島根線出雲地方を南北に走る、JR木次線。宍道駅から備後落合駅までの81.9kmを結んでいます。昭和初期の1930年代に全線開業し、開業から約90年が経ちます。多くの駅舎が開業当時のまま使用されていて、沿線の風景と相まって古き良き時代を想起できます。
一方、松江市から出雲市にかけての宍道湖北岸を走るのが、一畑電車です。こちらも木次線と同じく、1930年代の開業から約90年が経ちます。映画作品の「RAILWAYS」の舞台になった路線で、こちらも古い風情を感じます。
両線の沿線には、出雲そばをいただける多くのそば店があります。乗り鉄に加え、出雲そばの食べ比べを楽しめます。
この記事では、筆者がJR木次線の県境越え区間および一畑電車の全区間を乗り鉄体験を綴ります。その傍らで、沿線のお蕎麦屋さんでいただける出雲そばの食べ比べを満喫した体験をご紹介します。

両線の鉄道施設や沿線の風景は、昭和ノスタルジーそのものです。手売りきっぷの収集や出雲そばの食べ比べなど、他ではなかなかできない体験を味わえます。
JR木次線の県境越え区間を乗り鉄

冒頭で申し上げたように、宍道駅から備後落合駅まで、JR木次線の全区間が開業してから約90年経ちました。現在はJR西日本のローカル線で、線内を普通列車が走っています。
木次線は高速で走れるように改良されていなくて、線内の最高速度は時速65キロです。始発の宍道駅(島根県松江市)から終点の備後落合駅(広島県庄原市)までの所要時間が約3時間と、距離にしては大変時間がかかります。
鉄道の改良が十分なされなかった一方、並行する国道や県道の改良が進み、木次線全区間を移動するのに車では1時間20分程度です(Googleマップによる計算)。所要時間の面で、鉄道が非常に不利な状況です。
そんなこともあって、木次線に乗車すると昔懐かしい昭和ノスタルジーを満喫できると思います。日常の公共交通機関としての機能が衰退してしまった代わり、昭和初期の貴重な鉄道文化遺産の側面を持ち合わせていると思います。
そんな木次線を初めて訪れ、県境越え区間の出雲横田駅(島根県南出雲町)から備後落合駅(広島県庄原市)までを列車に乗車して往復したのは、2023年5月でした。当時走っていたトロッコ列車「奥出雲おろち」号の指定席券をあいにく入手できず、筆者は普通列車で移動しました。
出雲横田駅から備後落合駅までの木次線末端区間の事情

筆者が乗車した、木次線出雲横田駅から備後落合駅までの区間は、島根県と広島県にまたがった県境越えの区間です。鉄道で広島駅から松江駅まで向かう場合、木次線が最短経路に含まれます。
他の路線にも一般的に言えることですが、ローカル線の県境越えの区間は通勤通学需要が弱いです。また、この区間は中国山地の積雪地でもあり、冬期間には長期で運休することもあります。それゆえ、木次線の末端区間が日常生活の足とはとても言えない状況です。
しかし、途中の出雲坂根駅におけるスイッチバックや三井野原駅付近にある国道のアーチ橋の眺めが、他ではなかなか見られない非日常の体験です。公共交通機関でありながら観光性が強いのが、木次線の特徴です。
木次線の運行ダイヤにもそれが良く現れています。列車の運行本数が、日中時間帯に6本(3往復)と、大変少ないです。
ゆきの列車(下り) | かえりの列車(上り) |
出雲横田駅 0759 → 備後落合駅 0907 | 備後落合駅 0920 → 出雲横田駅 1027 |
出雲横田駅 1311 → 備後落合駅 1433 ★ | 備後落合駅 1443 → 出雲横田駅 1554 ★ |
出雲横田駅 1552 → 備後落合駅 1701 | 備後落合駅 1741 → 出雲横田駅 1912 |
★ 第2木曜日は運休
このような背景があり、この区間の乗客は乗り鉄を楽しむ観光客が中心だと思います。普通列車の他、2023年まで観光列車「奥出雲おろち」号も走っていて、観光客に人気でした。
出雲横田駅から備後落合駅までの区間を往復!

