筆者が各地を乗り鉄する際、目的地の駅の出札窓口で「障害者手帳」を呈示してきっぷを買う鉄道ファンを、ちらほら見かけるようになりました。筆者としては、大変心強く思います(この記事では障害者手帳を「手帳」と表記します)。
約20年前に職場におけるパワハラ・叱責を受け、激務にさらされました。そのことがきっかけで、治らない病気と付き合うようになり、手帳を持つようになりました。障害が顕在化する以前から鉄道趣味があり、クローズドにて旅行事務に従事したこともあります。
障害にもいろいろなものがあり、それぞれ必要な合理的配慮が異なります。身体障害の場合、スロープやエレベーター、点字ブロックなど物理的なサポートが中心です。
一方、知的障害や発達障害、精神障害の当事者には、きっぷの買い方やイレギュラー時などのソフト的なサポートが必要です。
この記事では、障害者手帳の中でも「療育手帳」もしくは「精神障害者保健福祉手帳」を所持する鉄道ファンを応援したく、困りごとやその対処法についての筆者の知見を簡単にまとめたいと思います。
障害を持っていても鉄道趣味を楽しみたい

はじめにお断りしておくと、この記事では一人で単独旅行できる程度の人を想定して、お話ししていきます(介助者と一緒に旅行する程度の場合、前提がかなり異なってきます)。
「一人でお出かけできるくらいなら障害ではない」と思う方も多いかもしれませんが、当事者にとっては不本意な見かたです。そのような言葉は、とりあえず無視していいと思います。症状や困りごとを抱えていることと、鉄道趣味を持つことは、別の問題であると筆者は考えます。
まず、障害者といっても特性や症状は人それぞれであり、それぞれ必要な困りごとや配慮は異なります。
障害者手帳には「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があり、障害特性や程度に応じて、申請すれば所持することができます(複数持つ人もいます)。
あくまでも筆者の主観に過ぎませんが、発達障害の特性の一つに「こだわり」があります(特に自閉症スペクトラム)。そのこだわりが、鉄道趣味のマニアックさに結びついているのではないかと考えています。
ただし、それらのマニアックな人たちがみな発達障害というわけではありません。健常者であってもマニアックな人が多いわけで、その辺誤解してほしくありません。
実は、発達障害や精神障害を持つ人には鉄道ファンが一定数いて、特性にうまく対処しながら鉄道趣味を楽しんでいるのではないかと推察します。第一、本当は障害を持っていても、それに気が付かない人や、自身が障害を持つことを受容できない人が、大変多いのではないでしょうか。
こういった当事者が、出先で困難に陥ることも多いのではないでしょうか。筆者自身も、出先で不快な思いをして体調を崩したり、イレギュラーな出来事に遭遇して狼狽したりすることがあります。
だからといって、見えない圧力や偏見に屈して出かけるのをやめる、という風にはなりたくないわけです。
手帳所持者への鉄道運賃の割引

鉄道を利用して鉄道趣味を楽しむというという、鉄道ファン=障害当事者も、徐々に増えてきたように思います。日常生活と余暇活動を問わず、外出と切り離せないのが、鉄道やバス運賃の割引です。
手帳所持者への運賃割引には批判が多くあったり、風当たりが厳しいと考えています。また、このトピックには、多分に政治的な問題がついて回ります。
運賃割引制度の存在意義は、もともと経済的支援の話です。日常生活の場である居住地で割引を受けることが圧倒的に多いです。しかし、制度である以上、遠くに出かけた土地でも割引を受けてもいいと考えます。
手帳所持者に対する運賃割引には、次の2つの大きな問題が依然としてあります。手帳の種別や等級、発行地で、割引の対応に差があります。これは公平ではなく、倫理的にも問題があります。
JR各社はじめ主な鉄道会社では、単独旅行の場合、101km以上の普通乗車券に限って半額になります。日常生活の中では、短距離移動する方がはるかに多いですが、その場合一切割引になりません。もちろん、距離に制限なく割引を受けられたり、普通乗車券のみならず回数券や定期券の割引を受けられる鉄道会社も多いです。
現在、運賃の障害者割引が精神障害者保健福祉手帳所持者にも制度化されている主な鉄道会社は、次の通りです。
● 西日本鉄道
2019年に導入。距離制限なし。
● 近畿日本鉄道
2023年に導入。単独旅行は101km以上
JR各社が割引導入に抵抗を見せる一方、公営交通や地方の地域鉄道会社の大半は、すでに割引制度を導入しています。まだまだです。
問題なのが、手帳の種別によって割引を受けられたり、受けられなかったりすることです。手帳によって差がつけられ、人によっては排除されたととらえることでしょう。
手帳所持者に対する運賃割引が制度として規定されている以上、その規定を活用して利用を重ね、制度の必要性をアピールするのが賢いやり方だと信じています。
きっぷを買うことさえ難しい

筆者個人的には、鉄道営業制度の勉強をしたり、旅行事務に従事した経験を通じて「きっぷ鉄」になったため、きっぷの買い方を本サイトで教授するくらい通じています。
しかし、多くの障害当事者にとって、駅できっぷを買うことが最も困ると言われています。
● 手帳の見せ方(駅員の不適切な扱い、見せること自体の抵抗)
● 券売機の操作方法
● 券売機で正しいきっぷを買うこと
● 交通系ICカードで自動改札を通過する際の問題
これらの中でも一番問題と思われるのが「券売機の操作方法」ではないでしょうか。
昨今では駅の「みどりの窓口」の多くが閉鎖されて、自分で調べて自分で券売機を操作して、ということが強いられつつあります。従来型の近距離きっぷ用券売機の操作もさることながら、最近増えている高機能の「指定席券売機」の操作は、障害のある人にとって困難であろうかと思料します。視覚障害者にとっては、タッチパネル自体を操作できませんし、それ以前に正しい知識がないと、操作自体難しいです。
健常者でも難しいこと、障害を持つ人にとっては、より厳しいことは言うまでもありません。
きっぷの買い方については、筆者も本サイトで多くの情報を提供しています。しかし、筆者が投稿している記事の内容は、鉄道ファンでない一般の人が簡単に理解できるレベルからは一線を越えていると、素直に認めたいと思います。
まとめ

鉄道趣味を楽しみに思い、手帳片手に各地に出かける障害当事者を多く見かけるようになりました。
そのような人たちに対して、「見た目には障害を持っているようには見えない」「出かけられるならば障害ではない」「障害があるなら出かけるな」ということを言わないでほしいと切に願いたいです。
鉄道を利用して旅行すること自体、イレギュラーの連続といっても過言ではありません。日ごろよりも健康管理に注意する、対処法をあらかじめ考えるなど準備を入念にして、是非出かけていただきたいです。
筆者も、手帳を所持して鉄道趣味を楽しむ人達を応援したいです。
参考資料 References
● 知的・発達・精神障害の人に対する公共交通機関の利用支援に関する検討業務報告書 (国土交通省)2021.02
改訂履歴 Revision History
2022年8月16日:初稿
2022年8月17日:初稿 加筆
2023年4月07日:初稿 修正
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