JR東日本の「大人の休日俱楽部」会員になると、JR東日本・北海道管内の運賃および料金の割引を受けられる。片道・往復・連続いずれかの一件の乗車券において、通算で201km以上JR線に乗車する場合、JR線区間の運賃および料金が割引される(ミドル会員:5%、ジパング会員:20/30%)。
一方で、当該乗車券には、JR線内のみならず、設定がある他社線の区間を含めることが可能である(連絡運輸)。つまり、連絡運輸の乗車券に関しても、大人の休日俱楽部会員割引を受けることができる。この場合も、上述の通りJR線区間だけで201km以上乗車すること、運賃・料金割引はJR線区間のみに適用となることが条件になる。
この記事では、大人の休日俱楽部会員向けの乗車券および料金券(特急券、グリーン券など)の割引適用について、連絡運輸もしくは通過連絡運輸ではどのように適用されるかを、2、3のケースを題材にして考察していきたい。
この記事は、鉄道の運賃計算および連絡運輸に関する上級クラスの知識があるマニアやプロ向けである。一般の方には、難解であることをあらかじめお断りしておきたい。
※ 「連絡運輸」:自社区間以外に条件を満たした他社線区間を一件の乗車券に含めること
※ 「通過連絡運輸」:自社区間の途中に他社線区間を経路として含み、自社区間の運賃計算を前後の区間で通算して行うこと
運賃計算における遠距離逓減制
鉄道の普通旅客運賃において、運賃計算キロ数が多ければ多いほど1キロ当たりの運賃単価が低く設定されていることから、乗車区間ごとに運賃計算を細かく打ち切るよりも、複数の乗車区間について通しで運賃計算を行い、途中下車を活用したほうがトータルで安価になる。これは、旧国鉄時代の旅客運賃制度のレガシーで、とても優秀な制度設計であると考える。
したがって、鉄道旅行する場合、できるだけ一筆書きの経路で旅行し、途中下車制度を活用しつつ、大回りで長距離を乗車したほうが旅客にとっては運賃上有利ということがいえる。
この記事において、連絡他社線の連絡運輸や通過連絡運輸をできるだけ取り入れようというのも、この運賃が長距離になればなるほど逓減されるという原則が根底の考え方にある。
例えば、東武鉄道においては、20kmの区間で運賃が320円だとすると、100kmの区間では理論的には1,600円に相当するはずである。しかし、実際は100kmの区間で1,080円である。東武鉄道のケースはかなり明瞭といえるが、乗車する距離が長ければ長いほど、キロ単位の単価が低いということである。
遠距離逓減制をいかに最大限活用するか
この原則を活かして運賃計算を行う場合、自社線の通しの区間の運賃計算キロを可能な限り長くするということである。その考え方を実装するワザは、筆者個人的には「連続乗車券」および「通過連絡運輸」にあると考える。
通過連絡運輸において、自社線の200kmの区間と300kmの区間の各区間の途中に他社線区間が含まれている場合、それらを別々に打ち切って運賃計算するのではない。合算して500km分として運賃計算できるため、本来おトクな運賃計算が可能である。ICカード普及を口実に、通過連絡運輸制度が縮小されているのは残念な限りである。
大人の休日俱楽部会員割引を適用する上で、連続乗車券を活用するのは多大な利点がある。ジパング会員の「JR乗車券購入証」の必要枚数を節約できたり、割引適用可能な区間をより拡げるという良い効果がある。
蛇足だが、JR線と接続社線の区間の合計で101km以上あれば、途中下車が原則可能である(*)。大人の休日俱楽部運賃割引の判定においては、JR線区間のみで通算201km以上乗車することが割引の要件になる。混同されないようにしたい。
* JR東日本の大都市近郊区間内にある社線に関しては、通算101km以上でも接続駅以外での途中下車は不可
「大人の休日俱楽部会員」割引乗車券に組み込み可能な他社線
JR東日本・北海道管内において連絡運輸の契約が取り交わされている会社は依然数多く、大人の休日俱楽部会員割引が適用されうる普通乗車券を購入できる機会が比較的多いと考える。ただし、通過連絡運輸となると、以下数社のケースに限られる。
● 青い森鉄道
● IGRいわて銀河鉄道
● えちごトキめき鉄道
● 北越急行【連続乗車券の設定あり】
● しなの鉄道 (区間は限定的)
普通の連絡運輸では、以下の社線もあわせて考えられる。
● 東武鉄道 【連続乗車券の設定あり】
● ひたちなか海浜鉄道 (区間は限定的)
● 真岡鉄道 (区間は限定的)
● 伊豆急行 【連続乗車券の設定あり】
● 富士急行(区間は限定的)
これらの社線区間を乗車券の経路に含めることができるが、運賃および料金の割引はあくまでもJR線区間の分のみであることを留意されたい。
いま筆者が述べたことを、次の2件のケーススタディーで実際に考察してみたい。
ケース1:通過連絡運輸が適用される連続乗車券【北越急行】

