きっぷの有効区間をすべて使わず、経路の途中の駅から旅行を開始したり(きっぷを使い始め)、途中の駅で旅行を終了したりする(きっぷを使い終わる)ことを「内方乗車」といいます。
きっぷを買う時は乗車する区間を買うのが大原則ですが、内方乗車を活用すると、乗車区間そのまま買うよりも運賃が安くなったり、途中下車できるようになったり、割引きっぷの適用対象になったりと、きっぷの条件が有利になることがあります。
そんなわけで、ケースによっては、内方乗車をおススメしています。内方乗車を活用できる場面は、いくつかパターンがあります。
この記事では、幹線と地方交通線を通しで運賃計算する際に生じうる、営業キロと運賃計算キロ、普通乗車券の有効期間といった要素の組み合わせによって生じることがある珍現象について説明したいと思います。

運賃同額で、途中下車できるだけでなく、対象者は学割や障割できっぷを購入できます!
この記事で紹介するワザは、紙のきっぷとして普通乗車券を買う場合に使えます。交通系ICカード(SuicaやPASMOなど)でSF乗車する場合、下車するたび運賃計算が打ち切られます。その場合、途中下車できる利益が生じないため、このワザを使えないことに留意してください。
内方乗車の活用 おススメの場面
冒頭で申し上げた「内方乗車」は、きっぷの有効区間のすべてに乗車せず、途中の駅から乗り降りすることを指します。有効区間を矢印で表現した場合、途中の駅が内方に位置することから、内方乗車と呼ばれるようになったと考えます。
この内方乗車を活用すると旅客によって有利になるパターンがいくつかあります。それは、次の通りです。
● 乗車券の往復割引が絡む場合
片道で600kmに少し足りない距離を乗車する場合、600kmを超えるように乗車券を購入し、往復割引を適用させます。往復割引できっぷを購入し、内方乗車すると、金額比較によっては旅客にとって有利になる場合があります。
● 乗客属性による各種割引を適用する場合
学割や障害者割引(単独旅行)を適用するためには、片道101km以上の経路である必要があります。また、大人の休日俱楽部(ジパング倶楽部)割引では、片道101km以上(厳密には経路全体で201km以上)必要です。距離が少しだけ足りない場合、内方乗車してきっぷの割引要件を満たすことで、おトクになるケースがあります。
●「えきねっとトクだ値」設定区間で内方乗車
すべての駅間で設定されていないネット限定割引料金「えきねっとトクだ値」において、一つ先の駅に当該料金の設定がある場合、所定運賃を払うよりもトクだ値を買った方が安くなる場合があります。具体的には、仙台駅や越後湯沢駅が該当します。
● 幹線と地方交通線を通しで運賃計算する場合
この記事で扱う観点です。幹線と地方交通線を通しで運賃計算を行う場合、100km前後の経路では営業キロと運賃計算キロに微妙なずれが生じ、それが原因できっぷの効力に差が生じる場合があります。いずれかが100kmをまたぐと、乗車券の有効期間が異なる現象が生じます。
JR線の運賃計算~営業キロと運賃計算キロ~

JR線の運賃計算においては、路線を「幹線」と「地方交通線」に分けて考えます。「幹線」は、都市圏の路線および地域間を結ぶ主要な路線で乗客数が多い路線、「地方交通線」は、地域交通の役割を担うローカル線で乗客数が少ない路線を指します。
旅客収入が多い幹線を運営するコストよりも、旅客収入が少ない地方交通線を運営するコストのほうが、鉄道会社にとって負担感が大きいです。そこで、その負担を平準化するため、地方交通線の賃率は、幹線の賃率よりも高く設定されています。
● 幹線の賃率(本州3社)
第1地帯(300km以下):1kmあたり16.20円
● 地方交通線の賃率(本州3社)
第1地帯(273km以下):1kmあたり17.80円
また、幹線と地方交通線を通しで運賃計算することがあります。上記の賃率を運賃計算に反映させるため、地方交通線の営業キロを割増した「運賃計算キロ」「擬制キロ」を運賃計算に利用します。
したがって、幹線と地方交通線を通しで運賃計算した場合、営業キロが100km以下であっても、運賃計算キロが101km以上となるケースが生じ、運賃表上の刻みが1段上がった高額な運賃が適用される可能性があります。
普通乗車券の有効期間~運賃表とのギャップ~
一方、普通乗車券の有効期間は、営業キロベースで決まります。
営業キロ100km以下の場合は当日限り有効、101km-200kmの場合は2日間有効です(大都市近郊区間相互発着を除く)。
有効期間が当日の場合は途中下車不可ですが、2日間以上の場合、途中下車が可能となります。
幹線区間だけを乗車する場合、営業キロ=運賃計算キロです。例えば、乗車する経路が101km-120kmの距離帯であれば、運賃額は1,980円で2日間有効となります(途中下車可能)。運賃額と有効期間の間には、齟齬がありません。
一方、経路上に地方交通線が含まれる場合はどうでしょうか。算出された運賃計算キロが101km-120kmで、1段高い運賃が適用される場合であっても、営業キロそのものは100km以下です。
そのため、幹線区間だけならば途中下車が本来可能な、101km-120kmの距離帯が適用される運賃額であっても、地方交通線が含まれると有効期限が当日限りとなります。つまり、途中下車できない事態が生じます。
ここまでご説明した概説だけでは、いまいちピンと来ないと思います。これから、筆者のエピソードを交え、具体例を挙げていきたいと思います。
内方乗車を活用する実例
これから、筆者の実際のエピソードを含め、実例を3つご紹介します。内方乗車の活用が、とても使えるワザということをお示ししたいと思います。
函館本線 旭川駅→留萌本線 増毛駅

