鉄道駅できっぷを買う際、領収書をもらう機会が多いと思います。特に、出張旅費の精算には、領収書が欠かせません。その領収書の様式や記載事項に変化があることに、皆さんお気づきでしょうか。
消費税にかかる「適格請求書等保存方式」制度、いわゆる「インボイス制度」が、2023年10月から完全に始まります。その制度開始を前にして、鉄道会社においても徐々に対応が始まっています。
消費税の仕入税額控除を受けるには(ざっくり言うと、消費税を余分に納めるのを避けるには)各事業者が「適格請求書(インボイス)」を発行し、当事者が保存することが求められます。
また、インボイス制度と並んで、2024年1月から電子帳簿保存法の完全対応が始まります。領収書を電子保存する作業もあわせて必要になってきます。
鉄道きっぷを買う時には、鉄道会社から発行してもらう領収書にどのような項目が記載されていないといけないか、よく知っておきたいです。
この記事では、鉄道きっぷを購入する際受け取る領収書にかかわるインボイス制度の概要について説明します。そして、鉄道各社が発行する電子領収書・紙の領収書をいくつか見ていきたいと思います。

鉄道を含め、公共交通機関における3万円未満の取引については、制度上インボイス対応は必須ではありません。とはいえ、適格請求書を受け取れないと、会社の会計実務上困りますね。
「適格請求書等保存方式」制度についてざっくり説明
「インボイス制度」という言葉が一人歩きしている印象がある、消費税の「適格請求書等保存方式」制度。2023年10月以降、個人事業主を含めて全事業者に一斉適用されます。
インボイスとは、英語の「Invoice」に由来します。日本語に訳すと、文字通りの「請求書」です。売り手が買い手に対して、消費税率や税額を通知するための書面です。
難しい用語が一人歩きしているインボイス制度ですが、簡単に言うと消費税を国に納付するための仕組みが厳格化されるといえるでしょう。
企業や個人事業主といった事業者が消費税の仕入税額控除を受けるには、売り手、買い手それぞれに対応が必要です。売り手は適格請求書(俗に言うインボイス)を発行し、相手方に渡さないといけません。
また、買い手は適格請求書を受け取り、保存しないと税額控除ができません。つまり、この対応をしなければ、実質的に消費税を余分に納めなければならないことになります。
売上金額によっては、いままで納付の必要がなかった消費税。それがガラス張りになり、もれなく徴税されるため、個人事業主から悲鳴が上がっているというお話です。
適格請求書の交付の仕方について

適格請求書(インボイス)は、商品の売買やサービスの提供において、事業者や個人間でやり取りされる書類です。必要記載事項をすべて記載すれば適格請求書になりますよ、ということです。
それらの条件を満たしていれば、適格請求書のタイトルは「請求書」に限らず「領収書」や「納品書」、「契約書」などでも構いません。デザインやフォーマットといった様式も法令で定められておらず、書類作成は意外に自由です。
適格請求書は、紙媒体で提供しても、電子データで提供しても大丈夫です(電子帳簿保存法への対応は、インボイス対応とは別のお話です)。
適格請求書の必要記載事項が結構細かく、作成の手間がかかります。また、消費者取引では通常請求書は発行されず、領収書やレシートが発行されるのが普通です。そのため、フルフォーマットの「適格請求書」以外に、記載事項を省略した「適格簡易請求書」の発行が業態によっては認められています。
そのほか、インボイス制度にはいろいろと細かな要件があるので、情報が必要な場合は国税庁ウェブサイトなどを参照したり、税理士さんに相談してください。
鉄道を含む公共交通機関におけるインボイス対応

いま、インボイス制度の総論をお話ししましたが、この記事のテーマである鉄道分野での適格請求書はどうなるのか、各論をお話ししていきます。
鉄道きっぷの発売は、消費者取引として不特定多数に対して行われるものです。小売業や旅行業には、適格請求書の省略版「適格簡易請求書」の発行が認められますが、鉄道会社もそれらに準じると考えてもよいと思います。
企業間の取引にはフルフォーマットの適格請求書を発行してもいいのでしょうが、実務的には必要記載事項が含んでいる適格簡易請求書(領収書やレシート)の発行で事足りることになります。
また、鉄道会社などの公共交通機関における少額取引には、適格請求書を出さなくてもよい例外があります。1回の取引が税込3万円未満の場合、適格請求書の交付が免除されます。つまり、この観点でも鉄道会社側のインボイス対応が必須ではないことになります(とはいえ社会通念上、要対応でしょう)。
適格請求書交付免除の詳細
免除される業種について、鉄軌道・バス・船舶の旅客運送事業別に細かく定義されています。鉄道や路面電車、乗合バス、乗合航路が該当すると考えるとよいです。特急・グリーン料金を含む運賃・料金は免除対象ですが、入場券や手回り品切符については免除対象ではありません。きっぷ1枚の単価ではなく、1件の取引で総額(税込)が3万円以上になる場合、適格請求書を発行しなければなりません。鉄道の場合、適格簡易請求書で一応足りることになります。しかし、制度の趣旨を鑑みる限り、適格請求書を交付すべきでしょう。
鉄道きっぷには軽減税率がなく、消費税率が10%で固定されているため、適格簡易請求書の記載事項はシンプルです。必要記載事項は国税庁の資料のままですが、様式例は筆者が独自に作成してみました。
適格簡易請求書の必要記載事項・様式例
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

