鉄道きっぷ収集をしに各地の駅を訪問する「きっぷ鉄」趣味。
鉄道きっぷの媒体には、自動券売機や発券端末(マルス端末など)から発行された端末券、硬券や軟券で調製された常備券や補充券といった非端末券があります。
JR線には、4千を超える多くの駅や多くの線区があり、それらを組み合わせた経路のパターンは無限です。無限のパターンから組まれる多種多様な乗車券類を求めるのがきっぷ鉄の醍醐味ですが、経路や規則の複雑さゆえに、時に発券上の限界があります。
限界を超え、他のいかなる券種でも処理ができない場合に登場するのが、本来あるべき「補充券」の役割です。しかし、元々限界を超えた複雑な経路のため、発行のための工数が多く、ヒューマンエラーが発生する可能性が高いです。安易に補充券を求める行為がよしとされない理由が、この点にあります。
この記事では最初に、JR駅において複雑な条件を提示し、補充券発行を暗に強く求めたことを振り返ります。そして、この機会に、きっぷ鉄として憧れを持つ補充券発行の是非について、僭越ながら筆者の学びを綴りたいと思います。
補充券発売希望を押し通した体験の振り返り
本記事を残そうと思ったきっかけは、2023年3月に経験したJR補充券発行に関する悶着です。
JRの某大駅にて、ある経路を提示して連続乗車券発行を求めました(補充券での発行が必要な経路で現在は購入不可能)。その際、駅員さんにはIC乗車を強くすすめられましたが受け入れず、紙のきっぷが欲しいと希望しました。駅員さんが発行を遠回しに断ったという意図を理解できず、あくまでも希望を押し通してしまったわけです。
問題だったのは、この乗車券が端末処理できないため、多くの工数がかかった点でしょうか。この顛末をTwitterで投稿した際、ちょっとした行き違いから火をたきつけられてしまい、不特定多数の方々に不快な思いをさせてしまいました。
ご迷惑をおかけした一方、筆者自身もTwitterのせいで辛い体験を強いられたわけで、今後Twitterを利用するのが嫌になりました。そんなことで、当該ツイート/アカウント(@nyapporingo)を削除しました。
本当は、規則に沿った正当事由の案件であり、悶着なしに購入できるはずです(発行作業方は本来、旅客が関与できない鉄道会社側の都合)。しかし、作業の工数がかかり、窓口業務をふさぐということへの配慮が欠けたことを率直に認めたいと思います。
この事件が契機で、補充券を求めることの是非について、深く考えてみようと思いました。きっぷ鉄界隈で言われている暗黙のマナーやルールを推量するのが個人的に苦手なため、それらをできるだけ明文化してみたいと思ったわけです。
乗車券類媒体の優先順位~補充券は最後の切り札~
現在、乗車券類の発売は、ほとんど自動化されています。そして、媒体の電子化が進んでいます。
その究極の形が、ネット予約サービスです。JR東日本が展開する「えきねっと」やJR西日本が展開する「e5489」が中心です。
駅で発売する乗車券類(紙のきっぷ)に使用される媒体の優先順位は、次の通りです。
1.自動券売機
2.発券端末(マルス端末・POS端末)
3.常備券(硬券・軟券)
4.補充券(軟券)
券売機で買えるきっぷは窓口では発売しない、端末で出せるきっぷは、あらかじめ調製された紙のきっぷ(常備券)を発売しない、というのが基本原則です。何らかの理由がある際は例外処理がされるということです。
したがって、乗車券類の媒体として、補充券は最後の切り札といえます。そのため、補充券の使用は基本的に控えるものとされます。たとえ発売してほしいと希望しても、原則は発売してもらえない性質のものです。
まして、チケットレス化を推進しようとする中で、紙のきっぷの発行が抑制されるのは容易に想像できます。将来、端末券でさえ入手しにくくなることでしょう。
ところが、入手しにくければしにくいほど、入手したいと欲するのが、人間の欲求というものです。これが、鉄道きっぷを収集する「きっぷ鉄」の大きな葛藤の原因です。
話が脱線しますが、JR以外の地方中小鉄道会社では、あらかじめ調製された硬券や軟券の乗車券類を発売してもらえるケースが多々あります。あくまでも、当該会社のご厚意により出していただくものであって、安易に発売する類のものではないことを覚えておきたいです。
個人的には、対面販売の温かさが失われていくのが残念だと思います。
補充券が使用される主な事由
筆者のこれまでの収集経験に基づいて、職員でなくても知りうる範囲で補充券の発行事由を挙げます。
特別補充券(出補)
「特別補充券」は、鉄道会社によって呼び方に差があります。「出札補充券」や「出補」とも呼ばれます。特別補充券の大多数は記入式で、区間や金額をゴム印押印や手書きで記入します。旅客営業基準規程によって細かな書き方が決まっています。別の分野ですが、金融取引における紙の小切手や約束手形に金額を記入する感覚と似ています(チェックライターを使うか使わないかの違いはありますが)。

● 発券端末が設置されていない箇所
JR本州3社においては、発券端末がない箇所は基本的に存在せず、出補できっぷを購入できるシーンはないと考えます。委託駅にも端末がほぼ完備していて、手売りはごく例外です。
その他の島部3社においては、自治体などの鉄道会社ではない組織・個人に乗車券類の発売を委託している場合があります(発売の簡易委託)。そのような箇所では、端末券の他に非端末券が発売されています。その場合、あらかじめ調製された常備券や補充券が発売されます。
