2022年3月より、山形新幹線「つばさ」号の座席が、全車指定席化されました。他にも、東北・北海道新幹線「はやぶさ」号、「はやて」号、秋田新幹線「こまち」号、そして北陸新幹線「かがやき」号にも自由席の設定はなく、全車指定席です。
これらの全車指定席の列車については、座席指定を受けなければ乗車してはならないと筆者も思い込んでいました。しかし、必ずしも座席指定を受けていなければ乗車できないわけではないことを、後になって知りました。
一部の特定区間については、通常の指定席特急券よりも料金が低廉な「特定特急券」というものが存在します。特定特急券としての条件はありますが、通常の指定席特急料金よりも節約することが可能です。
「特定特急券」は、上述した全車指定席の列車に限らず、自由席車両があるその他の列車にも設定があります。名称としては「特定特急券」と一括りで呼ばれますが、目的や状況によっていくつかバリエーションがあります。

一部区間で使用できる新幹線特定特急券は旅費節約の一手ですが、座席が確保されません。繁忙期や混雑時には座れないことがあるので、指定券購入を。
この記事では、筆者が実際に北海道新幹線の区間を「新幹線特定特急券(立席)」で乗車した体験を踏まえて、「特定特急券」とはどのようなものか、どういうケースに購入できるのか、ケース別に整理してご説明します。
また、この記事では「特定特急券」に加え「立席特急券」についても説明します。営業規則上は全く異なるきっぷでいつでも購入できるわけではありませんが、イレギュラーな状況に対応するきっぷという点ではとてもよく似ています。
「特定特急券」はどのようなものか~存在する背景~

新幹線が開業する前には、同じ区間を在来線特急列車が走っていました。在来線の特急料金よりも新幹線の特急料金は、特に指定席では高額になり、近距離利用者にとっては経済的負担が大きいです。
また、山形新幹線「つばさ」号のような、従前自由席が設定されていた列車が全車指定席に変更され、自由席特急料金よりも高額な(指定席)特急料金を負担しなければならない状況が発生しています。
全車指定席の列車がいつでも満席なわけではなく、空席の利用を促進する状況もあると考えられます。一方で、多客期において全車指定席の列車が軒並み満席な時期に、どうしてもその列車に乗車しなければならない事情も考えられます。
混雑等で指定券を入手できなくても、最終手段として購入できる特定特急券(もしくは立席特急券)は、移動の自由と権利を保障する役割を担っているといえます。
これらが背景で、一般の(指定席)特急券や自由席特急券とは別に、イレギュラーな状況に対応する「特定特急券」が存在すると考えます。
誤解しないように申し上げておくと、あくまでも上記の特別の事情やイレギュラーに対応するための特定特急券(および立席特急券)であって、節約を目的として特定特急券が発売されているわけではありません。
「特定特急券」および「立席特急券」には、次に列挙する通り、いくつかのバリエーションがあります。
新幹線
● 隣接する駅間に設定された「新幹線特定特急券」(自由席車両利用)
● 「のぞみ」号「みずほ」号の「新幹線自由席特急券/特定特急券」(自由席車両利用)
● 列車が満席の場合に立席承知で発売される「新幹線立席特急券」(座席には座れない)
● 東北・北海道・秋田・山形新幹線の一部区間で設定された「新幹線特定特急券(立席)」(指定席車両空席を利用)
在来線
● 列車が満席の場合に立席承知で発売される「立席特急券」(座席には座れない)
いずれのケースでも、指定席特急料金より低額なこと、そして着席が保証されないことが共通しています。
特定特急券の他、JR東日本の一部の特急列車に設定されている「座席未指定券」が存在しますが、似て非なるものです。両者とも着席は保証されないものの、料金設定の考え方が根本的に異なります。
これから、特定特急券の各ケースを深掘りしたいと思います。
隣接する新幹線駅間に設定された「新幹線特定特急券」【自由席】