適格簡易請求書の場合、登録番号の他に、適用税率もしくは消費税額が記載されていれば、それでオッケーです。もちろん、その両方が記載されていても一向に大丈夫です。消費税率が記載されていれば消費税額の記載が不要なので、「簡易」とはいえかなり大雑把です。
上図には会社の名称が宛先として記載されていますが、適格簡易請求書の場合は宛名の記載は必須ではありません。
発行する立場に立てば、記載事項が定型語句で済むので、記載のゴム印対応が可能です。
適格請求書の必要記載事項・様式例
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

適格簡易請求書の交付で済む場合であっても、もちろん適格請求書を交付して問題ありません。その場合、税率別の税抜金額および消費税額が記載されます。また、適格請求書の場合、領収書の宛名書きが必須です。
適格簡易請求書の交付で足りる公共交通機関であっても、適格請求書をシステムで自動発行できる場合は、税率別の税抜金額および消費税額が記載された適格請求書を交付するのが望ましいと考えます。
この様式には、インボイスへの記載が必要な日別の取引内容(乗車日や乗車区間)が記載されていません。適格請求書を保存する他、当該きっぷを写真撮影するか、コピー/スキャンして詳細を残しておくと万全です。

これが、適格請求書のフルフォーマットです。日別の取引内容が記載できる様式になっているので、インボイスの要件を満たしています。業種を問わず商取引で使用される共通の様式なので、この様式で発行できれば完璧です。
税率ごとの税抜金額と消費税額の集計が複雑なので、ごちゃ混ぜにならないよう注意しましょう。
出張旅費精算に必要な書類
出張旅費としての鉄道運賃・料金を誰が支払ったかによって、取得すべき書類が異なります。
● 出張者(従業員個人)が勤務先の会社に立て替えた場合
この場合、国税庁の資料によれば適格請求書および適格簡易請求書の取得なしに、帳簿処理できることとされています。しかし、金銭収受の事実および乗車日や乗車区間といった具体的な取引内容を記録するために、実務的には適格簡易請求書/適格請求書を取得するのが望ましいでしょう。その上で、出張旅費精算書などの社内書類を作成し、記録として残せば万全でしょう。
● 会社が直接鉄道きっぷを購入した場合
この場合は本則通り、取引内容が明らかになったフルフォーマットの適格請求書の取得が望ましいです。国税庁の資料によれば、鉄道きっぷに関する税込3万円未満の取引については適格簡易請求書の交付で足りるとされていますが、取引内容が記載されていません。実務的には、適格簡易請求書/適格請求書に取引内容(日付・乗車区間)を添付したほうがよいでしょう。
● 個人事業主などがクライアントのために立て替えた場合
会社の従業員が出張旅費を勤務先会社のために立て替えた場合とは、考え方が異なります。適格簡易請求書/適格請求書に記載する宛名を自分名義ではなく、できる限りクライアント名にて記載してもらいましょう。もしも自分名義にしかならない場合、クライアント先と立替金精算書などの書類を取り交わす必要があります。
この記事には、鉄道きっぷ購入場面における適格簡易請求書および適格請求書に関し、一般的な事項を記載しています。個別対応が必要な場合、税理士さんに相談いただくようお願いします。
適格請求書対応前後の領収書の様式の比較
鉄道会社最大手のJR東日本の窓口で発行される領収書を例にして、適格請求書に対応する前の領収書の様式と、対応後の領収書の様式を比較し、理解を深めたいと思います。

写真上がインボイス制度対応前の領収書、下が対応済みの領収書です。対応済みのものは、適格簡易請求書の要件を満たしています。
領収書を上下に並べると差が明瞭で、適用税率と事業者の登録番号が追加されています。鉄道きっぷの場合、実はこれだけで大丈夫です。あえて言えば、領収金額の後ろに(税込)を記載したほうがいいです。

これから、領収書(適格請求書)の実物を実際にみましょう。
ネット予約サービスで自動発行される適格請求書
鉄道会社各社のネット予約サービスを利用した際自動発行される領収書にも、インボイス対応が必要です。2023年度に入り、JR各社の対応が完了しています。
えきねっと(JR東日本)

JR東日本「えきねっと」の電子領収書です(PDFファイル)。適用税率と事業者の登録番号が記載されており、適格簡易請求書の要件を満たしています。
えきねっとで予約した「新幹線eチケット」の領収書取得方法について、以下の記事(↓)に詳しくまとめてあります。情報が必要な場合、ご確認ください。
エクスプレス予約(JR東海)