1件目のケースは、経路上に「通過連絡運輸」が含まれる「連続乗車券」である。遠距離逓減制を運賃計算に最も活かすことができる理想的な形態である。これらの両方の要件が同時に満たされるのは、JR東日本管内においては現状、新潟県を走る北越急行線(ほくほく線)のみである。
実際に、次の経路で北越急行線の通過連絡運輸を含む連続乗車券を「大人の休日俱楽部」割引適用で購入し、乗車してみた。
[大宮駅(高崎線)高崎駅(上越線)六日町駅(ほくほく線)十日町駅(飯山線)飯山駅【新幹線】高崎駅 ]

大宮駅から逆時計周りの周回経路で旅行し、途中の高崎駅で経路が一周するので、高崎駅にて運賃を打ち切る連続乗車券が成立する。連絡運輸が含まれる場合、当該社線との間で連続乗車券を発売できる契約が結ばれていることが要件であるが、北越急行線についてはこの要件を満たすので、通過連絡運輸の形でも連続乗車券として成立するわけである。
以下が実際に購入した連続乗車券の経路である。
【連続1】
[大宮駅(高崎線)高崎駅(上越線)六日町駅(ほくほく線)十日町駅(飯山線)飯山駅【新幹線】高崎駅 ]
発駅 | 経由路線 | 着駅 | 計算キロ | 所定運賃 | 適用運賃 | 備考 |
大宮 | (高崎線) | 高崎 | 74.7 | |||
高崎 | (上越線) | 六日町 | 111.8 | |||
(北越)六日町 | (北越急行線) | (北越)十日町 | 15.9 | 340 | 340 | 通過連絡運輸 |
十日町 | (飯山線) | 飯山 | 61.7 | |||
飯山 | (北陸新幹線) | 高崎 | 147.3 | |||
JR線合計 | 395.5 | 6,600 | 6,270 | JR区間通算 | ||
小計(a) | 411.4 | 6,940 | 6,610 | 大休05割引適用 |

【連続2】
[高崎駅【新幹線】大宮駅]
発駅 | 経由路線 | 着駅 | 計算キロ | 所定運賃 | 適用運賃 | 備考 |
高崎 | (上越新幹線) | 大宮 | 74.7 | 1,340 | 1,270 | |
小計(b) | 74.7 | 1,340 | 1,270 | 大休05割引適用 |

【運賃合計】
連続1/2合計(a+b) | 486.1 | 8,280 | 7,880 | 大休05割引適用 |

連続乗車券に付随する割引適用の料金券
大人の休日俱楽部割引が適用された所定運賃ベースの乗車券の経路上で運行される特急列車やグリーン車の料金券についても、乗車距離制限なしに大人の休日俱楽部割引が適用される。
今回は、経路全体が大人の休日俱楽部割引適用となるため、全区間において料金の割引が適用になる。以下が、今回購入したグリーン券と新幹線特急券である。
発駅 | 経由路線 | 着駅 | 計算キロ | 所定料金 | 適用料金 | 備考 |
大宮 | (高崎線) | 高崎 | 800 | 760 | 普通列車用グリーン券(ホリデー) | |
飯山 | (北陸新幹線) | 大宮 | 4,060 | 3,850 | 新幹線特急券(指定席・通常期) | |
料金合計 | 4,860 | 4,610 |