距離帯が同じで運賃額が見かけ同額でも、乗車券の有効期間が異なるケースが発生することをお話ししました。ここで、一つ目の事例をみましょう。
函館本線旭川駅(北海道旭川市)から留萌本線増毛駅(北海道増毛町)までの経路が、これに該当します(現在、留萌本線の一部区間は廃止)。実際の計算結果を、さっそくご覧いただきたいと思います。
運賃表上の刻みでは101km-120kmになりますが、営業キロそのものは、微妙に100kmを割ってしまいます。営業キロベースできっぷの有効期間が判定されるため、有効期間は当日限りです。つまり、途中下車できません(下車前途無効)。

【旭川駅 → 増毛駅】
経由:函館本線、留萌本線
JR北海道営業キロ:97.0km/運賃計算キロ:103.7km
普通片道運賃:大人2,420円/学割・障割(単独)適用なし
普通片道乗車券の有効期間:当日限り (下車前途無効)
ちょっと損した感じですね。
そこで、区間を東に少し延ばしてみると、運賃額が同一ながら、営業キロも微妙に100kmを超える範囲になる駅が存在することを発見しました。
【新旭川駅 → 増毛駅】
経由:宗谷本線、函館本線、留萌本線
JR北海道営業キロ:100.7km/運賃計算キロ:107.8km
普通片道運賃:大人2,420円/学割 1,930円/障割(身・療:単独)1,210円
普通片道乗車券の有効期間:2日間(途中下車可)
旭川駅発と新旭川駅発では運賃が同額ながらも、営業キロのマジックで、有効期間が異なります。つまり、発駅/着駅の決め方次第では、途中下車ができるきっぷに化けます。ついでながら、学割や障割(単独旅行)が適用可能となるメリットがでてきます。
筆者は当時、経路途中の深川駅や留萌駅で途中下車を予定していました。当然、下車前途無効では困ったので、この計算結果をありがたく思いました。
旭川駅から実際に乗車を開始したため、このケースでは内方乗車に該当します。途中下車できることが、分かりやすいメリットです。実際のきっぷは次の通りです(某簡易委託駅で発券してもらったため、マルス券ではなく出札補充券です)。

札沼線 当別駅→室蘭本線 苫小牧駅

2つ目の実例も、同じくJR北海道管内の区間です。札沼線当別駅(北海道当別町)から札幌駅、千歳駅(北海道千歳市)、植苗駅(北海道苫小牧市)経由で室蘭本線苫小牧駅(北海道苫小牧市)に至る普通乗車券にも、全く同じ現象が発生します。

