10時打ちには「えきねっと」もかなわない?~指定券予約開始のタイミング考察~

みどりの窓口 デジタル鉄(ネット)

新幹線や在来線特急列車など、JR線を走る列車の指定券の発売開始時期は、原則的に乗車1か月前の午前10時00分です。GWやお盆、年末年始の最繁忙期の列車や人気列車の指定券を取るのは、かなり大変なことです。

従前、列車の指定券は、駅のみどりの窓口(有人窓口)にて対面で購入するものでした。ところが、現在では駅の有人窓口の外、駅にある指定席券売機(みどりの券売機)、「えきねっと」などのJR各社のネット予約システムと、購入手段が多様になりました。

取りにくい指定席をいかに取るか、タイミングが大事であることは言うまでもありません。しかし、購入する箇所や手段によって、予約開始の時刻が必ずしも同時ではないことが、問題になってきました。

この記事では、駅の有人窓口や旅行会社、指定席券売機、ネット予約サービス「えきねっと」の予約開始のタイミングを細かく精査し、どの手段が優れているか、考えてみたいと思います。

そのために、JR指定席を管理するホストコンピューター「マルス」の接続・通信方式をみた上で、各手段の特性を考察することにします。

乗車9か月前から予約できる団体枠については本記事では考慮せず、乗車1か月前に発売が開始される個札に絞ってお話しします。

やっぱり10時打ちは強力です。この対応をしない駅が、ちらほら出てきたのが残念です。旅客の旅行機会確保に悪影響があるため、懸念します。

マルスシステムや端末について、公知情報だけでは情報の質量に限りがあり、筆者の推測がどうしても多くなります。その事情をあらかじめご承知のうえで、お読みください。

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10時打ちとは~指定券発売開始時期のお話~

駅コンコースの発車案内表示

最初に「10時打ち」とは何か、お話ししたいと思います。

冒頭で申し上げた通り、JR指定券の発売開始時期は、乗車1か月前の午前10時00分です。指定券の日にち、乗車区間、設備、人数、座席位置の希望などの条件を指定した上で、10時00分00秒にマルス端末の「発信」ボタンを押すことが、いわゆる「10時打ち」と言われています。

この「発信」ボタンを押す数分の一秒のずれで、座席が取れる取れないの悲喜こもごもがあるわけです。

つまり、10時00分になる前に条件入力を完了し、10時ちょうどにYES回答をもらう形になります。したがって、10時00分から条件入力を始めても、タイミング的に劣後することになります。後述する購入手段や箇所によって、このタイミングが異なるため、注意が必要です。

近年は増加が頭打ちにあるものの、マルス端末は全国に10,000台弱あります。予約リクエストは、膨大な数の端末から、10時ちょうどに発信されることになります。そのため、ホストコンピューター「マルス505」は、その負荷に見合った性能を有しています。

このことから、最繁忙期の列車や人気列車については、すさまじい争奪戦になることが明らかです。

乗車1か月前の応当日

乗車1か月前の日について、例えば10月10日の指定券を購入する場合の応当日は、9月10日になります。しかし、1か月30日間の月ばかりではなく、31日間の月や28日間の月があります。その場合の応当日は、次の通りです。

● 5月・7月・10月・12月の31日 → 当月01日

● 3月29日・30日・31日 → 3月01日(※)

※ 例外:うるう年の3月29日は2月29日が応当日

これらの日の中でも、最繁忙期の12月31日分の発売開始日である12月01日には、1月01日の発売も重なり、忙しい日といえます。春休み時期・年度末にあたる3月末の発売も3月01日に開始になるため、やはり忙しいです。

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各発売手段別の時間の流れ

駅の有人窓口(みどりの窓口)で、駅員さんの操作で10時ちょうどに発信する以外に、現在ではさまざまな発売手段があります。

発売手段別に、指定券の条件を入力してからリクエストを発信する時間の流れを、下表に落としてみました。10時00分ちょうどに回答を得られるのは、駅の有人窓口が唯一です。その他の手段では回答を得られるまで遅延があり、出遅れることが分かります。

