「みどりの窓口」閉鎖から導き出せること~公共交通機関の衰退を憂う~

閉鎖されたみどりの窓口栗橋駅にて のりもの

JR各社の駅にある「みどりの窓口」にて、有人窓口の職員と相談しながら気軽かつ迅速に購入できる鉄道きっぷ。ここ最近、鉄道きっぷの発売方法には、急速に変化がやってきています。

2021年以降、駅にある「みどりの窓口」(有人窓口)の閉鎖が急速に広がりはじめ、旅客サービスの削減が進んでいます。その一方で、みどりの窓口のあったスペースに、より高収益を望める商業店舗などに置き換わるケースが増えています。

これらの変化は、顧客である利用者を軽視したサービスの削減であるだけではなく、公共交通機関としてあるべき機能の崩壊の始まりなのではないかと、筆者は危惧しています。

一般企業の自由な事業活動とは異なり、鉄道事業などの公共交通機関は、株式会社(交通事業者)や自治体(公営交通)などの法人格を問わず、公益性の高いユーティリティに違いありません。たとえ経営体が民間であってもサービスの縮小は許されず、社会の監視を常に受け入れるべき存在です。

端的に言い換えると、万人が日常生活で利用するユーティリティである公共交通機関が、ネットを活用するためのデジタルリテラシーのあるなしで、客を選んではならないとも言えます。

この記事では、JR駅のみどりの窓口削減をはじめ、目に見える細かな経費削減が、利用者にとっていかに不利益であるか、いくつかの実例を挙げて深掘りしていきたいと思います。

そして、交通弱者にとっては言うまでもなく、万人にとってもユーティリティである公共交通機関の経営や維持が民間任せであることの、社会にとっての脆弱性を訴えます。

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商業化せざるを得ない鉄道会社~旅客サービス低下に至る背景~

みどりの窓口閉鎖跡地の商業店舗秋葉原駅にて

この写真は、秋葉原駅昭和通り口(東京都千代田区)を撮影したものです(2022年5月)。

写真左方の場所に従前あった「みどりの窓口」が閉鎖され、その場所に鉄道趣味のお店が開業しました。列車に乗車するのに必要な「本物のきっぷ」を発売する場所から、趣味の「グッズとしてのきっぷ」を販売する場所に変わってしまいました。この記事で取り上げる問題の本質を物語ると考え、ここでご紹介した次第です。

JR各社の前身である国鉄が1987年に分割民営化されてから、2022年で35年が経過しました。その歴史の中で、JR東日本の当期純利益が初めて約5779億円の赤字(2020年度)を計上したことは、衝撃的でした。JRグループの他の上場会社も同じような状況で、多額な赤字を計上しました。

このような財務的な背景や、少子高齢化社会での将来的な若年人口の減少を見据えて、経費削減を強力に推進せざるを得ない事情が、本記事でお話しする実例の背景にあります。

この記事で触れる内容については、JR各社に限らず、公共交通機関である民鉄や第三セクターの鉄道・バス事業者に共通した課題と考えます。その中でも、根拠となる資料や実例が筆者の手元に多いことから、JR東日本の最近の施策をベースにして考えていきます。

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身近な駅の「みどりの窓口」が立て続けに閉鎖

近年、小駅を中心にみどりの窓口が閉鎖され、指定席券売機(みどりの券売機)への置き換わりが徐々に進んできました。この動きを加速したのが上述した赤字決算で、その波が小駅ばかりではなく、主要駅にも及んできました。

2021年5月現在で440駅にあったJR東日本管内のみどりの窓口が、2025年には140駅程度に減少する旨、同社のニュースリリースに掲載されました。チケットレス化による出札業務の縮小(経費削減)を目指す同社にとっては、コロナ禍に後押しされたことと推察できます。

