複数の鉄道会社の区間を直通して旅客や貨物を運送する制度を「連絡運輸」といい、当該事業者間で契約を締結した上で制度を運営します。
連絡運輸によって複数の鉄道会社の区間をまたがって乗車する際、一枚のきっぷを買って当該区間を乗車することができます。そのきっぷを「連絡きっぷ」や「連絡乗車券」といいます。普通乗車券だけではなく、定期乗車券で連絡運輸が適用されます。
その連絡運輸が、大幅に縮小され続けています。連絡きっぷの発売が、2022年春には近畿圏にて大幅に縮小し、2023年春には東京圏でも大規模に縮小されました(廃止といっても過言とはいえないほどの大整理でした)。
普通運賃における連絡運輸範囲の大幅な縮小は、2023年以前には2016(H28)年にもありました。2015年以前はかなり自由に利用できた連絡運輸が、10年も経たないうちになくなったも同然な状態まで縮小されました。
この記事では、連絡運輸の旅客にとってのメリットを挙げたうえで、普通連絡乗車券に関する最近の動向を、可能な範囲でまとめます。
連絡運輸のメリット

連絡運輸のメリットは、旅客にとって目に見える形でいくつかあります。
● 旅行開始前に運送契約が確定する
紙のきっぷのメリットは、改札口を入場し、列車に乗車するまでに全区間の運送契約が確定し、鉄道会社が全区間の運送の義務を負う形になります。
列車運行の障害時に振替輸送を受けられるメリットがあるのが大きいと考えます。あらかじめ紙のきっぷを目的地まで買っておくことが肝要です。交通系ICカードでは、振替輸送の措置を受けられません。
● 学割・障害者割引を適用しやすいこと
学割を適用する際、鉄道会社ごとに101km以上乗車しなければならないため、あまりメリットがないと考えがちです。しかし、割引証の枚数を節約できることは、明白なメリットといえます。
【学割適用の主な鉄道会社】東武鉄道/近畿日本鉄道/青い森鉄道
また、運賃の障害者割引が適用されやすくなります。身体障害者・知的障害者が介助者なしに単独で乗車する場合、101km以上乗車する必要があります。連絡運輸の場合、全区間通算で101kmあれば全区間で割引が適用されるため、旅客にとって有利です。
● 乗継割引の適用
各社の初乗り区間などを連絡して短距離を乗車する際には、運賃が高額になりがちです。そのために乗継割引が設定されることがあり、運賃が若干安くなることもメリットとして挙げられます。
● きっぷの有効日数や途中下車などきっぷの効力が旅客有利に
連絡運輸によって、きっぷの効力が有利に働くことがあります。複数の鉄道会社の全区間に対して一つの運送契約であるため、きっぷの有効日数が通算され、途中下車制度が適用されやすくなるといえます。
例えば、今回設定が廃止される、小田急線新宿駅から小田原駅を接続駅として経由し、JR熱海駅までの区間。通しで乗車すると103.2kmと101kmを超え、障害者割引の適用対象となります。さらには、JR東海道線函南駅以遠の区間であればきっぷの有効日数が2日間となり、全線で途中下車が可能です(割引適用関係なく)。
逆に言うと、鉄道会社にとっては運賃収入の減少につながる上、煩雑な事務手続き=経費負担の大きさがデメリットかと思います。
えきねっとにおける連絡乗車券類の発売事情
交通系ICカードで発行される定期乗車券と異なり、普通乗車券の連絡運輸は交通系ICカードの普及に伴って縮小の一途です。一方で、特急列車などの相互直通列車をネットで予約購入するというニーズは、確実に残っています。
現在「えきねっと」上で購入できる他社線またがりの普通乗車券や特急券は、JR線との直通列車がある鉄道会社を中心に、いくつかの会社が挙げられます。
連絡社線 | 連絡特急券 | 操作可否 |
えちごトキめき鉄道【直通特急あり】 | ※ | 可 |
あいの風とやま鉄道 | ||
IRいしかわ鉄道 | ||
伊豆急行【直通特急あり】 | ○ | 可 |
伊勢鉄道【直通特急あり】 | ○ | |
智頭急行【直通特急あり】 | ○ | |
京都丹後鉄道【直通特急あり】 | ○ | |
土佐くろしお鉄道【直通特急あり】 | ○ | |
青い森鉄道 | ||
IGRいわて銀河鉄道 | ||
北越急行 | 可 | |
伊豆箱根鉄道(駿豆線)【直通特急あり】 | ○ | 可 |
富山地方鉄道 | ||
のと鉄道 | ||
アルピコ交通(上高地線) | ||
しなの鉄道 | ||
東武鉄道【直通特急あり】 | ○ | 可 |
富士山麓電氣鐡道(富士急行線)【直通特急あり】 | ○ | 可 |
※ 接続社線内の指定席特急券は発売しない
えきねっとに限らず、JR線の駅で連絡きっぷを買う場合、きっぷの一部にJR線区間を含む必要があります。上表に○が記載されているからといって、連絡会社区間だけのきっぷ(社線単独)を買うことはできません。
連絡運輸縮小のトリガー