JR指定券予約開始時期比較図

ありふれた結論ですが、最繁忙期の列車や人気列車の予約など、クリティカルなリクエストに対応できるのは、駅窓口での「10時打ち」に限ります。

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指定券の発売操作の流れ

JR指定券の予約は、旅客販売総合システム「マルス505」と呼ばれるホストコンピューターで中央処理されます。通信回線で接続された多くのマルス端末からのリクエストを、一手に処理します。したがって、方面や列車によって違うシステムで分散処理するわけでもなく、駅にあるマルス端末そのもので処理されるわけでもありません。

また、指定券予約の処理は、処理を要求した時に即時に行われます(このことをリアルタイム処理といいます)。ちなみに、ネット予約「えきねっと」や「e5489」における事前受付は、ためておいた処理を発売開始以降に一気に処理する形になるため、バッチ処理といえます。

駅の有人窓口(みどりの窓口)にある、係員操作型マルス端末を駅員さんが操作する場合、次の流れになります。

1.指定券の条件指定 → 10時より前に条件が正しいかどうか、あらかじめ「照会」操作で確認

2.10時ちょうどに「発信」→ リクエストがホストで処理され、予約可否の回答が得られる

しかし、ネット予約などの他の発売手段や取扱箇所によっては、上述の通り、操作が遅れます。10時ちょうどに「発信」操作を行えるかどうかで、指定券の取れる取れないに差が出てきます。

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ホストコンピューター「マルス」との接続形態

指定券予約のリクエストが処理されるタイミングを考えるために、まず処理の仕組みを簡単にみてみたいと思います。

JRシステムウェブサイトより引用

前述した通り、指定券の予約処理は、駅にある各々のマルス端末ではなく、ホストコンピューターである「マルス505」で一手に処理されます

通信回線で接続されたマルス端末からの要求が、ホストに届いてから処理されます。そのため、処理速度は通信形態や通信品質次第といえます。ここで留意すべきは、その接続形態や通信速度・品質がどの端末でも均一ではなく、発売手段や発売箇所によって異なることです。

マルス端末とホストの接続概念図

JR各駅の端末(有人窓口端末、指定席券売機等)からホストまでは、「JR-NET」とよばれる専用のIPネットワークを経由して直接接続されています。

一方、「えきねっと」をはじめとしたネット予約システムの場合、各ユーザーのデバイス(PCやスマホ)からインターネット経由で当該システムのサーバーに接続されます。そのサーバーを経由してホストコンピューターにリクエストが届くため、通信時間に遅延があることが分かります。

上図を見る限り、専用ネットワーク「JR-NET」で直接接続されている駅のマルス端末とちがい、ネット予約システムや旅行業システムにおいては、中継機器の数が多く存在します。

専用ネットワークで接続された駅のマルス端末や指定席券売機が通信品質上、有利であることは明らかです。中継機器があるネット予約システムや旅行業システムには通信に遅延が生じるため、数分の一秒の勝負に負けてしまいそうです。

【参考】小田急電鉄におけるホストと端末の接続形態

JRと同様、駅にある端末については専用の高速ネットワーク、駅以外の機器については専用線で接続され、外部接続は公衆回線経由で接続されています。駅からの通信が、最も通信品質が高いことは明白です。

みどりの窓口を支える「マルス」の謎 p115 より引用

発売手段・発売箇所別の詳細

指定券を発売手段や発売箇所によって、操作可能なタイミングや回答を得られるタイミングが異なります。ここでは、各別に考察していきたいと思います。

駅の有人窓口(みどりの窓口)

みどりの窓口

専用ネットワークに直結したマルス端末が窓口に設置されているため、クリティカルな処理を要するケースには最も確実な手段です。しかし、端末設置箇所が減少の一途です。有人窓口が家の近くにある人ほど有利といえましょう。

