駅の窓口や券売機で購入する鉄道きっぷ。現在は、ほとんどのきっぷが券売機や端末機から印字されて自動発行されます。
しかし、大都市圏を離れた地域鉄道では、硬券や軟券(常備券や補充券)の手売りがいまだに続いています。実使用のきっぷだけではなく、入場券や記念乗車券など、実際に使用できないきっぷも、手売りされる対象です。
これらのきっぷのうち、硬券や端末券のサイズは、行き当たりばったりで決められたものではありません。「エドモンソン券」といわれる、英国から日本に伝来した硬券のサイズが、その基準となっています。そのため、JR各社に限らず、全国の鉄道会社で共通のサイズです。
この記事では、紙のきっぷのうち、硬券や端末券のサイズについてのお話を、あれこれとしていきたいと思います。
紙のきっぷのサイズの起源
現在流通している紙のきっぷの起源は、19世紀中ごろの英国にあります。
トーマス・エドモンソンという人が、1840年代に鉄道乗車券用の印刷機を発明し、特許を取得しました。規格化した紙片に券面情報を印刷し、鉄道乗車券を発行したのが、いわゆる「エドモンソン券」のはじまりです。
エドモンソン券のサイズは、縦が1-3/16インチ(30.16mm)、横が2-1/4インチ(57.15mm)です。発明当初、特許が取られていたこともあって、そのままのサイズで日本に伝来したものと考えられます。
このエドモンソン券のサイズは、現在のA型硬券と同じサイズです。現場では「エド券」と呼ばれることもあります。
硬券の規格・サイズ

さまざまなタイプの硬券が発売されている、千葉県銚子市の銚子電気鉄道。車両基地がある仲ノ町駅にて「硬券寸法券セット」なるものが販売されていたので、高価ながら買ってみました。
これには地紋が2種類あり、全国統一規格の「PJR」地紋と、銚子電鉄独自の「CDK」地紋があります。筆者はそのうち、CDK地紋のセットにしました。この硬券セットには、次の5枚の紙片が入っていましたが、紙のきっぷを語る上での教材になりそうと思い、買った次第です。

硬券それぞれのサイズと、一般的な用途は、次の通りです。
● A型券
横57.5mm 縦30mm
上述の「エドモンソン券」で、紙のきっぷの基準になるサイズです。券売機で発売される短距離乗車券は、すべてこのサイズです。
● B型券
横57.5mm 縦25mm
普通片道乗車券や入場券に多くみられます。A型券よりも小さいため、最も安価に制作でき、多くの鉄道会社で使用されています。
● C型券
横57.5mm 縦60mm
かつての普通往復乗車券にみられました。現在は実用途ではまず見かけず、記念に発売されている程度です。
● D型券
横88mm 縦30mm
普通往復乗車券や特急券、指定席券といった料金券に多く採用されています。現在見かける機会は減りました。
● 定期型券
横85mm 縦57.5mm
なぜ85mmなのかは判然としませんが、幅57.5mmのエドモンソン券用紙を大裁ちしたものと考えられます。現在、実用で見られることはありません。
以上からわかることは、D型券を除き、57.5mmというサイズが基準となっていることです。

銚子電鉄の駅で購入できる硬券のうち、ごく一部のものを寸法券とともに撮ったものです。
銚子電鉄においては、普通乗車券は一番小さなB型硬券で、A型硬券はノーマルタイプの普通入場券で見られる程度です。
上の写真にはありませんが、犬吠駅にてC型硬券でのきっぷが発売されています。
D型硬券は、銚子電鉄線内では見かけたことがありません。ただし、同社の製品である「ぬれ煎餅」に同梱されていた招待券がD型硬券でした。仲ノ町駅の入場券と銚子駅と外川駅間の往復乗車券が一葉となったものです。
定期型券は、仲ノ町駅で記念入場券として発売されています。
券売機券・端末券のサイズ

券売機や端末機から発券される端末券のサイズは、硬券よりもバリエーションが少ないです。
JRの端末であるマルス端末から発券されるマルス券には、有人操作の端末と指定席券売機から発券されるものがあり、そのサイズは2通りです。
一般的なものは、定期型硬券と全く同じサイズのマルス8.5cm券です。磁気エンコードされ、自動改札機を通れることから、極力8.5cmサイズで発券できるように処理されるようです。
例外的に、大きなサイズの12cm券が発券されることがあります。磁気エンコードできないため、自動改札機を通ることができません。磁気エンコードできない多経路の普通乗車券や、金額入力操作にて発行される連絡乗車券が、このサイズになります。社線単独の普通乗車券も、これに含まれます。
そして、企画乗車券の「ご案内」券片や、「クレジットカードお客様控」についても、券面上の情報量が多く、また自動改札を使用しえないこともあり、12cm券です。
JR以外の他社線の端末券も、自動改札を使用することから、共通のサイズになっています。東武鉄道を例にとると、特急券が定期型硬券大の8.5cm券、乗車券がA型硬券大のエドモンソン券です。
一般の券売機から発券される乗車券は、A型硬券大のエドモンソン券です。
JR各社の指定席券売機から発券される紙のきっぷは、有人端末で発券されるマルス券と同じ規格です。ほとんどは、自動改札を利用できる8.5cm券で発券されます。
ただし、例外的にJR北海道やJR東海管内の指定席券売機には、8.5cm券が発券される一般モードの他に短距離きっぷモードがあり、エドモンソン券も発券されます。
こぼれ話:巨大な軟券入場券
この記事では硬券や端末券のお話をしていますが、すごいきっぷがあったので、こぼれ話として紹介します。

長野電鉄長野駅で、大判の軟券入場券が発売されていたので、買ってみました。B型硬券と比較して、巨大なことがお分かりいただけるかと思います。A4判のタウンページと比較しても、存在感がある一品です。
まとめ
一見してまちまちのサイズと思われる鉄道きっぷですが、実は規格ありきであることがお分かりいただけたことでしょう。乗車券類の効力としては同じであっても、発行される乗車券の様式は数多く、それがきっぷ鉄の魅力の源泉と思っています。
この記事で取り上げた紙のきっぷはごくわずかです。是非、皆さま自身で多くの乗車券類を探っていただきたいです。
参考資料 References
● 「国鉄きっぷ全ガイド」(日本交通公社)1987.02
● インチーミリ換算表(明治産業株式会社)2022.8閲覧
【SeikenClassicHP】インチミリ早見表.pdf (mesaco.co.jp)
改訂履歴 Revision History
2022年8月09日:初稿
2023年3月23日:初稿 修正
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