新幹線の短距離区間利用者にとって、指定席料金の負担が重いことから、自由席に限って料金を軽減する趣旨で設定されたものです。
隣接した1駅間の自由席利用の特急料金は、基本ルールの
[通常期の指定席特急料金]-530円
ではなく、特定の料金が設定されています。実質的に「新幹線自由席特急券」の隣接した1駅間用の自由席特急券と考えればよいでしょう(1駅間ではない例外もあり)。
隣接駅間に設定された「新幹線特定特急券」の料金は、下表のとおりです。
新幹線運行会社 | 50km以下 | 51km以上 | 備考 |
JR東日本・JR西日本(北陸) | 880円 | 1,000円 | |
JR北海道 | 1,330円 | 1,520円 | 指定席車両の空席を利用 |
JR東海・JR西日本(山陽)・JR九州 | 870円 | 990円 |
なお、九州新幹線の新八代駅ー川内駅間には「特定特急券」の設定がありません。
使用する設備は常に自由席のため、ネット上の「えきねっと」や駅の指定席券売機でも購入することができます。また、「EX予約」や「新幹線eチケット」の利用も可能です。
自由席車両の座席に着席することができます(満席時の着席保証なし)。

このきっぷは、大宮駅(さいたま市大宮区)から熊谷駅(埼玉県熊谷市)まで上越・北陸新幹線の「あさま」号の自由席で筆者が移動した際に使用した「新幹線特定特急券」です。乗車日と乗車区間のみ指定されたシンプルな券面です。

続いて、大宮駅から東京駅までの「新幹線特定特急券」です。
東京駅を発着する場合は少し特殊で、上野駅発着の新幹線特急料金に一律210円(大人)を加算します。この場合、大宮駅ー上野駅間の料金880円+加算分210円=1,090円となります。
隣接駅間が原則であることをお話してきましたが、このケースをはじめ、元々の隣接駅間に新駅が開業し、2区間分になった場合など、いくつか例外があります(例:熊谷駅ー高崎駅間)。
「のぞみ」号「みずほ」号の「新幹線特定特急券」【自由席】

東海道・山陽・九州新幹線においては、「のぞみ」・「みずほ」号の新幹線特急料金(a)と「ひかり」・「こだま」・「さくら」・「つばめ」号の新幹線特急料金(b)が異なります。
新幹線特急料金(a)のほうが新幹線特急料金(b)よりも高額で、基本ルールに従う限り自由席利用の特急料金(a)も本来高額になるはずです。しかし、自由席利用の特急料金に関しては、すべての列車で同額です。
[自由席新幹線特急料金(a)]=[自由席新幹線特急料金(b)]
この場合、「のぞみ」号および「みずほ」号の自由席特急料金が本来の金額よりも低額であるため「特定特急券」と呼ばれます。

実際のきっぷの券面には「新幹線自由席特急券/特定特急券」と記載されます。
列車が満席の場合に立席承知で発売される「新幹線立席特急券」
全車指定席の列車において、すべての座席が売り切れた状況で立席承知で乗車するため、座席に着席することはできません。
この場合の特急料金は、[通常期の指定席特急料金]-530円 となります。
この特急券は「えきねっと」などでは購入できず「新幹線eチケット」も利用できません。特急券は、駅の窓口で購入します。
厳密にいうと、旅客営業規則上は「立席特急券」に区分されます。
東北・北海道・秋田・山形新幹線の一部区間で設定された「新幹線特定特急券(立席)」

東北・北海道・秋田・山形新幹線の一部区間(上図実線表示の区間)において発売される「新幹線特定特急券」では、普通車指定席車両の空席に着席することができます。列車が空いている時期や時間帯においては、実質的に料金を節約できるきっぷの買い方だと考えます。
ただし、座席指定されないため、着席は保証されません。したがって、着席した座席の指定席特急券を所持した乗客が現れた場合には、座っていた席を譲る必要があります。
ネットでは購入できないけど駅で購入可能
満席時には着席できないため、着席保証がない代わりに低廉なのが「新幹線特定特急券(立席)」と言えるでしょう。
確実に着席したい場合は、通常の「(指定席)新幹線特急券」を購入して、座席指定を受けてから乗車します。

