鉄道が走ってない沖縄県。県内の公共交通機関は、基本的に各島内を走る路線バスや離島への定期航路です。石垣島をはじめとする八重山諸島にも路線バス網や定期航路がありますが、筆者が訪れた時に少し違和感を覚えました。
石垣空港から石垣港離島ターミナルまでを結ぶ路線バスの運行会社には「東運輸」と「カリー観光」の2社があります。また、定期航路も「八重山観光フェリー」と「安栄観光」の2社がしのぎを削っています。船の運賃や出航時刻が両社ともほぼ同じことを不思議に思う方もいるのではないでしょうか。
公共交通の世界では、一部の例外を除き、原則的に一つの路線に2社以上参入できません。ところが、八重山諸島の公共交通がその原則を打ち破っていることに、筆者も興味を覚えました。
この記事では、石垣島を含む八重山諸島における、路線バスや定期航路などの公共交通機関の特色をお話しします。もちろん、各社の特長を踏まえて、うまく利用するためのヒントを書きたいと思います。
そして、八重山地方の公共交通の課題を掘り下げて考えたいと思います。あくまでも、一見の観光客が外野から観察し、気づいたところをお話しすることをご承知おきください。

石垣空港から石垣港離島ターミナルに直行するにはカリー観光のバスが、石垣島めぐりには東運輸のバスが便利です。波照間島に向かうには、安栄観光の船しかありません。交通系ICカードは使えません。
2社が火花を飛ばし合う八重山地方の公共交通機関

石垣島の陸上公共交通機関は、路線バスです。路線バスが島内を網羅しているものの、地元市民の利用は少なく、観光客の利用で底上げされているようです。
石垣島内の路線バスで最も利便性が高いのが、石垣空港と石垣港離島ターミナルを結ぶ路線です。利用客が少ない他の路線に対して、この路線は日中30分間隔で運行していて、地元客も観光客も多いです。
その路線を運行しているのは、地場の「東運輸(あずまうんゆ)」と沖縄本島に本社がある「カリー観光」の2社です。それぞれの会社が日中30分間隔で運行しており、運賃もほぼ同額です。各社には特長がありますが、基本的には競合関係にあります。
石垣島と八重山諸島の各離島を結ぶ定期航路を運航する会社には「八重山観光フェリー(八重観)」と「安栄観光(あんえいかんこう)」の2社があります。これも例によって、同じ路線(航路)を同じ出航時刻と同じ運賃で運航しており、完全に競合している関係です。
公共交通機関においては、一つの路線を一社で独占して運営する基本的な原則があります。しかし、八重山地方では、陸上でも海上でも2社がガチンコ勝負で利用客を食い合っている状況です。
石垣島における路線バスの状況
沖縄県八重山地方で路線バスが走っているのは、石垣島と西表島の2島です。そのうち、西表島にはバス運行会社が一社しかないため、本記事では説明を割愛します。石垣島では路線バス運行会社が2社あり、石垣空港から石垣港離島ターミナルまでの区間で競合しています。
ここでは、石垣島の2社の特長をみていきます。両社とも交通系ICカードは使えず、現金払いだけです。
東運輸

東運輸(あずまうんゆ)は、本社が石垣市に所在する地場のバス会社です。路線バスの他に、定期観光バスも運行しています。多くの系統が島中を網羅していて、本土の人からしたら至って普通のバス会社です。
東運輸は石垣港離島ターミナルの近くにバスターミナルを構えており、すべての系統のハブ的な役割があります。バスターミナルからは、大体どこにでも行けます。

石垣港離島ターミナルを出て右に向かうと、すぐにバスターミナルが見えてきます。大通り側と反対側にバス乗り場があります。
石垣島も例によって車社会で、一部の区間を除き、地元客が少ないです。その中にあって、空港から石垣港に向かう路線の本数が多く、地元客、観光客ともに利用が多いです。主力路線である空港線には、以下の系統があります。
● 4番系統[平得大浜白保経由]
各停留所で乗客を拾う各駅停車タイプの系統。日中30分間隔の運行で、空港から港までの所要時間は35‐40分程度。運賃は大人540円。
● 10番系統[アートホテル・ANAインターコンチネンタル経由]
各駅停車タイプながらインターコンチなどのホテルを経由し、観光客にとって便利。日中30-60分間隔の運行で、空港から港までの所要時間は40-45分程度。運賃は大人540円。

