東京から100km程度離れた地域を、途中下車しながらゆっくり乗り歩ける路線の一つに、JR「両毛線」があります。
両毛線は、小山駅(栃木県小山市)から、途中足利駅(栃木県足利市)や桐生駅(群馬県桐生市)を経由して、新前橋駅(群馬県前橋市)に至ります。JR東日本によって運営されている、営業キロ84.4kmの路線です。両毛線の列車は基本的に、小山駅から高崎駅(群馬県高崎市)まで通しで運行されています。
両毛線の道中には、栃木市や足利市、桐生市などに、見て楽しむスポットがたくさんあります。その他に、栃木県佐野市の佐野ラーメンや高崎駅の駅弁など、特色ある食事も楽しめます。両毛線沿線は、豊富な観光資源に恵まれています。
東京/大宮駅から、北関東地区を東西に横断するJR両毛線に向かい、両毛線を途中下車しながら全線乗車し、東京/大宮駅に戻ると、いい感じで200kmを少しだけ超えます。
乗車する経路が200kmを超えることで、「大人の休日俱楽部」割引きっぷを作ることができます。「大人の休日俱楽部」割引を受けられる近場の路線として、JR両毛線はお手軽で、初心者向けのモデルコースといえるでしょう。

乗り鉄も観光も楽しそうですね。

はい。「大人の休日俱楽部」割引きっぷの初心者には、優しいコースですよ!
この記事では、両毛線を含む経路で「大人の休日俱楽部」割引を受けるために、どのようにきっぷを作ればいいか、その方法や注意点を説明します。
そして、筆者がこの経路をめぐるのに実際に乗車した列車をご紹介することで、どのような旅になるのかを想像できるよう、ご紹介したいと思います。
両毛線の小さな旅は「大人の休日俱楽部」割引きっぷと相性ヨシ!

東京駅から大宮駅(さいたま市大宮区)を経由し、両毛線の起点である小山駅までは東京駅から80.6km、両毛線の運行上の終点である高崎駅までは、東京駅から105.0kmの距離があります。いずれも新幹線の停車駅です。
先に申し上げたように、両毛線は、始点の小山駅から終点の高崎駅まで通しで乗車すると、約90kmの距離があります。

この図を見るとお分かりいただける通り、高崎駅は東京駅から100km以上離れているため、全経路で201kmを超えます。
そんなわけで、東京/大宮駅から両毛線に乗車して、周回経路で乗車すると、いい感じに200kmを少しだけ超えます。「大人の休日俱楽部」割引きっぷを一セットのきっぷ群として作ることができる、初心者向けの手軽な経路ということをお分かりいただけるかと思います。
両毛線沿線には観光資源が豊富なため、訪れることができる観光スポットが数多くあります。代表的なところは、次の通りです。
● 栃木市の「蔵の街」
● 足利市の「あしかがフラワーパーク」「足利学校」
● 桐生市から「わたらせ渓谷鉄道」トロッコ列車に乗車
● 高崎駅から「上信電鉄」に乗車して向かえる富岡市の「富岡製糸場」
見てまわるスポットが数多くある上に、食事も楽しめるため、結構な時間が必要と思われます。
乗り鉄だけするのであれば、急いで日帰りできなくもありません。しかし、時間的にも体力的にも日帰りでは少しきつい旅程なので、できれば途中で1泊して、ゆっくりめぐるのがちょうどいいです。
「両毛線」を乗り歩くための「大人の休日俱楽部」割引きっぷの作り方

途中下車しながら列車を乗り歩く場合、最善の方法はフリー乗車できる割引きっぷを探すことです。
両毛線が走る栃木県南部や群馬県東部の全域をカバーできるフリーきっぷに「ぐんまワンデーパス」があります。大人2,670円で、上信電鉄線やわたらせ渓谷鉄道線にもフリー乗車できますが、1日限り有効のきっぷです。日帰りできっぷの元を取るのは結構体力が必要で、泊まり旅行では利用が難しいです。
そんなわけで、両毛線全線に乗車するためには、あらかじめ経路を決めてから、オーダーメードで乗車券を購入することになります。その際、「大人の休日俱楽部」割引が適用になります。
東京/大宮駅から両毛線に向かう場合、周回経路を取るようになります。この経路を図解すると、下図の通りです。