2023年5月の金曜午後、出雲横田駅から木次線普通列車に乗車し、備後落合駅まで向かいました。そして、そのまま同じ列車に乗車して折り返しました。

出雲横田駅までは車で向かい、駅前に駐車しておきました。列車に乗る前に、駅の簡易委託窓口で往復乗車券を購入。往復約3時間の旅に必要なきっぷのお値段は、1,180円でした。

ホームに上がったら、備後落合駅ゆきの普通列車がすでに停車していました。1両編成の列車には、すでに多くの乗客が乗車していました。多くとはいっても、十数名でした。

13時11分、出雲横田駅を定刻で発車。それから20分ほどで、途中の出雲坂根駅に到着。ここで、筆者が載れなかった「奥出雲おろち」号と待ち合わせ。

駅の真上に列車が見えてからスイッチバックを折り返してきて、駅ホームに到着するまで時間がかかりました。

出雲坂根駅の構内には延命水が湧き出していて、列車の停車中に自由に飲めます。奥出雲おろち号がホームに入線して間もなく、発車。

それから、スイッチバックを上がっていきました。ポイントの上には古い構築物があり、線路を保護しています。

三井野原駅に到着する少し前、進行方向の右側に、国道のアーチ橋がみえました。眼下に広がる風景が見事です。

三井野原駅を過ぎてから分水嶺を越え、14時33分に終点の備後落合駅に到着。大多数の乗客が、芸備線の新見駅方面に向かっていきました。

木次線のホームの向かいには芸備線三次駅ゆきが停まっていましたが、乗り換えた乗客はわずか一人。

筆者は、乗車してきた列車に乗って、そのまま出雲横田駅まで引き返しました。その列車に乗っていた乗客は、観光客ばかり6名。木次線の現状を物語るような状態でした。
木次線沿線で出雲そばを食べ比べ
木次線沿線には出雲そばを出すお蕎麦屋さんが多くあり、木次線の乗り鉄の傍ら味比べを楽しめます。筆者は当日、駅ナカまたは駅チカにあるお蕎麦屋さん2軒に入り、出雲そばをいただいたきました。
出雲そばの製法は「挽きぐるみ」といわれます。殻ごと挽いているので皮の色は黒く、風味が豊かです。よそではなかなか味わえないと思います。
扇屋そば

木次線亀嵩駅ナカにあるお蕎麦屋さんです。駅舎を入るとすぐ、お店の入口があります。営業時間はランチ時間帯のみです。有名人が多数来店している人気店で、結構混むようです。店内には色紙が多く掲げられていました。
席に座るとメニューが出されます。一番ベーシックなのが割子そばで、3段重ねおよび4段重ねから選べます。お店のホームページにメニューが載っているので、あらかじめ決めるのも良いでしょう。店内で飲食するだけではなく、テイクアウト用の蕎麦弁当もあって持ち帰れます。

筆者は、3段重ねの割子そばを注文。それぞれのお皿につゆを直接かけ、上段からいただいていきます。かつお節と海苔、ねぎがのっていますが、蕎麦だけ食べても蕎麦の風味を味わえます。蕎麦粉の風味が強く、蕎麦も太いのでコシを楽しめます。

ここまで野趣あふれる風味を楽しめる蕎麦は、他にはないと思います。つゆも濃厚で美味です。こんなおいしいそばがあるのかと感動したので、お土産用の蕎麦を買って帰りました。

ここでは、JR木次線のきっぷも買えます。昔懐かしい常備券が珍しいので、好きな方はあわせて買うとよい記念になると思います。

JR木次線の常備券収集に関しては、以下の別記事(↓)を参照してください。
八川そば

木次線八川駅の目の前にあるお蕎麦屋さんです。お店の入口は国道314号線に面しているので、列車の駅を出たらお店の裏側が見える形です。
島根県南出雲町の中でも一番奥まった位置にあるお蕎麦屋さんですが、ここも人気店で、ランチ時間帯は混みあいます。筆者は、八川駅の駅めぐりの一環としてやってきました。
看板メニューは「ざいごそば」という温かいそばですが、筆者は食べ比べをすべく、割子そばの「八川山代」をいただきました。

八川そばさんの割子蕎麦は、最上段に薬味が入っていて、その下3段に蕎麦が入っています。きんぴら、わさび、山芋がそばに乗っかっています。
蕎麦の太さは変わらずで、コシが強く食べ応えがあります。筆者個人的には具とそばを別々に食べるのが好きですが、具とそばを混ぜていただいてもおいしいと思います。
温かいそばのスープである、蕎麦湯を付けてくれました。これが濃厚で、本当に蕎麦湯か?と思いました。絶品であること間違いなく、蕎麦湯をいただくためにリピートしたいくらいです。
お店のホームページがないので、詳細はグルメサイトを参照してください。
一畑電車の全区間を乗り鉄

