鉄道ファン御用達ともいえる臨時列車。JR各社から春夏秋冬で発表される「臨時列車のお知らせ」「増発列車のお知らせ」を心待ちにしている人も多いのではないでしょうか。
それらの列車はいわゆる「多客臨時列車(多客臨)」と呼ばれる列車で、指定席券など個札のきっぷで乗車できるものです。
その一方で、2022年に入った頃から、乗り鉄を楽しむための列車が「団体臨時列車(団臨)」として造成され、旅行商品として販売されることが多くなってきました。旅行商品のため、個札のきっぷを買うのではなく、団体の一員として列車に乗車する形です。
2022年下期辺りからは、興味をひく列車ほど、多客臨ではなく団臨として走ることが増えたような気がします。
そこで、筆者も団臨に乗車する機会を探っていました。そして、団臨として走る、お座敷列車「華」に乗車する機会を得ました。
この記事では、筆者が実際に団体臨時列車(団臨)に乗車する旅行商品を申し込み、実際に乗車するまでの体験をお話しした上で、旅行商品を利用するメリット・デメリットを考えたいと思います。

団臨ならではの乗り鉄の楽しさを体験できました!
お座敷列車「華」に乗車する旅行商品を申し込み♪

2022年10月はじめに、大月駅にて開業120年周年を祝うイベントがありました。そのイベントを見に出かけるための列車として、新宿駅から大月駅までお座敷列車「華」が団体臨時列車として仕込まれました。
日帰りでこの列車に乗車するだけの旅行商品でしたが、価格が大人7,000円とお手頃でした。お試しも兼ねて、この旅行商品を利用して団体臨時列車に乗車してみよう、と思い立ったわけです。
「日本の旅、鉄道の旅」ウェブサイト
JR東日本エリアを走る団体臨時列車に乗車できる旅行商品が、JR東日本からも直販されています。それらの旅行商品は、「日本の旅、鉄道の旅」ウェブサイトより購入できます。
従前「びゅうプラザ」で対面販売していた旅行商品は、現在はすべてこのウェブサイトから購入する形に変わっています。
筆者も、今回のコースを同サイトから発見しました。

途中の立川駅や八王子駅からも乗車できました。

列車への乗車だけではなく、地元酒蔵製のお酒のお土産付きでした。

筆者が、JR東日本の旅行商品サイト「日本の旅、鉄道の旅」にて、この旅行商品を見つけて申し込んだのが、8月下旬。その時にはまだ募集中でしたが、のちに満席になりました。
このウェブサイトに掲載された旅行商品、全ての商品ではありませんが「大人の休日俱楽部」会員には代金の割引があり、一般の人よりも安く購入できます。ただし、今回の商品については、旅行代金自体が安価だったため、会員割引はありませんでした。
このウェブサイトには、お座敷列車「華」ばかりではなく、185系電車や豪華列車「なごみ」など、様々な団体臨時列車に乗車できる旅行商品が掲載されていて、乗車したい欲求に駆られます。
旅行催行が確定|旅行商品のキャンセル料について
旅行催行日(列車乗車日)2週間前の9月17日までに、旅行が催行されるかどうか、連絡が来ることになっていました。実際は、それよりも2週間早い9月上旬に、旅行催行確定の連絡がきました。

催行確定の時点で、代金がクレジットカードから決済されました。

ちなみに、他の旅行商品と同様、日帰り旅行であるこの商品のキャンセル料なしのキャンセル期限は、出発11日前までです。以降、日が近くなるにつれて、キャンセル料が高くなる仕組みです(旅行商品の約款が適用)。
旅行開始日の | キャンセル料 |
10日前~8日前 | 代金の20% |
7日目~2日前 | 代金の30% |
前日 | 代金の40% |
当日(開始前) | 代金の50% |
当日(開始後・ノーショー) | 代金全額 |
この点が、旅客営業規則が適用される個札のきっぷの払いもどしとの大きな相違点です。

乗車当日の集合日時、場所や列車の運行時刻、当日の緊急連絡先などが記載された「出発のご案内」を見られるようになったのが、出発3日前の9月28日。タイミングとしては、かなり間際です。
お座敷列車「華」にいよいよ乗車♪【ゆき】

お座敷列車「華」への乗車当日(旅行当日)の10月1日早朝。集合時刻の6時10分過ぎに、筆者も集合場所である新宿駅に着きました。
旅行主催が、JR東日本の子会社「JR東日本びゅうツーリズム&セールス」であるにもかかわらず、当日案内や添乗していたのは、ほとんどJR東日本の駅員さんや社員さんでした(旅行主催会社のスタッフはほぼいなかった)。そんなわけで、旅行会社主催の旅行にもかかわらず、個札の多客臨時列車とほぼ変わらない雰囲気でした。

名前を告げて受付を済ませた際に受け取ったのが、席番が書かれたネックストラップ。筆者がもらったネックストラップは赤色でしたが、人によって色が違いました。何か意味があったのか??