港の近くにあるバスターミナルでは、金額式の回数券を購入できます。シート型のものは1,000円で購入でき、1,100円分使えます。二人でバスターミナルから空港まで乗車すると現金払いよりも少しだけおトク。
また、石垣島内を路線バスでめぐる場合には、おトクなフリーきっぷも利用できます(24時間券/5日券)。
カリー観光

カリー観光は、本社が沖縄本島に所在し、本島と石垣島で路線バスを運行しています。石垣島では、石垣空港から石垣港離島ターミナルまでの区間を直行で結ぶ路線を運行しています。バスの車両は、普通の路線バスタイプです。
地元の人も利用できなくはないですが、島外からの観光客向けです。
日中30分間隔の運行で、所要時間は約30分です。途中の停留所での乗降がなく、運賃も大人片道500円と東運輸よりも少しだけ安いので、空港から離島に直行する観光客には利用しやすいです(往復大人900円)。
石垣空港の路線バス乗り場

国内線ターミナルを出てから左に向かうと、バス停が見えてきます。

ターミナルの出口からみて、一番手前が東運輸のバス停で分かりやすいです。カリー観光のバス停は一番奥なので、分かりにくいです。

東運輸のバス停です。

カリー観光のバス停です。一番奥にあって、目立つデザインです。
石垣空港発路線バス発車時刻
> カリー観光: 毎時20分/50分
> 東運輸4番系統: 毎時00分/30分
東運輸の路線バスの発車がカリー観光の直行バスの発車よりも遅いですが、直前直後のタイミングではないため、観光客の奪い合いというわけではありません。
石垣港離島ターミナルの路線バス乗り場

ターミナルを出て正面左方にカリー観光のバス停が、正面右方には東運輸のバス停があります。探しやすさには、特に差がありません。

離島ターミナルの斜め右手には、東運輸のバスターミナルがあります。離島ターミナルを通らない便があるので、バスターミナルから乗ったほうが確実だと思います。
石垣港離島ターミナル発路線バス発車時刻
> カリー観光: 毎時00分/30分
> 東運輸4番系統: 毎時03分/33分
東運輸の路線バスの発車が、カリー観光の直行バスの発車の直後です。東運輸にとっては、カリー観光に利用客を横取りされているような感覚かもしれません。
八重山の離島を結ぶ定期航路の状況

沖縄県八重山地方の離島には、石垣港から定期航路でアクセスできます。観光で以下の島を訪れる場合は、基本的に高速船を利用することになります。
竹富島/小浜島/西表島大原/西表島上原/鳩間島/黒島/波照間島
これらの島のうち、西表島上原/鳩間島/波照間島の航路は外海に出るため、しけの影響で欠航が多めです。
よそでは見られないこの航路の特徴は、同じ航路を2社が運航していて、しのぎを削って競合していることです。2社とも同じ就航地、ほぼ同じ出航時刻、同額の運賃で、違うのは船が走るスピードと乗り心地くらいでしょうか。利用者にとってはどちらの船会社がよいか、分かりにくいです。
八重山観光フェリー(八重観)

八重山観光フェリーは、沖縄が本土復帰した際に、いくつかの船会社が統合してできた会社です。

石垣港離島ターミナルのバス停から入って左手にあるカウンターが八重観で、明るい雰囲気で一見の観光客にもとっつきやすいです。
筆者も利用しましたが、職員の対応が比較的穏やかで、船自体もきれいです。普段運航される高速船がすべて双胴船で、揺れが比較的少ないことから、観光客向けのように思います。とがったところが特になく、無難に利用できると筆者個人的に思います。

八重観の乗船券。現在は、八重観でしか使えません。片道づつでも買えますが、往復で乗船券を買ったほうが割安です。
定期航路事業だけではなく、離島をめぐる日帰り旅行を催行していて、離島めぐりをアレンジしてくれます。
ただし、八重観は上記の島のうち、波照間島には船を出していません。
安栄観光