JR木次線の乗り鉄とは別の日に一畑電車を訪れて、全区間を乗車しました。
一畑電車は、電鉄出雲市駅(島根県出雲市)から松江しんじ湖駅(島根県松江市)までの北松江線33.9kmと、途中の川跡(かわと)駅から出雲大社前駅(島根県出雲市)までの大社線8.3kmの2路線から成り立っています。筆者もこの順序で当日、列車に乗車しました。

一畑電車の普通乗車券には面白い制度が残っていて、途中駅の雲州平田駅と一畑口駅では、途中下車が可能です。乗って降りる度に分けて買うよりも、通しで買ったほうが運賃が安いです。それらの駅に立ち寄るには、最終地の駅まできっぷを通しで買うと良いです。

また、一畑電車には、手荷物・小荷物(いわゆるチッキ)を預かる制度が残っています。現在まで取り扱いが残っているのは、全国的にもレアだと思います。

駅の窓口前には、小荷物用の計量器が置いてありました。体重を測っちゃダメよ、と書いてあります(50kg計なので、大人が乗ったら壊れますw)。

列車発車の10分前になって改札が始まり、ホームに上がりました。車両は「しまねっこ号II」という東急線電車のお下がりです。この列車に乗って、松江しんじ湖温泉駅を往復しました。

最終的に向かったのが、出雲大社の最寄り駅、出雲大社前駅でした。駅舎は、国の登録有形文化財・近代化産業遺産に指定されている古い建物です。

駅舎内の様子。屋根が高く、ステンドグラスが使用されています。質素ながら、ヨーロッパの教会内部を連想します。

改札口。建物内部が木製で、歴史を感じます。

一畑電車の駅で買ったきっぷ。薄めの硬券でできた入場券と、車内乗車券です。旧券2種類が消滅し、新券が残っている形です。
一畑電車沿線で出雲そばを食べ比べ
出雲市駅や出雲大社を擁する一畑電車沿線には、出雲そばを出す多くのお蕎麦屋さんがあります。筆者は、その中でも雲州平田駅の近くにあるお蕎麦屋さんを訪れました。
そば処・喜多縁

喜多縁さんはもともと出雲市駅近くにあったお店で、現在は雲州平田駅の近くに移転している有名店です。開店時間の少し前に訪れましたが、すでに大勢の客が開店を待っていました。
喜多縁さんの蕎麦は、出雲産のそば粉だけではなく、国産のそば粉4種類をミックスしているそうです。そのため、木次線沿線でいただいた蕎麦と違い、風味がマイルドです。

筆者が注文したのが、三色割子そばでした。割子3皿にそれぞれ盛られた蕎麦の上に、きんぴら、とろろ、揚げ玉が乗っていました。薬味は小皿に盛られています。つゆと蕎麦湯も付いていました。今申し上げたように風味はそんなに強くなく、蕎麦も細いのでクセがなく、いただきやすいです。
おわりに

JR木次線に並行する国道や県道が発達したために、同じ区間を移動するのに、鉄道では車のおよそ倍の時間がかかります。ということで、日常の公共交通機関の役割は、完全に車に移行しています。しかし、鉄道がいまだに地元に愛され、多くの駅が地元の人々によって守られています。
車両こそ近代化されているものの、駅の施設は1930年代の開業当時のものがいまだに使用されています。木次線をゆっくり走る列車に乗車していると、古き良き時代を想起します。いわば、昭和ノスタルジーを満喫できるのが木次線です。多くの観光客を惹き付けている木次線は、島根県の貴重な観光資源の一つに違いありません。
また、出雲市と松江市を結ぶ一畑電車にも、古い光景がよく残っています。出雲大社前駅の駅舎は国指定の文化財で、文化的な価値があります。

そんなJR木次線沿線や一畑電車沿線は出雲そばの名所で、多くのお蕎麦屋さんがあります。筆者も2日間で3軒のお店をめぐり、出雲そばの食べ比べを満喫しました。お店によって個性がありますが、いずれもレベルが高いです。出雲大社周辺にも名店が多いですが、奥出雲地方にも隠れた名店があることを、本記事を通してお分かりいただけたかと思います。
列車の本数が少ないため、移動はどうしても車が中心になりますが、旅程の一部に鉄道を組み入れてはいかがでしょうか。
改訂履歴 Revision History
2023年6月11日:初稿
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