日本全国に網を張るJR線。きっぷの発駅や着駅の組み合わせ、経路のパターンはほぼ無限です。鉄道旅行の旅に、毎回違うきっぷを使うのは、きっぷ鉄の魅力です。
JR線の指定券や自由席券、乗車券などほとんどのきっぷの発券には、マルスシステムが威力を発揮しています。おそらく99%以上のきっぷは、端末券として自動的に発券されます。しかし、マルスが100%の発券リクエストに対応できないことは、十分想定されることです。
端末券として発券できない場合、出札職員が手作業できっぷを発行することになります。JR各社の場合、手作業で発行されたきっぷには「特別補充券」が使用されます。
発券が手作業になる事由の一つとして有名なのが、多経路の普通乗車券です。「経路数オーバー」と呼ばれるものです。
この記事では、筆者が2016年のゴールデンウイーク中に、経路数オーバーの普通乗車券として「特別補充券」を入手した過程を記録しておきたいと思います。
経路数オーバーとは~長大な経路の計算はシステムもお手上げ~
マルスシステムが運賃の自動計算を行うのも、限度があります。100%完璧なシステムなどありません。
普通乗車券の運賃計算において、16経路を超えると「経路数オーバー」と判定され、システムによる自動計算がお手上げになります。ここでいう経路は、あくまでもマルスで認識する経路で、一般的な乗り換えの回数や経由路線の数を意味しません。システム設計的に「2の4乗」が合理的な限界なのかなと推察します。
乗車券の運賃計算が経路数オーバーとなると、端末券を発行できないため、手作業で手書きのきっぷを発行することになります。この手書きのきっぷは、乗車券などの場合「特別補充券」を使用します。
これを逆手にとって、手書きのきっぷで鉄道旅行したいために、長大な経路のきっぷを購入するニーズが発生します。きっぷ鉄が目指すところの一つといえ、乗り鉄派にとってはあこがれの対象です。
究極の経路数オーバーは、いわゆる「最長片道きっぷ」ですが、経路数がオーバーすること自体は、それより短い経路でも比較的容易です。
筆者も経路数オーバーでの手書ききっぷでの旅行を思い立つ

2016年のゴールデンウィークは、月曜日と金曜日に休暇をとれば10連休になりました。この期間を利用して、いつもはできないような何かしらの鉄道旅行をやってやろうと強く思い立ちました。
そこで、きっぷ鉄の沼に入り始めた筆者としては、JR線の手書ききっぷを持って乗り鉄できないかと思案しました。日数的に不可能なので、筆者は最長片道きっぷではなく、かなりの短縮版の行程を組み立てました。
現在、日本全国がフリー乗車区間の日本在住者用のきっぷは存在しません。そのため、全国を一度に旅行する場合は、任意の経路できっぷをオーダーメードすることになります。
訪日外国人で、「Japan Rail Pass(全国版)」を利用できる場合、そのパスで日本全国乗り放題なので、わざわざこのようなきっぷをオーダーする必要はありません。

特別補充券を手にして乗り鉄を楽しむこと自体が、今回の目的でした。そのため、最長距離にはこだわる必要がありませんでした。やろうと思えば、ローカル線をもっと経路に組み込んで、地図上でウネウネの乗車券を作成することも可能なことは可能です。
経路数オーバーの連続乗車券となる経路を考えた