JR指定券予約開始時期係員操作端末

予約したい列車の詳細をメモに書き、10時よりも前に駅のみどりの窓口に持ち込めば、10時00分00秒に「発信」操作が可能で、回答を即時に得られます。これが、いわゆる「10時打ち」です。

もちろん、10時ちょうどの発信に備えるには、1番目に並ぶ必要があるのは言うまでもありません。

昔は、早朝から紙の予約申込書を「事前受付」として駅で預かり、10時以降に預かった順番で処理をしてくれました。受付番号と結果の○×が駅に掲示されていた時代もありました。しかし、紙の申込書を預かってくれる駅は、現在では存在しないと認識しています。この方法が、ネット予約における「事前受付」の仕組みに引き継がれているといえます。

ここ最近は、有人窓口の営業時間が短縮される傾向にあり、中には10時までに開かない窓口があります。その窓口では「10時打ち」を依頼できないので、注意しましょう。

ここ最近、JR東日本の主要駅にある「みどりの窓口」では、10時打ちの対応をしない駅が出てきています(高崎駅など)。人気が高い個室券などは、有人窓口しか手配手段がないため、困ることもあろうかと思います。拙速な業務縮小は、職務放棄ともいえるのではないでしょうか。

旅行会社

旅行会社の場合、マルス端末が設置されている店舗もあれば、旅行業システムしか設置されていない店舗もあります。マルス端末が設置されていれば、10時打ちの操作自体は可能です。

一般的に10時以降開店の店舗が多いため、当日依頼しても10時打ちには間に合いません。予約前日までにリクエストを預かってくれるかどうかは、店舗次第かと思います。

旅行会社に設置された旅行業システムからホストコンピューター「マルス」までの間には中継機器があり、通信回線も専用線とは限りません。JR各社の駅よりも、通信品質と速度は一段落ちると推察します。

指定席券売機(みどりの券売機)

駅の指定席券売機

JR各駅に設置された指定席券売機は、専用ネットワークでホストコンピューターに接続されています。そのため、通信品質や速度には問題ありません。

JR指定券予約開始時期指定席券売機

ただし、発売開始時刻が、乗車1か月前の午前10時10分00秒からなのが根本的に難です。有人窓口での予約開始から10分間遅く、その間に人気の高い列車から売り切れる可能性が高いです。

JR各社のネット予約サービス~「えきねっと」を例に~

JR各社のネット予約システムには、JR東日本・北海道で利用される「えきねっと」や、JR西日本・四国で使用される「e5489」、東海道・山陽・九州新幹線で利用される「EX予約」などがあります。

その他に、JRシステムが展開する「サイバーステーション」というサービスもあります。個人のPCからホストコンピューターに直接アクセスできますが、広く利用されているとはいえないため、この記事では考えないこととします。

駅の有人窓口と異なり、ネット予約システムはホストコンピューターと直結されていません。各ユーザーのPCやスマホからネット予約システムのサーバーまでは、公衆回線であるインターネットを経由します。そして、当該サーバーからホストコンピューターまで、中継機器を介し接続されています。そのため、処理に遅延が生じることが分かります。

2022年4月に「えきねっと」がシステムダウンした事象がありました。この際、ネット経由で指定券の予約ができなかったのに対し、専用回線で接続された駅の有人窓口や指定席券売機では難なく予約できました。このことから、ネット予約の品質については、中継するサーバーの処理性能に大きく依存しているといえます。

【えきねっとの例】

JR指定券予約開始時期えきねっと

「えきねっと」での発売開始時刻は、乗車1か月前の午前10時00分です。しかし、10時00分ちょうどには、予約可否の回答を得られません。

現行のえきねっとでは、10時00分以降に操作が可能となり、乗車区間や日にち、人数を入力して列車を検索します。設備や座席を決めて決済を行い、完了後初めて予約成立となるため、10時ちょうどにYES回答を得られるわけではありません

