JRの大都市近郊区間制度が適用される経路の場合、途中下車ができない代わり、改札口から出場しない限り、任意の経路で大回り乗車できるのは、皆さまご周知のことだと思います。
大都市近郊区間内の移動では、最低区間運賃のきっぷで大回り乗車したいというニーズがある一方で、実経路に基いた通しの乗車券をあえて購入して、途中下車しながら移動を楽しみたいというニーズもあることでしょう。
一般的には、途中下車が可能か否かを考えるのにあたっては、JR線のキロ程のみを考慮することが多いかと思います。JR線単独では100kmに満たない行程で、途中下車できないとあきらめることも多いのではないでしょうか。
しかし、JR線以外の社線にまたがる「連絡運輸」の制度を活かし、連絡社線と通しの一枚のきっぷとすることで、各々のキロ程を通算しての途中下車可否の判定が可能となります。つまり、接続する社線を含めて101km以上になれば、途中下車できる可能性が出てくるということです。
この記事では、本来途中下車ができない大都市近郊区間内にある駅相互間の普通乗車券を、途中下車ができる普通乗車券に変えるためのワザを検討していきます。そのための方法として、たった今述べた「連絡運輸」が適用された通しの普通乗車券をケーススタディとして考察してみたいと思います。
途中下車が可能となるための要件
実は、途中下車できないケースが旅客営業規則などで次の通り規定されていて、これらのケース以外は途中下車が可能です(*)。
● 片道100km以下の普通乗車券
● 大都市近郊区間相互発着のもの(新幹線は含まれない)
● 連絡運輸の区間が大都市近郊区間に接続する社線として指定されているもの(**)
連絡運輸の普通乗車券においては、JR線の区間と社線の区間それぞれを合算した全区間のキロ程をもって、途中下車の可否を判定します(***)。
本当は、途中下車できないのは、あくまでも例外です。しかし、現実的には大都市近郊区間が絡んだとたん、その原則と例外が逆転して、いかにして途中下車可能にするかと頭をひねることになります。
* 旅客営業規則156条、旅客連絡運輸規則76条
** 旅客連絡運輸規則75条1項1号イ
*** 旅客連絡運輸規則76条1号
連絡社線と通算で101km以上の経路だけど途中下車できない

ここで、一つのケーススタディとして取り上げるのは、伊豆箱根鉄道大雄山線の大雄山駅(神奈川県南足柄市)が発駅、JR東海道本線の小田原駅(神奈川県小田原市)が接続駅、JR埼京線の北赤羽駅(東京都北区)が着駅となる普通片道乗車券です。

区間 | 線区 | キロ程 | 運賃 |
大雄山-小田原 | 伊豆箱根鉄道 | 9.6 | 280 |
小田原-東京 | JR東海道本線(東日本) | 83.9 | 0 |
東京-北赤羽 | JR東北本線 | 14.7 | 1,690 |
合計 | 108.2 | 1,970 |
JR東海道本線と伊豆箱根鉄道大雄山線との間には連絡運輸の設定があり、大雄山線内の駅と東京都区内の駅までの相互間で通しのきっぷを購入することができました(★)。
さらに、JR線と連絡社線である伊豆箱根鉄道線それぞれのキロ程を合算すると101km以上となり、原則的には途中下車が可能となるはずです。
しかし、小田原駅と北赤羽駅ともに、東京近郊区間内の駅です。また、伊豆箱根鉄道線を含む乗車券の有効期間は1日間と規定されています。そのため、残念ながら上記の券面には「下車前途無効」と記載されており、途中下車が不可となります。
(★)JR線と伊豆箱根鉄道大雄山線との連絡運輸の設定ですが、2022年3月をもって普通乗車券については対象外となりました。現在はこの経路が一枚の普通乗車券として成立しないことをご留意ください。
途中下車が可能になるマジック

それでも、どうしてもこの乗車券を途中下車可能なものにできないか、筆者は頭をひねりました。その結果、次の条件を追加することで、途中下車できるものとなりました。
● 経路に東海道新幹線を含める
● 選択乗車において在来線に乗車する
たったこれだけのことですが、新幹線が大都市近郊区間に含まれないことがカギとなることを覚えておくとかなり違います。
区間 | 線区 | キロ程 | 運賃 |
大雄山-小田原 | 伊豆箱根鉄道 | 9.6 | 280 |
小田原-東京 | JR東海道新幹線(東海) | 83.9 | 0 |
東京-北赤羽 | JR東北本線 | 14.7 | 1,690 |
合計 | 108.2 | 1,970 |
上述の通り接続社線との通算キロ程が101km以上となるのが大前提になりますが、上記の乗車券の経由線区を「新幹線」とすることにより、有効期間が2日間の途中下車可能な乗車券に生まれ変わります(その区間は、小田原駅-東京駅でもよいし、品川駅-東京駅でもよいです)。
小田原駅-品川駅間は在来線と新幹線で別線区間とみなされますが、いずれか一方を選択して乗車することができます(*****)。乗車券の経由を「新幹線」と指定し、実際には在来線を選択して乗車するというのがワザというわけです。
***** 旅客営業規則157条20号
大都市近郊区間外となる新幹線の区間
この記事でお話しした東海道新幹線以外にも、大都市近郊区間を外れる新幹線の区間があり、首都圏では次の通りです。
● 東海道本線(新幹線):東京駅ー熱海駅間
● 東北本線(新幹線):東京駅ー那須塩原駅
● 高崎線(新幹線):大宮駅ー高崎駅
東京近郊区間はとてつもなく広大で、それゆえ長大な経路の乗車券の有効期間が当日限りという笑えないケースが生じます。それを避けるために、経路上に新幹線の区間を含める工夫が必要となります。
こぼれ話:えきねっとの仕様が複雑なことったら・・・
こぼれ話として、この経路の乗車券を「えきねっと」で仕込むことが可能でした。新幹線経由で経路を確定させることができたまでは良かったのですが、JR東海の区間を含む場合の決済手段がオンラインクレカ決済に限られるため、それが嫌で在来線経由で発券しました。
えきねっとを上手に活用できると便利なのですが、謎な仕様が多く、つまずくことも多々あります。
参考資料 References
● JR東日本 旅客営業規則
● JR東日本 旅客連絡運輸規則
https://www.jreast.co.jp/kippu/yakkan/pdf/transportation.pdf
改訂履歴 Revision History
2022年3月23日:初稿
2022年5月11日:初稿 タイトル変更・本文修正
2022年5月16日:初稿 修正
2022年6月21日:初稿 修正
2023年3月03日:初稿 修正
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