深いです。
JR線内のみのきっぷ
特に変わったきっぷではありません。特別な事情がない限りは、マルス端末で発券された特急券が発行されます。

JR線と東武線とまたがる場合の連絡きっぷ
基本的には、JRのマルス端末から発行されたきっぷが使用されます。JR側の駅で発行されるきっぷはすべて端末券です。また、東武線内の連絡特急の停車駅にはマルス端末が設置されており、同様に端末券が発行されます(東武線の駅ではクレカで決済できません)。

ネット割引料金の「トクだ値」をJR駅で発券したものです。

東武線内の鬼怒川温泉駅で発券されたマルス8.5cmの端末券です。
ところが、東武線内の駅では、マルス端末が設置されている停車駅以外のほぼすべての駅で特急券と乗車券を取り扱っているため、多様なきっぷが存在します。

東武宇都宮線の東武宇都宮駅(栃木県宇都宮市)で購入した、常備式の特急券(写真上方)。着駅に□を付けて発行しますが、着駅がいずれであっても金額は同一です。電話で席番をアサインした後、当該席番を手書きで記載します。
特急券と同時に、連絡乗車券も購入が必要です(写真下方)。東武鉄道のマルチ端末では、野岩線、会津鉄道線以外の他社線にまたがる連絡きっぷを発券できないため、補充券の出番となります。
このケースでは、JR線内の着駅までの手書きの補充片道乗車券が発券されました。接続駅が栗橋駅専用の補充片道乗車券で、有効期間が当日のみに固定されています(途中下車不可)。

常備式特急券が置かれていない東武線内の駅で購入した、スペーシアきぬがわ号の特急券。今は出札業務を行っていない板荷駅(栃木県鹿沼市)で購入したものです。電話で席番をアサイン後、当該席番が手書きで券面に転記されています。電話取次のため、発行まで時間がかかります。
東武線内のみのきっぷ
座席管理システムが東武自前のものではなく、JRのマルスであることがミソです。社線単独の特急券をマルス端末で発行できないため、マルス端末からは指定券(指のみ券)を発券し、特急券本券には、JR連絡特急用の料金補充券が使用されます。

金額が記載された、特急券本券です(写真上方)。列車の停車駅名があらかじめ印字された、駅名式の料金補充券です。このケースでは、指のみ券を添付しているため、特急券本券上に席番の記載はありません。
特急券とあわせて、座席番号入りの指定券(指のみ券)も発行されます(写真下方)。社線単独のため、サイズが12cmとなります。
おわりに
運行形態が特殊な、JR線と東武線の連絡特急列車「スペーシア日光・きぬがわ」号。社線特急の中では、座席管理もこれまた特殊な部類に含まれます。
運行形態やマルスシステムを使用した座席管理が非常に例外的ゆえに、乗車区間やきっぷの購入駅によって、きっぷの発券の仕方が様々です。
結果的に非常に多様な紙のきっぷが存在し、きっぷ鉄にとっては興味深々なわけです。東武鉄道線内では、これ以外にも多くの種類の手売りきっぷが存在し、沼にはまるように、きっぷ鉄の知的欲求を満たしてくれます。
改訂履歴 Revision History
2016年3月08日:初稿
2022年7月14日:第2稿
2022年12月22日:第2稿 修正
2023年4月06日:第2稿 修正
2023年7月04日:第2稿 修正
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