このきっぷは、新青森駅(青森県青森市)から奥津軽いまべつ駅(青森県今別町)まで北海道新幹線の「はやて」号の普通車指定席の空席に利用し、筆者が移動した際に使用した「新幹線特定特急券(立席)」です。乗車日と乗車区間、新幹線の列車名が指定されています。


実際に「はやて」93号に乗車した際の車内の様子。ご覧の通り、指定席にもかかわらずほとんどが空席で、空気輸送状態です。このような状況では座席指定も必要ないので、特定特急券でも十分にことが足ります。

この節でお話している特定特急券は「えきねっと」で購入することはできません。検索結果には普通車指定席は表示されますが、特定特急券は表示されません。したがって、特定特急券の料金では「新幹線eチケット」も利用できないことになります。

一方で、駅の指定席券売機では、設備の一覧に指定席の他「特定」のボタンが表示されて、紙のきっぷとして購入することができます。当日乗車する分だけでなく、前売りでも購入できます。みどりの窓口で購入する場合、駅員さんがこの制度を知らない場合があるので注意してください。
現地では近距離券売機でも購入可能
今お話しした方法で買う特定特急券は、駅のみどりの窓口で買うか、指定席券売機を操作して買うものです。事前にきっぷを入手できる買い方です。
一方、当日列車に乗る時に特定特急券を買うことが、現実的には多いでしょう。その場合は、発駅の近距離券売機でも簡単な操作で買うことができます。

東北新幹線の盛岡駅以南の区間には自由席があるので、自由席特急券を買う形です。一方、自由席がない東北新幹線の盛岡駅以北の区間や秋田新幹線の特急券は、新幹線特定特急券になります。

きっぷの様式は先ほどのマルス券とは異なりますが、「新幹線特定特急券(立席)」と記載された同じ効力のきっぷです。
列車が満席の場合に立席承知で発売される「立席特急券」【在来線】

在来線の全車指定席の特急列車においても、すべての座席が売り切れた状況で立席承知で乗車する場合に「立席特急券」が発売されることがあります。旅客営業規則上は「立席特急券」と明確に区分されますが、本記事では便宜的に特定特急券の一形態として紹介しました。
この場合の特急料金は、[通常期の指定席特急料金]-530円 となります。