みどりの窓口設置駅数推移
2019会社要覧より筆者作成

上図の通り、2009年には700か所弱のみどりの窓口が設置されてきましたが、年々縮小してきたことが分かります。

みどりの窓口営業終了告知

2022年春には多くのみどりの窓口が閉鎖されました。筆者も東北本線(宇都宮線)栗橋駅(埼玉県久喜市)にあったみどりの窓口の営業最終日に訪れましたが、ひっそりと営業終了する感じでした。

みどりの窓口営業終了告知板

筆者が驚いたのが、旅客営業収入が上位かつ主要駅である北千住駅(東京都足立区)のみどりの窓口の非有人窓口化でした(2022年1月末日)。有人窓口の代わりに「話せる」指定席券売機が2台設置されましたが、多くの利用者を捌くには課題が多いと考えます(JR西日本では「みどりの券売機プラス」)。

● 営業収入上位駅(2018年)

北千住は31位にもかかわらず、みどりの窓口の通年営業終了(「2019会社要覧」より引用)

「話せる」指定席券売機を利用する際に、受話器やマイクを通じてセンターのオペレーターと遠隔で話をしながら注文することができます。多くの業務を処理することが可能ですが、改善が難しいのが実際に注文するまでの待ち時間です。

話せる指定席券売機
話せる指定席券売機初期画面
タッチパネル上のボタンの配置は、駅によって異なる

次の図は、対面販売と遠隔販売の時間の流れの違いについて、筆者なりに比較してみたものです。

話せる指定席券売機待ち時間のイメージ
「いらすとや」さんに感謝。

● 従来のみどりの窓口(有人窓口)

前の客の接客終了後、ただちに次の客の接客に入れる。

● 「話せる」指定席券売機(みどりの券売機プラス)→「アシストマルス」とも呼ばれる

前の客の接客終了後、オペレーターを呼び出すまでの時間がアイドルタイムになる。

このように、待ち時間が多く発生することで1台の端末(券売機)で処理できる仕事量が減少し、効率性が悪くなったことがお分かりいただけるでしょう。

きっぷの購入を急ぐ乗客にとっては、待ち時間の増加で、きっぷの購入により長い時間を要することになり、乗客にとっては不利益なことに違いありません。

みどりの窓口がない旨の告知
新幹線駅でさえ目立つ有人窓口閉鎖(糸魚川駅)
みどりの券売機プラス
JR西日本の駅で見られる「みどりの券売機プラス」:オペレーターがサポート
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ネット予約システム「えきねっと」の障害

みどりの窓口の閉鎖が進む途上のタイミングで、JR東日本が推進しているネット予約システム「えきねっと」に障害が発生し、多くの利用者が憤りを覚えた事件がありました。

えきねっと障害画面
えきねっとウェブサイトより引用

2022年4月13日の朝一からアクセスが集中し、「えきねっと」が終日ダウンした事象がありました。この原因は、この日から一斉に再開された東北新幹線の指定席予約で、偶然ゴールデンウイークの予約が集中するタイミングだったことです。

地震災害が関係していただけに、かなりイレギュラーな事象であったと認められますが、同社のデジタル推進(DX)の足を引っ張る事件でした。有人窓口「みどりの窓口」の閉鎖で「えきねっと」を利用するよう誘導された矢先でタイミングも悪く、利用者にとっては到底納得のいくことではありませんでした。

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他にもサービスに細かな変化が

みどりの窓口閉鎖に限らず、筆者が日頃JR東日本の駅を利用していて、旅客サービス削減への細かな変化を多く感じます。

● 駅のホームに設置された「駅名標」

大宮駅駅名標

従前、駅名標にはLED照明が付いていましたが、ここ最近省かれています。特に夜間の視認性が悪く、どの駅か判別することができません。

● 駅の有人改札の遠隔化・省人化

駅に設置されたインターホン

小駅では改札口の職員が不在になる時間帯があり、その場合遠隔でのサポートを求めるために、オペレーターを呼ぶ手間が増えました。

アバター駅員

また、一部の駅では有人窓口におけるサポートをアバター(*)にさせている事例があります。アバターは人工知能(AI)を利用したもので、用のある乗客は機械と会話することになります。比較的イレギュラーな対応が要求される有人改札での多様な業務をアバターが代替できるものか、筆者は疑問に感じます。