少し早めに、列車が発車する10番線ホームへ。団体臨時列車のため、発車案内表示は「団体」。筆者が実際に乗車するのは、初めてでした。新宿駅では、列車名の表示は特にありませんでした。

6時54分に、団臨「華」が入線。10番線ホームにいたのは全員この列車に乗車する人でした。みんなが写真撮影する熱量がすごく、団臨独特の雰囲気を感じました。

ほどなくドアが開き、車内へ。受付時にもらったネックストラップに書かれた席を探して着席。旅行商品の特性として、自分で好きな席番を指定できないことがありますが、今回は問題ある席ではなかったので、よかったです。
筆者が乗ったのは「華」の2号車でした。2号車の本来の定員は24名です。今回は、16名が乗車していて、8名分は空きでした。グリーン車扱いであるにもかかわらず、定員いっぱいに乗車した場合、かなり窮屈な空間です、今回は定員の3分の2ほどの人数で、ゆったりとした空間が確保されていました。

1号車のデッキ。485系電車の生き残りである「華」の洗面所も、ゆったりした配置です。アイスクリーム?を格納できる冷蔵ケースがありましたが、使われていないようです。

発車時刻の7時03分に、JRの駅員さんがお見送り。多くの観光列車でみられる光景です。駅員さんが、JR八王子支社のキャラクター「モモずきん」を持っていました。筆者がこのぬいぐるみを持ち帰れるとは、この時はつゆつゆ思いませんでした。。。

各座席には、「大月駅いま・むかし」という手作りのランチョンマットと、記念乗車証が置いてありました。このD形硬券の厚さが、多くの実使用ボール紙の厚さよりも薄いのが、ちょっと残念。。。
ゆきの車内では、旅行商品の案内にあった通り、「メモリアルクイズ」に答える時間がありました。485系「華」や大月駅、中央本線の雑学が出題されていました。問題数がかなり多く、マニアックな設問が多かったにもかかわらず、全問正解者が7名。鉄ヲタパワー、恐るべし。
途中、大月駅の一駅手前の猿橋駅で、時間調整で約30分間停車。ここで、観光案内パンフを読み込み。そして、定刻の9時05分に終点の大月駅に到着。
大月駅にておもてなし

大月駅では、駅長さんと地元の方がお出迎え。

車内にあった案内パンフで知った、この日限りで台紙が付いた大月駅入場券を早速購入。

入場券ではなく、特急券購入でもオッケーとのことでした。

2種類ある台紙の中から、一つ選択。はやりの入場券台紙をここでも見られましたが、好評ですぐに売り切れ。
大月駅前のロータリーでは、大月市長や大月駅長が出席した120年記念式典が開催されていました。「華」の乗客には参加が強制ではなく、かえりの列車までの長い自由時間が始まりました。
新宿駅まで戻る車中にて【かえり】

大月駅から新宿駅まで戻る、かえりの「華」は、16時08分の発車。
筆者は長い自由時間を、富士急行線の乗り鉄や、大月市内の地酒の酒蔵訪問をして過ごしました。列車が発車する16時の少し前に大月駅に戻ったら、すでに多くの乗客がホームに待機していました。

大月駅3番線ホームの発車案内で見られた「大月駅120周年記念号」の表示。

個札の多客臨時列車でも、団体臨時列車でも、かえりの列車は似たような雰囲気です。

発車間際になって、車両が入線。列車に乗車してからすぐに大月駅を発車しました。その後、途中の相模湖駅にて長時間運転停車。途中、八王子駅と立川駅で乗客を降ろし、終点の新宿駅に着いたのが、17時59分でした。

帰りの車中で、旅行申込時に選んでいたお土産の地酒「笹一」純米1合瓶が配られました。山梨らしいフルーティーな飲み口の日本酒です。

それから、ゆきの列車で解答した「メモリアルクイズ」の解説が配布されました。そして、景品の当選発表が。当選者が、スピーカー越しに口頭で発表されました。
当日の景品は、オリジナルキーホルダー24名分、山梨印伝の財布など6名分、JR八王子支社キャラクター「モモずきん」のぬいぐるみ6名分。この日の乗客約100名の3分の1が当たる計算でした。

筆者はなんと、「モモずきん」のぬいぐるみが当たりました!肌触りがとても柔らかい一品です。

背後のマントのデザインがなんとも(笑)頭のほうが大きくて、自力で座れないモモずきん。
これらの品物を一人一人に配っていたのが、平日はオフィスで働いているであろう、八王子支社の社員さんたち。汗をかかれている姿に、少しだけ感銘しました。
旅行商品の価格分析|旅行商品のメリット・デメリット