● 小山駅から両毛線に入ると、反時計回りの経路に
● 新前橋駅から両毛線に入ると、時計回りの経路に
この図のように、どちらの駅から両毛線に入っても、作るきっぷの金額には差異はありません。筆者の場合、上図の通り、時計回りの経路で両毛線を東進しました。
時計回りでも、反時計回りでも、大宮駅まで戻ったところで経路を一周し終わります。乗車券の運賃計算は、大宮駅で打ち切ります。
東京都区内から出発する場合
経路を一周し終わる大宮駅で一旦運賃計算を打ち切るため、「連続乗車券」をつくります。
東京駅から高崎駅および小山駅を経由し、大宮駅まで200kmを超えるため、発駅は「東京都区内」となります。また、「大人の休日俱楽部」割引も適用されます。
(連続1)東京都区内→大宮駅 [有効期間3日間]
発駅 | 経由線区 | 着駅 | 営業キロ |
東京 | 新幹線 | 大宮 | 30.3 |
大宮 | 高崎線 | 高崎 | 74.7 |
高崎 | 上越線 | 新前橋 | 7.3 |
新前橋 | 両毛線 | 小山 | 84.4 |
小山 | 新幹線 | 大宮 | 50.3 |
【合計】 | 営業キロ | 247.0 | |
所定運賃 | 4,510 | ||
割引運賃 | 大休05 | 4,280 | |
割引運賃 | 大休30 | 3,150 |
(連続2)大宮駅→上野駅 [有効期間1日間:途中下車不可]
発駅 | 経由線区 | 着駅 | 営業キロ |
大宮 | 新幹線 | 上野 | 26.7 |
【合計】 | 営業キロ | 26.7 | |
所定運賃 | 490 | ||
割引運賃 | 大休05 | 460 | |
割引運賃 | 大休30 | 340 |
※ (連続2)は、100km未満の短距離きっぷです。割引が適用された1セットのきっぷ群に含まれるため、割引になります。
大宮駅から出発する場合
ちょうど一周する経路なので、「片道乗車券」をつくります。
大宮駅から高崎駅および小山駅を経由し、大宮駅までかろうじて200kmを超えるため、「大人の休日俱楽部」割引が適用されます。割引が適用される最低限の営業キロのため、運賃もお手頃です(ジパング会員用は2,610円)。
(片道)大宮駅→大宮駅 [有効期間3日間]
発駅 | 経由線区 | 着駅 | 営業キロ |
大宮 | 高崎線 | 高崎 | 74.7 |
高崎 | 上越線 | 新前橋 | 7.3 |
新前橋 | 両毛線 | 小山 | 84.4 |
小山 | 新幹線 | 大宮 | 50.3 |
【合計】 | 営業キロ | 216.7 | |
所定運賃 | 3,740 | ||
割引運賃 | 大休05 | 3,550 | |
割引運賃 | 大休30 | 2,610 |
「大人の休日俱楽部」割引きっぷを購入するに当たっての注意点
● GW、お盆、年末年始のピークシーズンには割引が適用されません。
● 同伴者も「大人の休日俱楽部」会員であれば割引を受けられますが、同伴者が非会員の場合、割引はありません。
「東京都区内」とは、東京23区内にあるJR線の駅のことです。着駅までの営業キロが201km以上となる場合、23区内の駅をひとまとめにして考えます。これを「特定都区市内制度」といいます。その詳細については、筆者の別の記事(↓)を参照してください。
乗車券の経路上に必ず「新幹線」を含めるのがポイント