というわけで、今回は究極の連続乗車券として、以下の経路を組み立てました。特急列車が走る線区でもあり、比較的初心者向けの経路といえるでしょう。
手書き作業で発行される特別補充券を入手するための、経路数オーバーとなる経路です。連続乗車券の場合、2券片ともに手書きの特別補充券が使用されます。
今回のような補充券使用案件になると、きっぷの仕上がりまでに時間がかかることなります(発券業務の負荷として、POS端末への売上登録などの工数が多いようです)。
【連続1】東京都区内→函館 880.4km 11,880円
区間数 | 発駅名 | 着駅名 | 線区名 | 運賃計算キロ |
1 | 東京(都区内) | 新青森 | 東北新幹線 | 713.7 |
2 | 新青森 | 新函館北斗 | 北海道新幹線 | 148.8 |
3 | 新函館北斗 | 函館 | 函館本線 | 17.9 |
合計 | 880.4 |
【連続2】函館→熊谷 2,875.9km 26,790円
区間数 | 発駅名 | 着駅名 | 線区名 | 運賃計算キロ |
1 | 函館 | 新函館北斗 | 函館本線 | 17.9 |
2 | 新函館北斗 | 新青森 | 北海道新幹線 | 148.8 |
3 | 新青森 | 川部 | 奥羽本線 | 27.2 |
4 | 川部 | 東能代 | 五能線 | 161.9 |
5 | 東能代 | 大曲 | 奥羽本線 | 108.4 |
6 | 大曲 | 盛岡 | 田沢湖線 | 83.2 |
7 | 盛岡 | (北)福島 | 東北新幹線 | 262.5 |
8 | (北)福島 | 新庄 | 奥羽本線 | 148.6 |
9 | 新庄 | 余目 | 陸羽西線 | 47.3 |
10 | 余目 | 新発田 | 羽越本線 | 128.7 |
11 | 新発田 | 新潟 | 白新線 | 27.3 |
12 | 新潟 | 高崎 | 上越新幹線 | 228.9 |
13 | 高崎 | 長野 | 北陸新幹線 | 117.4 |
14 | 長野 | 篠ノ井 | 信越本線2 | 9.3 |
15 | 篠ノ井 | 塩尻 | 篠ノ井線 | 66.7 |
16 | 塩尻 | 多治見 | 中央西線 | 138.6 |
17 | 多治見 | 美濃太田 | 太多線 | 19.6 |
18 | 美濃太田 | 岐阜 | 高山本線 | 30.0 |
19 | 岐阜 | 大阪 | 東海道本線 | 160.1 |
20 | 大阪 | 天王寺 | 大阪環状線 | 10.7 |
21 | 天王寺 | 和歌山 | 阪和線 | 61.3 |
22 | 和歌山 | 亀山 | 紀勢本線 | 380.9 |
23 | 亀山 | 名古屋 | 関西本線 | 59.9 |
24 | 名古屋 | 東京 | (東海道)新幹線 | 366.0 |
25 | 東京 | 大宮 | 東北本線 | 30.3 |
26 | 大宮 | 熊谷 | 高崎線 | 34.4 |
合計 | 2,875.9 |
【でき上がった手発行の連続乗車券】
連続乗車券の第1券片、第2券片ともに、特別補充券を使用し、発券されました。第2券片の経路数がオーバーしているため、本券の経由欄には「別紙参照」と記載され、別紙が添付されます。別紙の様式は特に規定がなく、発行駅によって業務連絡書だったり、白紙だったりと様々です。

経由を記載した別紙は下図の通りです。この券片の経由に本来含まれる「川部(五能線)~」が抜けているので確認したところ、これで大丈夫だとのこと。明らかに作業ミスでしたが、作り直しを要請するのも酷だと思い、そのまま使用しました。

経路数オーバーとなる乗車券をどの駅でオーダーすべきか?

このような連続乗車券を、どの駅でオーダーするか、慎重に検討しましょう。
今回は、いつも利用する小さな駅のみどりの窓口ではなく、新幹線が停車する大きな駅のみどりの窓口を利用することにしました。
旅行開始の1か月前になると、オーダーを受け付けてくれます。受け付けた実績が多くあるからか、作業をスムーズに行ってくれました。いかんせん、4月上旬の窓口の混雑する時期だったため、仕上がりの電話を駅からもらうまで、ちょうど10日間かかりました。
このような複雑な乗車券をオーダーする場合は、計画を早く行い、時間に余裕をもって実行したいところです。
今回この連続乗車券を作ってもらった駅には外国人客も多く訪れていて、対応する駅員さんも、他の駅に比べて明らかにスキルが高いように感じました。英語もまあまあ通じるので、外国人であっても大丈夫な駅です。
出来上がったきっぷ、カーボン紙が余白領域に写っていて、券面が汚くなっているのが残念なところです(カーボンを使ってくれるだけ親切です)。しかし、きっぷを手にした時には、してやったりという達成感がありました。
特急券などの料金券の予約購入は、乗車券のオーダーと並行して行いました。ネット上で事前受付をして取れなかったところは、幸いありませんでした。しかし、連休最終日の5月5日は、明らかに混雑していました。実際に各列車が大変混雑し、よい修行となりました。
最繁忙期にもかかわらず快く対応してくださった駅員さんには、この場にて感謝申し上げます。
改訂履歴 Revision History
2016年5月01日:初稿
2022年12月14日:第2稿
2023年02月13日:第2稿 修正
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