「エクスプレス予約」の行方を考える~料金見直しがユーザーから支持されるか~

東海道新幹線新横浜駅西改札口 デジタル鉄(ネット)

東海道・山陽・九州新幹線をネット予約し、ICカードでチケットレス乗車できる有料会員制の「エクスプレス予約(EX予約)」および「スマートEX」。分かりやすくおトクな料金設定で、ネット予約で何回でも変更可能なのが特長で、多くのユーザーを惹き付けてきました。筆者も、EX予約を愛用しています。

しかし、2023年5月末にエクスプレス予約/スマートEXの料金体系の見直しがアナウンスされ、ユーザーからは驚きと落胆の声が上がりました。

主な内容は、全般的な料金の引き上げです。値段そのものの引き上げと、繁閑によるシーズナリティの導入です。これは、通年同じ値段で利用できるサービスの抜本的な変更を意味します。この変更によって、EX予約とスマートEX、所定運賃・料金(紙のきっぷ)の差額が限りなく小さくなります。

今回、所定運賃・料金の改定認可を伴わず、専用のクレカ入会が必要なエクスプレス予約会員用の料金から先に手を加えることになります。その是非についても問われるのではないでしょうか。

この記事では、まず今回発表された「エクスプレス予約」の料金体系の変更内容をみていきます。そして、今後もエクスプレス予約が多くの会員を惹き付けられるような優位性をもつ商品であり続けられるか、他のきっぷの買い方と比較して考えていきます。

今回の料金体系見直しは、年会費を支払っているエクスプレス予約会員に対する仕打ちという見方もできます。しかし、ネット予約画面の設計など、見えないところで優位な点があります。

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「エクスプレス予約」の料金体系の変更内容

2023年5月30日付でJRからアナウンスされた「エクスプレス予約」の料金体系の変更は、最終的な値段が調整されることなく、同年10月1日以降そのまま実施されます。ネット予約の利用が一般的になってきたので、会員に料金面で優遇する必要が薄れたという意図がありそうです。

ここでは、筆者の頭の整理も兼ねて、この変更内容について発表された範囲内で明らかにします。

● 発売金額そのものの引き上げ【普通車指定席/グリーン車】

普通車指定席およびグリーン車の料金について、乗車する区間によって金額がそれぞれ異なりますが、数百円から千数百円前後引き上げになります。

新幹線特急券と乗車券がセットの「EX予約サービス」と新幹線特急券部分のみの「e特急券」とも、新幹線特急料金部分が引き上げになる形です。乗車券部分の値段には変更ありません。

● 普通車自由席の料金は据え置き

今回料金引き上げの対象になる設備は、普通車指定席とグリーン車です。普通車自由席については、値段は変更ありません。

以下の点でそれぞれ見直しが行われることから、これまで分かりやすい料金設定だったエクスプレス予約の料金体系がより複雑になって、運賃・料金の試算・比較が難しくなります。

● 普通車指定席と自由席との金額が同額ではなくなる

したがって、普通車指定席と普通車自由席の各設備の値段に差が出ることになります。2023年秋までの従前の料金体系では普通車指定席と自由席の値段が同額でしたが、そこに手が加えられる形です。

従前のように、自由席の値段で指定席に乗れることがなくなります

● 「のぞみ」「みずほ」号乗車の加算料金の設定

普通車自由席に加え、普通車指定席/グリーン車の料金も、エクスプレス予約の場合は「のぞみ」および「みずほ」号に乗車する際の加算がありませんでした。今回の見直しで、所定料金と同様に料金が加算されるようになります

● シーズナリティの導入

エクスプレス予約の大きな特長が、新幹線特急券部分が通年同額設定である点でした。今回の料金見直しでこの点に手が加えられ、所定料金と同様に時期の繁閑に応じて値段が変動するシーズナリティが導入されます。

通年同額設定のEX予約では、繁忙期に乗車する時に会員のありがたみを感じますが、その恩恵が受けられないようになります。

新幹線特急券のみを切り出した会員用「e特急券」の詳細については、筆者の別記事を参照してください。

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「スマートEX」の料金体系の変更内容

有料会員制のエクスプレス予約と異なり、スマートEXについては、山陽新幹線の区間またがりになる場合にのみ、「のぞみ」「みずほ」号乗車の加算料金の設定が加わるだけです。

東海道新幹線の区間完結の場合、九州新幹線の区間完結の場合の料金体系には変更ありません。スマートEXの場合、すでにシーズナリティが導入されていることから、今回見直しされるエクスプレス予約の料金体系に遜色がないことになります。