東京駅から両毛線エリアの駅はすべて、「東京近郊区間」というゾーンに入っています。乗車区間がそのゾーンに入っている場合、乗車券は途中下車できない決まりになっています。
つまり、何らかの手を打たないと、途中下車できない当日限り有効の、非現実的な乗車券ができあがってしまうことになります。
ところが、経路上に「新幹線」を含む場合、「東京近郊区間」から外れるというルールも存在します。運賃計算キロによっては途中下車できる乗車券が成立します。今回は、このルールをうまく活かします。
今回乗り歩く両毛線を全線乗車すると、201km以上の経路になります。その場合、乗車券の有効期間は3日間で、2泊3日の旅行まで対応できます。もちろん、この乗車券には「大人の休日俱楽部」割引が適用されます。途中下車しながら乗り歩き、という旅行の目的にかなった乗車券ができあがります。
これだけでもいい話ですが、もっと良いことには、乗車券の経由が「新幹線」であっても、実際乗るのが「在来線」でも大丈夫です。「新幹線と在来線を同一線路扱いする」という運賃計算ルール上の裏付けがあるため、新幹線に乗車「しなければならない」わけではありません。
高崎線や宇都宮線の区間を走る「普通列車用グリーン券」を利用するにせよ、「新幹線(自由席)特急券」を利用するにせよ、乗車券とともに「大人の休日俱楽部」割引で購入できます。
筆者が手にした「連続乗車券」の券面
これまでお話しした経路のきっぷを、筆者は駅のみどりの窓口で購入しました。周回する経路の乗車券は「えきねっと」や駅の指定席券売機では購入することができず、駅員さんに発行を頼む必要があります。その際、きっぷの代金の決済は、必ず自身の「大人の休日俱楽部」クレジットカードで行います。
そして筆者が手にしたきっぷは、次の4枚です。乗車券は、東京駅から出発する前提で作りました。
● 連続乗車券
(1枚目)東京都区内→大宮駅

経路の営業キロが201km以上となるため、前述した通り、発駅が「東京都区内」となります。有効期間が3日間で、途中下車が可能です。
(2枚目)大宮駅→上野駅

経路の営業キロが100km以下のため、当日限り有効かつ途中下車できないきっぷになります。
2枚で1セットの連続乗車券の有効期間は、1枚目と2枚目を合計した4日間となります。ゆっくり移動することができます。
● 普通列車用グリーン券
大宮駅→高崎駅

「大人の休日俱楽部」割引がしっかり適用されます。そのためには、みどりの窓口であらかじめ紙のきっぷとして購入する必要があります(Suicaグリーン券は割引対象外)。
余談ながら、ベースとなる乗車券の経由を「新幹線」とされてしまいました。厳密には在来線の普通列車用グリーン券を購入できませんが、今回駅員さんが出してくれたということで、オッケーとします。
● 新幹線特定特急券(自由席利用)
小山駅→大宮駅

これも「大人の休日俱楽部」割引が適用されます。乗車券と違い、乗車日が決まってから購入します。必ずしも、乗車券と同時に購入する必要はありません。
筆者の「両毛線」乗り歩きの道中♪

筆者は、純粋に乗り鉄が目的だったので、この経路を日帰りで回りました。日帰りで乗り鉄するだけでも、そこそこタフな旅程です。
乗り鉄や観光をゆっくり楽しみながらめぐるのであれば、途中で1泊することをおススメします。

当日の早朝、大宮駅から高崎線普通列車のグリーン車に乗車して、高崎駅まで向かいました。平日の朝、駅には通勤通学客でいっぱいでしたが、筆者は大人の休日モード。

東京駅とは逆の方向に向かったため、列車はとても空いていました。高崎駅までの1時間20分、静かな車内でゆっくり過ごせました。

高崎駅で途中下車し、筆者は上信電鉄線を乗り歩き。上州富岡駅から徒歩圏内に「富岡製糸場」があるため、電車の利用が便利です。

高崎駅に戻り、ランチ。筆者はファーストフードで済ませましたが、高崎駅には「だるま弁当」や「峠の釜めし」といった有名かつ強力な駅弁が販売されています。

器が瀬戸物の「峠の釜めし」が段積みされていました。食事できる場所が確保できるのであれば、駅弁がおススメです。
高崎駅から、いよいよ両毛線の電車に乗車。

行先表示は両毛線の始点「小山」駅です。両毛線のラインカラーの黄色が、行先表示幕にも施されています。

桐生駅で再び途中下車。「わたらせ渓谷鉄道」線に寄り道しました。ここで時間をとれれば、「トロッコわっしー」号に乗車して、足尾銅山の資料館など見に行くことができます(トロッコの運行は週末のみ)。

桐生駅から小山駅までは、途中下車することなくずっと乗車。「あしかがフラワーパーク」や佐野ラーメン、栃木の蔵の街といった強力な観光スポットがあるので、本当は途中下車しながらゆっくり進みたいです。