近年連絡運輸に関する規程が続けざまに改訂され、縮小の一途をたどっているのには、いくつかの背景が考えられます。具体的には、以下の4点が直接的な引き金ではないかと考えます。
● 交通系ICカードの普及
交通系ICカードやスマホで自動改札を通って、紙のきっぷなしに乗車するスタイルが主流になったことが、最大の要因です。
● 障害者用ICカードの利用開始
2023年3月より、身体・知的障害者で第一種の障害者手帳を所持する旅客向けに、障害者用交通系ICカード(Suica・PASMO)の利用が開始します。複数の鉄道会社を続けて乗車する障害当事者に要する配慮が、きっぷの面では減少したと考えます。
● 鉄道駅バリアフリー料金の適用開始
大都市圏で2023年3月から始まった鉄道駅バリアフリー料金制度では、乗車1回ごとに大人10円が加算されます。そのため、実質的に運賃改定となって駅の運賃表や券売機の設定が一斉に更新されます。
● 相模鉄道線のネットワーク化
2023年3月に開業した相鉄・東急新横浜線で、相鉄沿線から東京都心に向かう経路の選択肢が増えました。例えば、JR直通線の目的地(渋谷・池袋)には、JR埼京線経由でも東急東横線経由でも向かえます。もし、すべての経路で紙のきっぷ(普通乗車券)を発売した場合、間違った経路を誤って購入してしまうことが容易に想定できます。その混乱を防ぐには、紙のきっぷの不売はやむを得ないでしょう。
鉄道会社にとって負荷であるこれらの作業が連絡乗車券にまでおよぶことから、これをきっかけに普通乗車券の発売を取りやめようと考えるのは、至って自然なことと考えます。
余談ですが、連絡運輸マニアの存在も、縮小を加速させたのでしょうか??
連絡運輸が縮小・廃止される鉄道会社【東京圏】

ここでは、2023年3月17日をもって普通連絡乗車券の発売が縮小もしくは廃止される鉄道会社(事業者)をリストアップします。
改訂される詳しい内容(券種や接続駅、区間)に関して、あいにく全貌はみえません。ここでは東京圏内に所在する事業者名のみをリストアップした上で、筆者が把握している事項を備考欄に記載しました。
連絡社線 | 備考 |
秩父鉄道 | 普通旅客全廃 |
関東鉄道 | |
東葉高速鉄道 | 新京成電鉄連絡終了 |
新京成電鉄 | JR東日本/東葉高速鉄道連絡終了 |
東武鉄道 | 栗橋駅接続は従前のまま残存・乗継割引以外大幅整理 |
京成電鉄 | |
西武鉄道 | |
東京地下鉄(東京メトロ) | 千代田線・常磐線関連連絡運輸・通過連絡運輸は残存 |
東京都交通局(都営地下鉄) | 普通旅客の影響なし(定期旅客の新線対応?) |
東京臨海高速鉄道(りんかい線) | JR東日本との連絡は残存 |
東京モノレール | JR東日本との連絡は残存 |
小田急電鉄 | 松田駅接続はほぼ残存 |
京王電鉄 | |
東急電鉄 | 相模鉄道線とは連絡運輸を行わない |
京浜急行電鉄 | JR東日本との連絡:品川駅接続羽田空港関係は残存 |
相模鉄道 | 東急電鉄線とは連絡運輸を行わない |
横浜市交通局 | 普通旅客の影響なし(定期旅客の新線対応?) |
箱根登山鉄道 |
東京圏一都三県に所在する鉄道会社(事業者)のほぼすべてが含まれます。

今回の改正内容が垣間見える部分です。例えば、接続駅の小田急線藤沢駅および小田原駅については定期旅客のみに縮小されています。新宿駅や登戸駅には「片」が残っていますが、乗継割引区間に対応するため残存しています。

JR東日本に関しては、詳細が非公開となっています。何らかの変更がある会社がリストアップされているだけです。
これらの断片的な情報からわかるのは、「鉄道駅バリアフリー料金」が適用されるJR東日本東京地区の電車特定区間に接続するすべての鉄道会社が該当することです。
一方で、鉄道駅バリアフリー料金の影響を受けない地方の鉄道会社については、一部を除き今回の改正範囲に含まれていません。
一覧にある「東京都交通局」や「横浜市交通局」など、従前から普通旅客に対する連絡運輸が廃止されている事業者も、今回リストアップされています。したがって、2023年3月の改定では、定期旅客に対する変更も含まれるものと推測します。
連絡乗車券として残るもの
現時点でわかっている情報では、今回の縮小後も連絡きっぷとして残存するものは、以下の通りです。
● 定期乗車券
交通系ICカードの定期券であっても連絡乗車券は連絡運輸に基づくため、なくならないと考えます。
● 相互直通運転が行われている区間の連絡きっぷ(普通乗車券)
地下鉄東西線や千代田線、JR埼京線やりんかい線が、これに含まれます。
● 乗継割引が適用される区間の連絡きっぷ(普通乗車券)
JR線と私鉄線の連絡きっぷの一部が、これらに該当します。券種は片道に限られるようです。
本来は公示されるべき「別表」を非公開とする事業者がある以上、外の人間が正確な情報を把握するのは、なかなか困難です。その辺の事情を理解の上で、本記事をお読みいただけると幸いです。
参考資料 References
● JR東日本 運送約款の改正履歴
● JR東海 運送約款の改正履歴
改訂履歴 Revision History
2023年02月14日:初稿
2023年02月15日:初稿 加筆
2023年02月20日:初稿 加筆
2023年3月01日:初稿 修正
2023年3月07日:初稿 修正
2023年3月17日:初稿 修正
2023年4月01日:初稿 修正
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