このように、駅の有人窓口では10時00分ちょうどに即回答を得られるのに対し、「えきねっと」では、10時00分以降の操作にかかる時間だけ、回答を得られるタイミングが遅れることになります。駅の有人窓口よりも条件が悪く、厳密には「10時打ち」とは言えないわけです。

ちなみに、2021年6月までの古い「えきねっと」では、予約内容をコマンドラインのように1行で記入し、10時ちょうどに送信し、即時に結果を得ることも可能でした。

【えきねっとの事前受付】

JR指定券予約開始時期えきねっと事前

「えきねっと」では、乗車日の1か月と7日前の14時00分から乗車1か月前の9時54分まで、事前受付としてエントリーすることが可能です。

そして、エントリーしたリクエストが、発売開始時刻の10時00分ちょうどに順次発信されます。駅の有人窓口での「10時打ち」に近い動作といえます。

この際、事前受付のエントリー順(受付番号順)に、えきねっとサーバーを経由してホストコンピューターへ順次発信されます。この処理に時間がかかることが多く、10時00分に自分で予約操作を行った方が早いこともしばしばあります。したがって、事前受付を過度に信用しない方がいいです。

ただし「えきねっとトクだ値」をはじめ、ネット限定発売の商品に関しては、有人窓口のマルス端末との競合が起こることはありません。ネット上で事前受付した順に、発売席数分だけの予約が成立するといえます。

「えきねっと」における事前受付の詳細については、筆者の別記事(↓)を参照してください。

【他のネット予約サービス】

● e5489(JR西日本):乗車1か月7日前5:30から事前受付/乗車1か月前10:00-手続

● EX予約(JR東海・西日本):乗車1か月7日前5:30から事前受付/乗車1か月前8:00-手続

● インターネット列車予約(JR九州):乗車1か月7日前10:00から事前受付/乗車1か月前10:00-手続

まとめ

みどりの窓口

JR指定券の予約処理は、駅にある各々の端末で行われるのではなく、通信回線で接続されたホストコンピューター「マルス505」が一手に処理します。全国からくる膨大な量のリクエストを瞬間に処理できる、巨大なシステムです。したがって、端末の接続形態や通信回線の優劣がものをいいます。

駅にある端末(係員操作端末・指定席券売機)とネット予約では、通信方法や通信品質が根本的に異なります。そのため、目に見えないところで処理時間に差が生じます。また、運用面で発売開始時刻も、発売手段ごとに異なります。

現時点で最も信頼できる発売手段は、駅の「みどりの窓口」にあるマルス端末から「10時打ち」で処理を行うことです。最繁忙期における人気列車の座席や個室、寝台列車など特殊な設備の座席をおさえるには、駅のマルス端末で「10時打ち」するのが必須といえましょう。

顧客自身による操作に移行し、駅係員による操作への依存から脱却するためには、指定席券売機やネット予約についても発売開始時刻をはじめ、発売の諸条件を同じにし、予約の機会均等を図る必要があります。

JR各社には、有人窓口を削減する以前に、「誰でも」「いつでも」「どこでも」同じ条件で予約できることを強く要望したいです。

参考資料 References

● マルスについて(JRシステム)2022.09閲覧

旅客販売総合システム「MARS(マルス)」|鉄道情報システム株式会社
旅客販売総合システム「MARS(マルス)」の紹介ページです。鉄道情報システム株式会社は、JRグループ関連情報システムおよびその他システムの開発・運営・管理信頼性の高い価値ある良質な製品・サービスを提供します。

● みどりの窓口を支える「マルス」の謎(草思社)杉浦一機著 2005.10

● 旅人をつなぐ”マルスシステム”開発ストーリー(アイテック)金子則彦著 2005.02

改訂履歴 Revision History

2022年9月21日:初稿

2023年4月07日:初稿 修正

2023年7月04日:初稿 修正

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