N700系車両
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エクスプレス予約の絶対優位が揺らぐ恐れ

今回料金体系に手が加えられるとはいえ、これまでときっぷの買い方そのものには変わりありません。ICカードでチケットレスでスムーズに乗車することを優先するか、あくまでも値段の安さを優先するかは、一人一人それぞれの選択によるところです。

しかし、ネット予約してチケットレス乗車できる上、料金面でも優位だったエクスプレス予約の絶対さに揺らぎが生じることになります。

エクスプレス予約を利用するためには年会費1,100円がかかるため、単純に運賃・料金の安い高いだけではなく年会費の元が取れるか否かという点も考慮しなければなりません。

第一に、エクスプレス予約とスマートEXの価格差が限りなく少なくなることで、何が何でもエクスプレス予約会員でなければならないわけではなくなります。

また、特定都区市内制度が絡む場合の料金の試算にも影響がでます。例えば、新幹線停車駅の東京駅から入場し、新大阪駅で出場する限りは、乗車券と新幹線特急券がセットの「EX予約サービス」を利用しても問題ありません。しかし、新幹線区間の前後にJR在来線に乗り継ぐ場合、紙のきっぷに料金面で劣ることが現在よりも増えることが予想できます。

特定都区市内制度が絡む新幹線の運賃・料金に関する詳しいお話は、以下の記事を参照してください。

素人目で考えても、今回の料金体系見直しによってエクスプレス予約の会員数が大幅に減りそうな気がします。

不利な点ばかり目立つ料金見直しですが、EX予約会員ならではの強みもあります。本記事を最後までぜひお読みください。

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きっぷの買い方による値段の比較

それでは、従前の料金体系と見直し後の料金体系を具体的に比較していきます。いま申し上げたように、新幹線区間の前後にJR在来線に乗り継ぐケースもあります。しかし、ここでは単純に比較するため、新幹線区間のみ乗車する典型例を挙げたいと思います。

東京駅から新大阪駅まで「のぞみ」号に乗車する場合の運賃・料金をみていきましょう。新体系ではシーズナリティが導入されるので、ここでは繁忙期で考えたいと思います。

シーズナリティについて

時期別の運賃・料金の金額加減を指します。2022年度から、従前の繁忙期/通常期/閑散期に加え「最繁忙期」の区分ができました。GW、お盆時期、年末年始が最繁忙期にあたります。シーズナリティ別の料金加減は、次の通りです。

最繁忙期 +400円/繁忙期 +200円/通常期 0円/閑散期 ー200円

これまでの運賃・料金

ICカードでも乗車できる「EX予約サービス」の料金は、通年同額で普通車指定席/自由席で同額です。

【東京駅ー新大阪駅:普通車指定席・繁忙期】

● 所定の新幹線特急券+乗車券:14,920円

● スマートEXサービス:14,720円

● EX予約サービス:13,620円(通年同額)

● e特急券+乗車券:13,820円(通年同額)

エクスプレス予約会員用の料金が金額面でも大変おトクで、東京駅から新大阪駅までの片道1回でも年会費1,100円の元が取れます

見直し後の運賃・料金

いずれの買い方でもシーズナリティが反映され、繁忙期は通常期の200円増しになります。

【東京駅ー新大阪駅:普通車指定席・繁忙期】

● 所定の新幹線特急券+乗車券:14,920円 ← 変更なし

● スマートEXサービス:14,720円 ← 変更なし

● EX予約サービス:14,430円 ← 引き上げ

● e特急券+乗車券:14,430円 ← 引き上げ

エクスプレス予約会員用料金と所定運賃・料金の差がわずか490円です。定期的に新幹線を利用するヘビーユーザーでないと年会費を支払うメリットがないといえます。

エクスプレス予約会員にとって改悪

東海道新幹線東京駅八重洲北口

今回の料金体系見直しによって、新幹線にたまに乗車する程度の個人会員(ライトユーザー)には特に悪影響が大きい結果となります。

ただし、同じエクスプレス予約会員であっても法人会員については、会員プランや個々の契約によって値段が違うので、一概に断じることはできません。

年会費の元を取ることが難しくなり、値段自体引き上げされることで、個人会員のエクスプレス予約離れがある程度進むことが想定されます

エクスプレス予約会員をやめて、紙のきっぷで新幹線に乗車するのが、料金的には有利です。したがって、チケットレス乗車から紙のきっぷに戻るという現象が生じると考えます。