【当別駅 → 苫小牧駅】
経由:札沼線、函館本線、千歳線
JR北海道営業キロ:98.7km/運賃計算キロ:101.3km
普通片道運賃:大人2,420円/学割・障割(単独)適用なし
普通片道乗車券の有効期間:当日限り (下車前途無効)
そこで、隣の駅で運賃計算してみると、運賃額が同一ながら、営業キロも微妙に100kmを超える範囲になる駅が存在します。
【北海道医療大学駅 → 苫小牧駅】
経由:札沼線、函館本線、千歳線
JR北海道営業キロ:101.7km/運賃計算キロ:104.6km
普通片道運賃:大人2,420円/学割 1,930円/障割(身・療:単独)1,210円
普通片道乗車券の有効期間:2日間(途中下車可)
当別駅から実際に乗車する場合でも、乗車券は北海道医療大学駅から買うようにします。そうすると、運賃額は同じにもかかわらず、途中下車できるし、学割や障割も使え、きっぷの効力に融通を利かせることができるようになります。
身延線 下部温泉駅 → 中央本線 茅野駅

次の実例では、本州内の区間を考えてみましょう。JR東海管轄の身延線下部温泉駅(山梨県身延町)からJR東海/東日本の境界駅の甲府駅を経由し、JR東日本管轄の中央本線茅野駅(長野県茅野市)までの経路も、この事象に該当します。

【下部温泉駅 → 茅野駅】
経由:身延線、中央本線
営業キロ:97.8km/運賃計算キロ:101.5km
普通片道運賃:大人1,980円/学割・障割(単独)適用なし
普通片道乗車券の有効期間:当日限り (下車前途無効)
そこで、隣の駅で運賃計算してみると、運賃額が同一ながら、営業キロも微妙に100kmを超える範囲になる駅が存在します。
【下部温泉駅 → 上諏訪駅】
経由:身延線、中央本線
営業キロ:104.5km/運賃計算キロ:108.2km
普通片道運賃:大人1,980円/学割 1,580円/障割(身・療:単独)990円
普通片道乗車券の有効期間:2日間(途中下車可)
この場合、下部温泉駅できっぷを買う際、茅野駅ではなく、一駅先の上諏訪駅まで乗車券を買います。運賃が同額でも、有利な効力を持つきっぷが手に入ります。このきっぷの経路には東京近郊区間が一部含まれますが、身延線が東京近郊区間の範囲外なため、一般原則通りに途中下車できます。
まとめ

経路上に幹線と地方交通線が含まれる場合、100km前後の区間においては、運賃が同額でもきっぷの購入条件やきっぷの効力に差が出ることがあります。
その場合、実際乗車する区間に加えて、乗らない1駅間を含めてきっぷを買い、内方乗車したほうが乗客にとってメリットがあります。
そのメリットとして、
● 学割、障割(単独旅行)の適用が可能
● 途中下車が可能(大都市近郊区間を除く)
といったことが挙げられます。
大都市近郊には地方交通線が少ないため、このワザを活用できるのは、専ら地方を旅行する場合になります。ちょっとしたマジックですが、賢く鉄道を利用したいところです。
参考資料 References
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 77条(幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃)
第77条 幹線内相互発着となる場合の大人片道普通旅客運賃は、次の各号により計算した額を合計した額とする。ただし、北海道旅客鉄道会社線、四国旅客鉄道会社線又は九州旅客鉄道会社線内発又は着若しくは通過となる場合を除く。
(1) 発着区間の営業キロを次の営業キロに従つて区分し、これに各その営業キロに対する賃率を乗じた額を合計した額。この場合、発着区間の営業キロが100キロメートル以下のときは、10円未満のは数を10円単位に切り上げた額とし、100キロメートルを超えるときは、50円未満のは数を切り捨てて、又は50円以上のは数を切り上げてそれぞれ100円単位とした額とする。
300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯) 1キロメートルにつき 16円20銭
300キロメートルを超え、600キロメートル以下の営業キロ(第2地帯) 1キロメートルにつき 12円85銭
600キロメートルを超える営業キロ(第3地帯) 1キロメートルにつき 7円05銭
(2) 前号の規定により計算した額に100分の10を乗じ、10円未満のは数を円位において四捨五入して10円単位とした額(以下この方法を「四捨五入」という。)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 81条(幹線と地方交通線を連続して乗車する場合の大人片道普通旅客運賃)
第81条 幹線と地方交通線を連続して乗車する場合の大人片道普通旅客運賃は、発着区間の運賃計算キロに基づき、第77条の規定を準用して計算した額とする。ただし、北海道旅客鉄道会社線、四国旅客鉄道会社線又は九州旅客鉄道会社線内発又は着若しくは通過となる場合を除く。
改訂履歴 Revision History
2016年7月25日:初稿
2022年9月28日:第2稿
2022年12月22日:第2稿 修正
2023年4月06日:第2稿 修正
2023年7月03日:第2稿 修正
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