両毛線の始点(今回は終点)の小山駅に到着。ここで、両毛線の小さな旅が終わりました。

小山駅から大宮駅まで一区間は、東北新幹線「なすの」号で。両毛線と新幹線の接続が良くないので、新幹線を待つ分在来線に乗車した方が到着が早いかもしれません。
乗車券を「新幹線」経由で作っても、必ずしも新幹線に乗車「しなければならない」わけではありません。
旅の終わりに
両毛線の乗り歩きは、首都圏内の近場をめぐる小さな旅です。乗車券の作り方も、実際の道中も、中身が深かったことかと思います。
新幹線に実際に乗車してもしなくても、乗車券の経路に「新幹線」を含めることで、途中下車できる現実的なきっぷを入手できます。
「大人の休日俱楽部パス」を買えるといっても、いきなり遠くの東北地方に足を運ぶのは、躊躇するのではないかと思います。まずは、近場から足慣らしをしてみてはいかがでしょうか。
参考資料 References
● 「大人の休日俱楽部」公式ウェブサイト 割引きっぷの概要(JR東日本)

● 「きっぷあれこれ」大都市近郊区間・途中下車(JR東日本)
● 旅客鉄道株式会社旅客営業規則16条の2(新幹線・在来線の関係)より抜粋
第16条の2 次の各号の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区とは、同一の線路としての取扱いをする。
(1) | 東海道本線、山陽本線中神戸・新下関間 | 東海道本線(新幹線)及び山陽本線(新幹線)中新神戸・新下関間 |
---|---|---|
(2) | 東北本線 | 東北本線(新幹線) |
(3) | 高崎線、上越線及び信越本線 | 高崎線 (新幹線)、上越線(新幹線)及び信越本線(新幹線) |
(4) | 鹿児島本線中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央間 | 鹿児鹿児島本線(新幹線)中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央間 |
● 旅客鉄道株式会社旅客営業規則68条(運賃・料金の計算方)より抜粋
第68条 営業キロ又は擬制キロを使用して旅客運賃を計算する場合は、別に定める場合を除いて、次の各号により営業キロ又は擬制キロを通算して計算する。
(1)営業キロ又は擬制キロは、同ー方向に連続する場合に限り、これを通算する。
(2)当社と通過連絡運輸を行う鉄道・軌道・航路又は自動車線が中間に介在する場合、これを通じて連絡乗車券を発売するときは、前後の旅客会社の区間の営業キロ又は擬制キロを通算する。
2 前項の規定は、運賃計算キロを使用して幹線と地方交通線を連続して乗車するときの旅客運賃を計算する場合に準用する。3第1項の規定は、営業キロを使用して料金を計算する場合に準用する。4前各項の規定により、旅客運賃・料金を計算する場合で次の各号の1に該当するときは、当該各号に定めるところによって計算する。
(1)計算経路が環状線1周となる場合は、環状線1周となる駅の前後の区間の営業キロ、擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
(2)計算経路の一部若しくは全部が復乗となる場合は、折返しとなる駅の前後の区間の営業キロ、擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。
● 旅客鉄道株式会社旅客営業規則156条(途中下車)より抜粋
第156条 旅客は、旅行開始後、その所持する乗車券によって、その券面に表示された発着区間内の着駅(旅客運賃が同額のため2駅以上を共通の着駅とした乗車券については、最終着駅)以外の駅に下車して出場した後、再び列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、次の各号に定める駅を除く。
(1)全区間の営業キロが片道100キロメートルまでの区間に対する普通乗車券を使用する場合は、その区間内の駅。ただし、列車の接続駅で、接続関係等の理由により、旅客が下車を希望する場合で、旅客鉄道会社が指定した駅に下車するときを除く。
(2)次に掲げる区間(以下「大都市近郊区間」という。)内の駅相互発着の普通乗車券を使用する場合は、その区間内の駅
(以下省略)
改訂履歴 Revision History
2022年6月13日:初稿
2022年6月19日:初稿 修正
2022年6月21日:初稿 修正
2022年7月21日:初稿 修正
2023年4月07日:初稿 修正
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