これは、JR各社が推進しているチケットレス乗車に逆行する現象です。逆戻りさせてもよいのかという議論がおこるのが予想できます。

優良顧客の囲い込みが後退する恐れ

また、エクスプレス予約は料金面で優位かつ使い勝手の良いサービスという反面、会員になるためのハードルが高いという特徴があります。具体的には、以下の点です。

● 専用のクレジットカードに入会する必要性

JR東海 エクスプレスカード/JR西日本 J-WESTカード/JR九州 JQ CARD

事務代行会社が大手会社のため、審査が厳しいと思料します。属性の良い人でないと、これらのカードを所持するのは難しいです。

● 年会費がかかる点

再三申し上げていますが、新幹線をネット予約し、チケットレス乗車するために年会費1,100円がかかります。この点は「スマートEXサービス」で克服されていますが、総合的にはEX予約の方が優れたサービスです。年会費の存在もハードルの一つです。

料金引き上げによってエクスプレス予約会員をやめて、スマートEXサービスや紙のきっぷ利用に流れることは容易に推測できます。

所定運賃・料金の改定認可申請が先ではないか

東海道新幹線東京駅

筆者が純粋に感じたことが、どうして全体の運賃・料金を引き上げないで、エクスプレス予約会員を狙い撃ちにするのかということです。

エネルギーコストや人件費が上昇している現在、各種サービスの料金が引き上げになることに対し、社会的合意(コンセンサス)はすでにあるはずです。したがって、今回の料金見直しは、公平性の観点から所定運賃・料金引き上げの認可申請が伴っても良かったのではないでしょうか。

ロイヤルティの高い優良顧客といえるエクスプレス予約会員を狙い撃ちするのは、言葉を選ばず言えば裏切りにも相当するに違いありません。したがって、先に企画券であるエクスプレス予約会員用料金に安易に手を付けるのは、悪手に思えてしまうのです。

所定運賃・料金の変更には国への届出や認可が必要で、鉄道会社にとってハードルです。一方で、企画券の設定は鉄道会社の自由で、制度の改廃が容易です。今回は安易な方に流れてしまったといえましょう。

申請のハードルを乗り越えて、所定運賃・料金の上限引き上げの認可申請を正々堂々と行うくらいの度量を見せて欲しかったと、個人的には思います。

おわりに~イレギュラーに強いEX予約~

エクスプレス予約についてかなりネガティブな意見ばかり出しましたが、実は捨てたものではない点があります。それは、列車の運休や遅れが絡んだイレギュラー時です。

2023年6月、大雨が原因で東海道新幹線が運休し、復旧まで時間を要した事象がありました。その際のEXアプリの挙動が興味を持つものでした。

EXアプリより引用

この通り、列車の運行に大幅な遅延が発生していて、発車時刻さえ読めないタイミングで、アプリへのトラフィックがひっ迫していました。

この画面のように、スマートEXの会員番号を入力してログインすると2分待ちと表示されましたが、同時にEX予約の会員番号を入力したら待ち時間なしにログインできました。

同じネット予約でも、有料会員と無料ユーザーの扱いに差があることが分かった瞬間でした。EX予約の料金見直しは単なる改悪ではなく、優位な面もあるということを覚えておきたいです。

エクスプレス予約の料金体系変更の背景はいかに

EX予約のユーザーにとっては改悪ともいえる料金体系の変更ですが、その背景は一体どのようなものでしょうか。その背景やEX予約に代わるネット予約サービスについて、以下の別記事(↓)にて考察してみました。ぜひご一読ください。

また、2023年10月以降のサービス内容の変更点について明らかになったことを別記事にまとめました。実用的な情報については、こちら(↓)を参照してください。

参考資料 References

● 「エクスプレス予約」「スマートEX」における価格体系の見直し及び新早特商品の発売について(JR東海)2023.5.30

https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000042742.pdf

● 「エクスプレス予約」における価格体系の見直し及び新早特商品の発売について(JR東海)2023.5.30

「エクスプレス予約」における価格体系の見直し及び新早特商品の発売について
エクスプレス予約は、東海道・山陽・九州新幹線をスムーズ&スピーディに一年中おトクなおねだんで利用できる、会員制のネット予約サービスです。

改訂履歴 Revision History

2023年6月03日:初稿

2023年6月04日:初稿 修正

2023年6月12日:初稿 修正

2023年8月31日:初稿 修正

2023年9月17日:初稿 修正

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