● マルス経路オーバー
乗車する経路がJRマルス端末の処理の限界に達した場合、出補が使用されます。稚内駅から新大村駅ゆき最長片道乗車券が、このパターンでの最強のきっぷです。
出補を発行する事由は他にもいくつかありますが、本記事の趣旨に照らし、詳細はお話ししません。
料金専用補充券(料補)
特急券やグリーン券・寝台券などの料金券を発行する際に使用されることがあるのが「料金専用補充券」です。「料補」とも呼ばれます。これも、駅名や金額が用紙上にゴム印押印や手書きされます。

● マルス端末が設置されていない箇所での指定券発売
JR主要駅にあるみどりの窓口には、列車の指定券の予約ができるマルス端末が設置されています。しかし、地方の小さな駅にはマルス端末がなく、指定券を取次発売する駅があります。会社によって、POS端末で指定券を中継発行するケースと、料補を発行するケースに分かれます。
● 発券端末で発行できない券種の発売
これもいくつか発行事由がありますが、これも詳細の教示は控えたいと思います。料補については、出補ほど発売のハードルが高くなく、発行例を比較的多く見ます。
補充券を使用するデメリット
補充券を発行する側の鉄道会社にとっても、補充券を使用する旅客にとっても、補充券を持つこと自体デリケートなことです。特に、JRはその性質が強いと思います。そのデリケートさゆえに、当事者にとってストレスの種になります。
ここでは、使用者の旅客目線でデメリットを考えます。
● 購入時の心理的負荷が大きい
補充券を使用しなければならない案件になるような注文をしないよう、駅員から暗に促されることがあります。乗車券の経路を分割したり、IC乗車したり勧めることで、補充券案件になることを回避するわけです。
営業規則上、発行が避けられない案件もありますが、これらの代案を勧められた場合、購入を断念したほうが無難でしょう。
● エラー券の確率が高い
JRにおいて補充券が使用されるような案件は、経路や規定といった条件が複雑です。運賃計算方や効力面での例外が券面に反映されるため、ヒューマンエラーが一定の確率で発生する可能性があります。
実際に、筆者もエラー券を何枚か持っています(端末券・補充券を問わず)。とても公開できるような券面ではないので、共有はご容赦ください。
● 補充券を実使用する際の使い勝手の悪さ
乗車券として発行された補充券の場合、磁気券ではないため、自動改札機を通れません。そのため、有人改札を通過するのに時間がかかり、結構面倒です。改札係員も補充券に習熟していないため、時に処理が混乱することがあります。
● 使用した補充券の回収
使用した補充券は、旅客営業規則の原則通り着駅の改札で回収されることが多いです。一部持ち帰りできる会社はありますが、使用したら持ち帰れないものと考えると無難でしょう(持ち帰れる会社はありますが、ネット上での開示は控えます)。
自動改札機が導入される以前の時代には、日常使用する通勤/通学定期券を見せて改札を通ることで、補充券に限らずあらゆるきっぷを手元に残せました。しかし、IC乗車時代の現在ではまず不可能で、正々堂々と途中下車/前途放棄するくらいしか対策が考えられません。
● 不正が介在するリスク
発売事故(エラー券の誤発売)、係員の不祥事案(現金の横領・詐取などの犯罪)につながること、手書きで記載された事項の上書き修正や改ざんのリスクなどと、いろいろ考えられます。
以上挙げた通り、補充券の発行については、メリットよりもリスクやデメリットが上回ります。補充券を出しても、あまりいいことがないように思います。
JRは乗客に不利益をなすりつけるな
ここまで、JR線における補充券の発行事情を、筆者の知見の範囲内でお話ししてきました。
ここまでお読みいただければ理解できることですが、補充券を発行するしないは、あくまでも鉄道会社側の事務上の都合です。補充券の発行抑制を図りたいのは単に鉄道会社側の思惑であって、それに翻弄される乗客にとってはたまったものではありません。
JR西日本の労働組合がなんと、出札補充券の全廃を主張しているのを耳にしました。しかし、それを万が一認めてしまうと、旅客営業規則等の規程で定められた乗車券類の発行に支障をきたします。身勝手な主張をよくしたものです。
最終的に不利益を受けるのは乗客に違いないので、関係者にはくれぐれも慎重に対応いただきたいものです。自分たち(鉄道会社)の都合で、鉄道ファンの夢をぶち壊しにしないように。
まとめ
中小地方鉄道会社で、ご厚意で単純な線内乗車券を発行してもらえる場合、もしくは簡易委託駅などで元々手売りの乗車券類を購入する場合を除き、補充券を自ら求めることは控えるほうがよいと結論づけたいです。
発売したり購入したりする心理的障壁が当事者にあり、メリットがほとんど考えられない一方でデメリットが目立ちます。
そんなわけで、きっぷが補充券として存在することが認められるのは、最長片道きっぷなど、補充券としての認知度が高い案件に限られようと思います。
筆者個人的には、簡易委託駅での発売や発売が公認される場合を除き、ストレスの種であるJR線の補充券の購入は今後避けたいと思っています。
改訂履歴 Revision History
2023年3月07日:初稿
2023年3月30日:初稿 加筆・修正
2023年7月04日:初稿 修正
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