今回購入した連続乗車券および料金券を使って乗り鉄に出かけた体験については、次の記事をご一読いただきたい。
通過連絡運輸もしくは連続乗車券として成立しない場合は。。。
本ケースは、通過連絡運輸と連続乗車券が同時に成立するものであるが、通過連絡運輸や連続乗車券の設定がない場合を仮定し、考察してみたい。
上記にて実際に購入した割引適用の連続乗車券においては、途中高崎駅にて運賃計算を打ち切った。
北越急行と通過連絡運輸の設定がない場合を仮定すると、JR線の前後の区間の営業キロを通算できず、途中の十日町駅で運賃計算を打ち切ることになる。一組の連続乗車券として、JR線の営業キロ数が201km以上あるため、全区間に大人の休日俱楽部割引が適用されるが、遠距離逓減制をフルに活用できないため、高崎駅で打ち切った場合と比較して600円運賃が高くなる。
さらに、北越急行と連続乗車券発行の設定がない場合を追加で仮定すると、十日町で運賃計算を打ち切った上で、前後を別々の片道乗車券として発行することとなる。すると、連続1に相当する区間について、大人の休日俱楽部割引適用になる201kmの距離条件を満たせず、運賃が無割引となってしまう。
運賃計算上、通過連絡運輸および連続乗車券を活用することが旅客にとっていかに有利に働くかがお分かりになったことと思う。

【連続1】
大宮駅ー(高崎線)ー高崎駅ー(上越線)ー六日町駅ー(ほくほく線)ー十日町駅
発駅 | 経由路線 | 着駅 | 計算キロ | 所定運賃 | 適用運賃 | 備考 |
大宮 | (高崎線) | 高崎 | 74.7 | |||
高崎 | (上越線) | 六日町 | 111.8 | |||
(北越)六日町 | (北越急行線) | (北越)十日町 | 15.9 | 340 | 340 | 連絡運輸 |
JR線合計 | 186.5 | 3,410 | 3,230 | |||
小計(a) | 202.4 | 3,750 | 3,570 | 大休05割引適用 |
【連続2】
十日町駅ー(飯山線)ー飯山駅ー(新幹線)ー大宮駅
発駅 | 経由路線 | 着駅 | 計算キロ | 所定運賃 | 適用運賃 | 備考 |
十日町 | (飯山線) | 飯山 | 61.7 | |||
飯山 | (新幹線) | 大宮 | 222.0 | |||
小計(b) | 283.7 | 5,170 | 4,910 | 大休05割引適用 |
【運賃合計】
連続1/2合計(a+b) | 486.1 | 8,920 | 8,480 | 大休05割引適用 |

ケース2:連続乗車券に通過連絡運輸を含められない場合【えちごトキめき鉄道】
2件目のケースでは、連絡運輸および通過連絡運輸の設定自体はあるが、発行できる乗車券の種別が片道乗車券および往復乗車券のみで、連続乗車券が対象外となっている場合を考えたい。
筆者は、新潟県を走るえちごトキめき鉄道を通過連絡運輸の区間に含め、連続乗車券として成立するか否かを考えた。その結果については、以下の記事をご一読いただきたい。
参考資料 References
● 旅客鉄道株式会社旅客連絡運輸規則別表から抜粋
(215)北越急行
六日町 (片、往、続)
十日町 (片、往、続)
犀潟 (片、往、続)
連絡運輸区域
[東] 東京都区内、横浜市内、仙台市内、 東海道本線(大船-平塚間、小田原、熱海)、 武蔵野線、横須賀線、中央本線(吉祥寺-高尾間、大月、塩山、山梨市、石和温泉、甲府)、東北本線(川口-小山間、宇都宮、戸田公園-北与野間)、常磐線(松戸-取手間)、 川越線(日進-川越間)、高崎線、上越線(高崎問屋町-塩沢間、 五日町-越後滝谷間、上毛高原)、両毛線(桐生-前橋間)、羽越本線(新発田、中条、坂町、村上、鶴岡、酒田)、信越本線(長野、直江津、黒井、土底浜-新潟間、燕三条)、 飯山線(飯山、戸狩野沢温泉-土市間、魚沼中条-内ヶ巻間)、総武本線(市川-千葉間)、京葉線、成田線(空港第2ビル、成田空港)各駅
[海] 名古屋市内、東海道本線(東京、新横浜、小田原、熱海、静岡、浜松、大垣)各駅
通過連絡運輸設定区域
北越急行線(JR接続駅:六日町、十日町、犀潟)を経由して、以下の区域の相互間
東日本会社線(JR東日本)各駅及び米原、京都、新大阪を除く東海会社線(JR東海)各駅(※1)
(※1) 東海道線(東京、新横浜、小田原、熱海・醒ヶ井間、(東)荒尾、美濃赤坂)、御殿場線、身延線、 飯田線、武豊線、中央本線、太多線、高山本線、関西本線、紀勢本線、名松線、参宮線各駅
改訂履歴 Revision History
2021年10月01日:初稿
2022年7月21日:初稿 修正
2023年4月08日:初稿 修正
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