このきっぷは、GW時期の最繁忙期に満席となった列車に対して発行された「立席特急券」です。満席時のみ救済手段として発売されることのあるきっぷなので、いつでも買えるものではありません。
立席特急券には、乗車する列車名と号車が指定されます。本例の「草津・四万」号については、B特急料金が適用されるため「B立席特急券」になります。この特急券では座席に座れません。
満席時に発売される特急列車の「立席特急券」は、首都圏近辺の全車指定席の特急列車で発売される「座席未指定券」とは異なります。首都圏地区を走る特定の在来線特急列車においては座席未指定券が、その他の特急列車では立席特急券が発売されます。座席未指定券についての詳細は、記事末の参考資料にあるリンクより参照してください。
まとめ
新幹線の自由席に乗車する際の「新幹線自由席特急券」や「新幹線特急券」にて自由席車両に乗車する場合は言うまでもなく、全車指定席の列車に乗車する場合も、区間によっては通常の「新幹線特急券」を購入することなく「新幹線特定特急券(立席)」にて乗車することによって、新幹線特急料金を節約することが可能です。
ただし、「新幹線特定特急券」では座席指定されないため、着席の保証がありません。繁忙期など列車が混雑することが予想される場合、確実に着席したい場合は、座席指定された「新幹線特急券」を通常通りに購入することをおススメします。
厳密にいうと、旅客営業規則上「特定特急券」と「立席特急券」は別物です。きっぷ上に「特定」や「立席」が混在しているため混乱しますが、通常の特急券ではないということでひとくくりに考えてよいと思います。
参考資料 References
● 「座席未指定券」の買い方・使い方~座席指定を受けるのがおススメ~
● 旅客営業規則57条
(急行券の発売)
第57条
旅客が、急行列車に乗車する場合は、次の各号に定めるところにより、急行列車ごとに特別急行券又は普通急行券を発売する。(1)特別急行券
ロ 立席特急券
別に定める特別急行列車の特別車両以外の座席車又は第13条第3項の規定によりB寝台を設備した寝台車に乗車する場合に、乗車する日、列車及び乗車区間を指定し、座席の使用を条件としないで発売する。ただし、乗車する列車を限定しないで発売することがある。
ハ 自由席特急券
別に定める特別急行列車の特別車両以外の座席車又は第13条第3項の規定によりB寝台を設備した寝台車に乗車し、自由席(別に定める区間における特別急行列車の座席を含む。以下同じ。)を使用する場合に、乗車駅及び有効区間を指定し、座席の使用を条件としないで発売する。ただし、乗車する列車を限定して発売することがある。
ニ 特定特急券
次に定める区間を、特別車両以外の座席車又は第13条第3項の規定によりB寝台を設備した寝台車に乗車し、自由席(自由席のない列車にあっては、指定席)を使用する場合に、乗車できる列車及び乗車区間を指定し、特定の特別急行料金によって、座席の使用を条件としないで発売する。ただし、(イ)のjに定める区間にあっては、乗車する日、特別車両以外の座席車及び座席を指定して発売することがある。
(イ)新幹線
a 隣接駅間(九州新幹線及び郡山・福島間を除く。)及び以下の区間
東京・新横浜間
三島・静岡間
静岡・浜松間
豊橋・名古屋間
福山・三原間
三原・広島間
新山口・新下関間
東京・大宮間
古川・一ノ関間
一ノ関・北上間
北上・盛岡間
熊谷・高崎間
博多・久留米間b 東京・新下関間の新幹線停車駅と新鳥栖駅又は久留米駅との相互間
c 小倉駅と筑後船小屋・鹿児島中央間の新幹線停車駅との相互間
d 小倉・新鳥栖間及び小倉・久留米間
e 東京・博多間を運転する特別急行列車のぞみ号(以下「のぞみ号」という。)又は新大阪・鹿児島中央間を運転する特別急行列車みずほ号(以下「みずほ号」という。)に乗車する場合(第7項の規定により特別急行券を発売する場合を含む。)の新幹線停車駅相互間(博多・鹿児島中央間の新幹線停車駅相互間及びaからdまでに定める区間を除く。)
f 東京・八戸間の新幹線停車駅と奥津軽いまべつ駅との相互間
g 七戸十和田・木古内間及び七戸十和田・新函館北斗間
h 七戸十和田・奥津軽いまべつ間
i 盛岡・新函館北斗間の各駅相互間(a、f、g及びhに定める区間を除く。)
j 郡山・福島間
(ロ)新幹線以外の線区
鳥取・出雲市間(100キロメートル以内の区間を除く。)
米子・益田間(100キロメートル以内の区間を除く。)
福島・新庄間(奥羽本線経由に限る。)
盛岡・秋田間(田沢湖線・奥羽本線経由に限る。)
(ハ)(イ)及び(ロ)の規定にかかわらず、別に定める区間において特定特急券を発売することがある。
● 旅客営業規則125条1号(ニ)
(ニ)特定特急料金
a 第57条第1項第1号ニの(イ)のaに定める区間に対する特定特急料金
(a)当該区間の営業キロが50キロメートル以下の場合
880円とする。ただし、東京・大宮間にあっては、1,090円とし、北海道旅客鉄道会社線内にあっては、1,330円とし、東海旅客鉄道会社線内、西日本旅客鉄道会社線内(北陸新幹線を除く。)及び九州旅客鉄道会社線内にあっては、870円とする。
(b)当該区間の営業キロが50キロメートルを超える場合
1,000円とする。ただし、北海道旅客鉄道会社線内にあっては、1,520円とし、東海旅客鉄道会社線内及び西日本旅客鉄道会社線内にあっては、990円とする。
改訂履歴 Revision History
2022年4月30日:初稿
2022年5月16日:初稿 修正
2022年9月09日:初稿 修正
2022年10月27日:初稿 加筆
2023年4月07日:初稿 修正
2023年4月26日:初稿 加筆
2023年5月07日:初稿 加筆
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