* アバター:ここでは、仮想的な駅員の分身のことを指します。

● きっぷを入れる乗車券袋の配布終了

これは、JRの会社によっても、地域によっても対応が異なります。

今のところ、JR東日本管内の首都圏地区から始まっています。チケットレス化が広く進んでいるとは考えにくく、乗車券袋の配布の一斉終了は時期尚早でしょう。

● 駅にある時計の撤去

従前駅の発車案内板などと一緒に設置されていた時計が、経費削減で撤去される事例が起きています。鉄道の輸送サービスは時刻が基準であることから、適切な施策であるかどうかは、人によって考えが分かれるところでしょう。

職員の人材確保が難しいというものの。。

ここで、この記事での話題を、現場レベルから会社レベルに変えたいと思います。

JR各社における人員削減や経費削減の動きが進む中、筆者は興味ある資料を見つけました。

● 年代別の職員数

「2019会社要覧」より引用

この表は、JR東日本における従業員の年齢構成の円グラフです(2019年4月現在)。多くの優秀な人材を惹きつける会社であるということで、各年代のバランスが比較的均衡しています。その中で「45-49歳」「50-54歳」の層だけが著しく欠けているのがとても目立ちます

人員が欠けたこれらの年齢層は、人口の多い「団塊ジュニア世代」およびその少し前の世代(概ね1965-1974年生まれ)に当たります(筆者もこの世代のど真ん中にいます)。直接の原因は、1987年の国鉄分割民営化の影響で、当時新規採用が抑制されたことです。たとえ優秀な人材だったとしても、採用されなかったわけです。

蛇足ですが、JR東日本を含むJR各社における従事者の層が、現在では20,30代の若年層で特に厚いです。そのため、デジタルリテラシーがあるそれらの世代によるDXがここ最近推進されて、従来の対人サービスに慣れていた乗客層にとって、急速なサービス悪化として捉えられたとも感じます。

この時期の採用抑制に当たった世代にとっては、鉄道業界への就職のハードルが高かったと言えるでしょう(筆者も願望が叶わなかった一人)。また、それに続く「就職氷河期世代」は、多くの大企業で採用を抑制していた時期に新卒で就職するはずだった世代です。これらの世代に共通することは、いくら努力しても希望する企業に採用してもらえず(特に正規雇用してもらえず)、キャリア形成が思うようにいかなかったという理不尽さにあります。

そこで、労働集約性が高く、対人によるサービスが必要な公共交通機関にとっては、稼働していない「団塊ジュニア世代」や「就職氷河期世代」の層(現在は45歳以上の就職困難な中高年層)を人材としてスポットライトを当ててもよいように思えます。

以前投稿された東洋経済の記事中、『JR東日本は社会人採用・経験者採用を大規模に行っている。(中略)職員数が減っている状況の中で社会人採用を積極的に進めていることは、鉄道事業における年齢構成のゆがみを少しでも改善しようという意思の表れだろう。』というくだりを見つけました。とはいえ、企業にたとえ改善の意思があっても、上述した45歳以上の中高年層を一私企業が正規雇用するのは、残念ながら困難なことです。

例えば、行政の施策としてこれらの年代の就職困難な人材を国や自治体が雇用し、鉄道会社に出向させて駅務などの現業業務に従事してもらうことで、ギャップを改善できそうな気がします。人材難を解消し、乗客にとっての対人サービス低下を抑え、ひいては雇用対策にもなります

この年代の人材活用が、近い将来の社会保障上の困難を軽減する一助になると考えますが、いかがでしょうか。

社会の公器との自覚を持ってほしい

上場企業であるJR会社にとっては、株主の存在が重要であることに違いありません。その現れである「株主優待」には手厚く、ピークシーズンにおけるブラックアウト(除外)期間もありません。