安栄観光(あんえいかんこう)は、沖縄の本土復帰時から独立して航路を運営している船会社です。石垣港離島ターミナルのバス停から入って右手にあるカウンターが安栄観光ですが、筆者個人的にはとっつきにくく、足が向かなかったです。

スピード勝負のバンカラな社風で、なるべく欠航しないで船便を出すと言われているようです。しかし、いくつかのレビューサイトによれば、客あしらいが総じて良くないようです。それでも、地元の島民からの信頼は厚いようです。観光客が利用するにしても、どちらかといえば玄人向けといえるかと思います。
大型の双胴船も所有していますが、小型の単胴船で運航される便もあって、航海中揺れる可能性があります。船の瞬発力があっても、慣れないと船酔いしそうな感じがします。
八重観にない特長としては、安栄観光だけが波照間島への航路を持つことです。また、アイランドホッピングと呼ばれる島間航路を多く出しています。それらの航路を活かして、八重観が組めないような離島めぐりのコースが多く出ています(コースの旅程自体はかなりハードですが)。
2社がガチンコ勝負する公共交通機関の特異さ

ここまで見てきたように、石垣島や八重山諸島における路線バスや定期航路では、それぞれ2社がガチで競合する現状があります。
特に、定期航路では、同じ区間をほぼ同じ出航時刻、同じ運賃で運航し、違うのは船体のサイズや走るスピード、乗り心地くらいというところです。
しかし、公共交通機関に制限なく競争を認めてしまうと、安全性の低下や投資の無駄が発生するリスクがあります。そのため、一つの路線には1社しか参入できない(認可しない)基本原則があります。
本記事でお話ししている事例では、各社が競争しているのは誰の目から見ても明らかです。健全な良い競争とはとても言えず、つぶし合いの悪い競争に違いありません。
八重観と安栄の2社間では一時期、乗船券の共通化が図られて、協調路線に向かいました。しかし、共通化も2020年で終了し、再び競合しています。
現在の状態は、独占禁止法上の「カルテル」が疑われます。しかし、海上運送法や独占禁止法特例法による定期航路や路線バスの共同経営については認められているため、複数の事業者の存在が一概には否定されないことになっています。
とはいえ、本事例のバス会社や船会社の競合は、利用客目線では公正であるとはとても考えられません。運行時刻や運賃が横並びで、談合していると思われても仕方ないからです。
地元の自治体である石垣市や竹富町は、これらの競合に対しては問題意識をあまり持っていないようです。利用客が減少するとこれらの運航会社の共倒れを招き、公共交通の持続性が確保されなくなるため、注視が必要に思えます。
まとめ

一見の観光客にはなかなか気が付きにくい問題をはらんだ、沖縄県八重山地方の公共交通。行政があまり問題視していないように思え、筆者としては気になります。
一つの路線に1社しか参入できない公共交通の基本原則を打ち破った、路線バスと定期航路の現状があります。健全な競争とはいえず、共食い状態といっても過言ではないでしょう。
蛇足ですが、竹富島の水牛車の運営業者も2社あり、これもまた競合関係です。
ライバルと火花を散らせて競合する姿は、南の島の明るいイメージとは明らかにギャップがあります。筆者個人的には、狭い島ならではの閉鎖性をどうしても強く感じ取れてしまいます。
ただし、それぞれの運営会社には、自社でしかやれないような独自の特長があるのがポイントです。旅行者としては、本記事でふれた点をうまく使い分けて、賢く快適な旅行を楽しみたいものです。
参考資料 References
● 石垣市地域公共交通計画(沖縄県石垣市)2022.3
https://www.city.ishigaki.okinawa.jp/material/files/group/27/chiikikoukyoukoutsuu.pdf
● 独占禁止法特例法について(国土交通省)
● 東運輸 2023.3閲覧
● カリー観光 2023.3閲覧
● 八重山観光フェリー 2023.3閲覧
● 安栄観光 2023.3閲覧

改訂履歴 Revision History
2023年3月01日:初稿
2023年3月02日:初稿 修正
2023年4月07日:初稿 修正
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