今回は、お座敷列車「華」に乗車するだけの旅行商品を利用しました。お土産がついていましたが、サービス自体は個札ベースの多客臨時列車とほとんど変わらない内容でした。
旅行代金は、大人7,000円。これが旅行商品ではなく、個札だったらいくら位に相当するか、筆者なりにざっくり分析したいと思います。
旅行代金の積算
485系電車のお座敷列車「華」は、全車グリーン車です。この列車で運行された個札ベースの多客臨時列車では、快速列車として運行された実績が大半です(2022夏「新宿・甲斐国」など)。したがって、今回の団体臨時列車も、快速列車の指定席グリーン車と考えて、料金の分析を行うのが適切と考えます。
● 旅行代金の積算:新宿駅ー大月駅 77.5km
往復分 | 個札:多客臨 | 旅行商品:団臨 |
乗車券 | 2,680円 | 2,680円相当 |
普通列車グリーン券 | 2,000円 | 3,000円相当 |
お土産 | なし | 570円相当 |
旅行保険 | なし | 500円相当 |
【商品利益】 | 0円 | 250円 |
合計 | 4,680円 | 7,000円 |
今回の列車が団臨ではなく、一般の臨時列車として造成された場合、往復の運賃・料金の合計は4,680円です。ただし、旅行保険やお土産などの費用は一切含まれません。また、列車が満席だった場合、車内がかなり窮屈だったと想定できます。
今回の団臨の場合、車両定員いっぱいの人数を詰め込まず、余裕ある車内でした。グリーン料金相当分を考えるのに、その余裕を考え、個札の1.5倍の3,000円相当と見積もりました(団体割引は考慮せず)。お土産や旅行保険分を考慮すると、素材のみで7,000円近い結果になりました。というわけで、実は利益がほとんど発生していないことがわかります。
今回は一回きりのイベント列車だったため、採算度外視の価格設定をしたものと考えます。しかし、持続的に発売する旅行商品としては、心もとない価格設定といえます(利用客目線では、至れり尽くせりでいい思いをさせていただき、とてもおトクですが)。筆者個人的には、もう少し利益を乗せても適正だったかと思います。
旅行商品のメリット・デメリット

団体臨時列車「華」を利用した体験から、筆者なりに旅行商品のメリットとデメリットを簡単にまとめました。
【メリット】
● 運送のためではない娯楽のための列車への乗車体験を味わえる
目的地までの運送では実現できない、娯楽としての車内イベントを体験できたり、一般客に気を遣う必要がなかったりと、非日常の乗り鉄を趣味として満喫できます。団体臨時列車としての運行でないと、一般人に理解されるのは厳しいでしょう。
● 旅行申込完了=指定席の確保
個札ベースの列車の場合、乗車1か月前に指定席券の争奪戦に勝たなければなりません。しかし、旅行商品の場合、申し込みが乗車1か月よりも前でも、(旅行が催行される限り)席が確保されます。
● 手配を一件づつしなくてよい
個札では、列車のきっぷ、宿泊施設の予約を一件づつ自分でこなさなくてはなりません。しかし、旅行商品にはそれらのすべてが含まれているため、手配の煩雑さから解放されます。
【デメリット】
● 旅行代金の内訳が見えにくく、代金が高額と思われる
ひとつの旅行商品である以上、代金の内訳を開示する必要は、本来全くありません。しかし、旅行代金の総額表示が高額になるため、利用客にとって高いと思ってしまうのは仕方ないところでしょう。鉄道ファン向けの商品は供給が薄く、価格がどうしても高騰しがちです。
● 列車の座席が自分で選べない
旅行商品の場合、一部の「のってたのしい列車」を除き、自分で座席を選ぶことができません。また、相席が前提になることに抵抗がある向きがあるかもしれません。
● 利用客を旅行会社側で選べうる
個札ベースの一般列車として運行する場合、乗車拒否は困難です(運送契約)。一方、旅行商品は事前の申し込み・承諾(旅行契約)を伴うので、悪い言い方をすれば、問題ある利用者をあらかじめ排除することも可能です。デメリットとして挙げましたが、見方によっては客層がよくなる点でメリットとなりえます。
おわりに

一般の列車では実現が難しい車内イベントが、旅行商品として造成された団体臨時列車であれば簡単に実現できることが、今回の体験を通してわかりました。
列車に乗車すること自体が目的の「乗り鉄」で観光列車に乗車する場合、一般客との乗り合いよりはむしろ、目的が同じ利用者同士での団体専用のほうが望ましいとも思えます。
ただし、旅行商品は総額表示で内訳が見えないため、どうしても高額との印象を持たれがちです。金持ちだけではなく、一般庶民にも乗り鉄趣味を楽しめる状況であるのが、社会として健全な姿と考えます。
旅行の主催者であるJR東日本さんには、適正な利益を乗せつつも、一般庶民にとっても気楽に利用できるよう、良心的な価格設定を期待したいところです。庶民でも団体臨時列車の良さをリーズナブルに体験できれば、「乗り鉄=お金持ちの趣味」と思われず、大変すばらしいことではないでしょうか。
Appendix:485系お座敷列車「華」簡易席番表

「華」の車内には掘りごたつが並んでいて、テーブルに対面に座ります。1テーブルは、6人掛けもしくは8人掛けです。車端部にはカラオケ装置がありますが、現在は使われていません。

参考資料 References
● 「日本の旅、鉄道の旅」ウェブサイト(JR東日本びゅうツーリズム&セールス)
● きっぷあれこれ:グリーン券(JR東日本)
改訂履歴 Revision History
2022年10月13日:初稿
2023年4月07日:初稿 修正
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