一方で、通院などの用務で公共交通機関の利用が不可欠な、高齢者や障害者などのいわゆる交通弱者に対する施策には至って消極的です。その一例が、「精神障害者保健福祉手帳」所持者を含む障害者に対する運賃割引(福祉割引)に否定的なことでしょう。他の地域鉄道会社ではかなり浸透してきた運賃の福祉割引、財務基盤が強固なJR上場会社にできないわけはありません。「国の政策(だから国でやれ)」と他人事のように一蹴せず、事業の公益性を自覚してほしいです。

資本主義である以上、(強者である)株主を重視するのはやむを得ないのですが、社会的・交通弱者に冷や飯を食わせ、冷たくあしらうのはやめてほしいです。

施策をうのみにしてはいけない

一般的な私企業には、株主に対する配慮があると同じ程度、顧客に対する配慮もあるでしょう。社会の成員のことは皆等しく、企業にとってのステークホルダーと謳っている会社は数多くあります。

公共交通機関であるJR各社はいかがでしょうか。顧客である乗客に対する配慮はあまり見られず、現場の事情が斟酌されていない施策の理解を一方的に求めるばかりです(会社の言うことにはおとなしく従ってほしいと言わんばかり)。一方で、株主の機嫌を上目遣いでうかがっているように思えてしまうのは、筆者だけでしょうか。

企業によるサービス低下を仕方なし、とうのみにするのではなく、疑問を持って物事の本質を見つめ、時には異を唱えるのも大事です。

国や社会が許してしまったことがこの一因

JR各社をはじめとした交通事業者の経営状況が厳しいことを、事業者の責任と突き放してしまっていいものでしょうか。

鉄道をはじめとした公共交通機関は、特に高齢者や障害者、高校生といった交通弱者には欠かせないユーティリティです。公共交通機関は、経済状況にかかわらず維持しなければならない国の基幹となる公共インフラです。時には、国の安全保障にもかかわるところかと思います。

であるからには、公共交通機関の経営を一私企業のビジネスとして交通事業者に責任を押し付けるのではなく、国や自治体が(出資して)経営にも積極的に関与すべきと筆者は考えます。

全ての始まりは、1987年の国鉄分割民営化にありました。現在、JR4社は株式公開し、JR東日本に関しては完全民営化しています。つまり、JR株を手放した国が経営に関与できなくなった分、一民間企業としては公益性を犠牲にしてでも増収増益に走るところでしょう。

財政が苦しいとは言え、国が安易に株式を売却してしまってよかったのか、改めて議論があっても良いのではないでしょうか。

国や地方自治体、そして交通事業者にも、交通弱者に寄り添う姿勢を見せてほしいことを主張し、本記事をしめたいと思います。

参考資料 References

● NHKニュース(JR東日本 みどりの窓口 約7割削減へ)2021.5

JR東日本 みどりの窓口 約7割削減へ 140駅程度に集約 | NHKニュース
【NHK】JR東日本は、経営の効率化などを目指して、対面で切符などを販売する「みどりの窓口」を置く駅を4年後の2025年までに、お…

● JR東日本ニュースリリース(きっぷ購入スタイルについて) 2021.5.11

https://www.jreast.co.jp/press/2021/20210511_ho01.pdf

● JR東日本グループレポート2021(JR東日本) 2021.7

● 2019会社要覧(JR東日本) 2019.8

● グループ経営ビジョン「変革 2027」(JR東日本) 2018.7

● 東洋経済記事(鉄道「現場職員」は30年でこれだけ減っていた)2018.5

鉄道「現場職員」は30年でこれだけ減っていた
昨年以来の一時期、鉄道のトラブルに関する報道が相次いだ。代表例は昨年12月に発生した新幹線の台車に亀裂が入った問題だろうが、そのほかにも東急田園都市線で2回の停電が発生するなどさまざまなトラブルがあっ…

改訂履歴 Revision History

2022年5月04日:初稿

2022年5月06日:初稿 加筆・修正

2022年5月16日:初稿 修正

2023年3月09日:初稿 修正

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