JR東海・西日本・九州「エクスプレス予約」の電子領収書です(PDFファイル)。えきねっとと同様、適用税率と事業者の登録番号が記載されており、適格簡易請求書の要件を満たしています。
e5489(JR西日本)

JR西日本「e5489」の電子領収書です(PDFファイル)。レイアウトが見にくく領収書の様式としてそれ自体どうよと思いますが、こちらもインボイス制度対応済みです。
tabiwa by WESTER(JR西日本)

これは、JR西日本の旅行予約サービス「tabiwa by WESTER」の電子領収書です。こちらは適格簡易請求書ではなく、税率ごとの消費税額が記載されたフルフォーマットの適格請求書です。メールに添付されてくるため、宛名が印字されないのが残念です(宛名を手書きして補っても、インボイス制度上は問題ありません)。
券売機で発行される適格簡易請求書の様式
鉄道会社各社の自動券売機にて発行される領収書でも、徐々にインボイス対応が進んでいます。ただし、乗車券類の取引が交付免除対象であることから、対応はまちまちです。

JR九州の近距離券売機で発行されたきっぷおよび領収書です。税率と登録番号がすでに記載されているので、適格簡易請求書の要件を満たしています。

東急電鉄目黒駅にて都営地下鉄(東京都交通局)の乗車券を購入して発行されたきっぷおよび領収書です。都営地下鉄のきっぷですが、当該きっぷの発売を委託された東急電鉄名義の領収書になっています。適格簡易請求書の要件を満たしますが、記載された登録番号が実際に取引した(金銭収受した)東急電鉄のものであることが分かります。

JR各社の指定席券売機で発行されたきっぷおよび領収書です(マルス券)。税率と登録番号が記載されておらず「消費税等込み」の表現となっているため、適格請求書としてはNGです。10月1日に修正されることを待ちたいところです。
これらの領収書は紙で発行されるため、このままでは電子帳簿保存法対応ではありません。この領収書を撮影し画像として保存するかスキャナーでスキャンして、電子ファイルで保存する必要があります(ファイル形式については規定がありませんが、PDFやJPGが一般的でしょうか)。例えば、当該領収書にQRコードを埋め込んで、電子レシートを発行できる体制を整えると、利用者にとっては親身で楽です。
手発行の適格簡易請求書の様式
対人対応できっぷを買ったり、運賃を精算したりする場合、紙の領収書が発行されます。適格請求書の発行が免除される公共交通機関ですが、3万円以上の取引になる場合には適格簡易請求書の対応が必要です。プリンターで印字して交付しても、手書きで交付しても適格請求書としては問題ありません。

インボイス対応前の手書き領収書の例です。JR西日本の簡易委託駅の窓口で発行を依頼した際の領収書です。JR西日本名義の領収書ですが、消費税率や登録番号が記載されていないので、NGです。
余談ですが、宛名を「上様」にするのは、実際に経費計上する場合は適していません。あくまでも、事業主名を記入すべきです。

インボイス対応後の領収書です。同じく、JR西日本の簡易委託駅の窓口で発行されたものです。インボイス対応後の領収書には、消費税率や登録番号が記載されています。適格簡易請求書のため宛先の記載は必須ではありませんが、実名で記載してもらうのが望ましいでしょう。
この領収書を見ると消費税率10%が印刷されているため、もしも税率が変わったら、一からの印刷し直しが必要です。

これは、相模鉄道の改札窓口で運賃の精算をした際、発行を依頼したレシートです。消費税率の「課税10%対象」という表記と登録番号が含まれているため、簡易適格請求書の要件を満たします。

従来からある手書きの領収書です。同じく、相模鉄道の駅窓口で発行してもらいました。このままでは、インボイス対応にはなっていません。先のJR東日本の領収書同様、「適用税率10%」の文言と登録番号を記載したゴム印を押せば、最低限ながら適格簡易請求書の要件を満たせます。

東急電鉄目黒駅にて、東京メトロの24時間券を購入した際に取得した領収書です。金銭収受業務を委託された東急電鉄が、領収書の発行を行っています。上述の都営地下鉄とは異なり、東京メトロの場合券売機では領収書を取得できず、東急電鉄の改札窓口にて手発行の領収書を受け取りました。
どの鉄道会社のきっぷかで適格請求書の名義が決まるのではなく、実際に金銭取引をした会社名義で領収書(適格簡易請求書)が発行されることに注目しましょう。
まとめ

2023年10月から始まるインボイス対応。公共交通機関である鉄道会社やバス会社では、一定の金額以下であれば適格請求書の交付は免除されます(とはいえ、商取引にあって領収書の交付そのものは義務です)。
しかし、あくまでも例外措置であり、企業の経理実務にはインボイス対応された領収書が必須なことから、社会通念上適格請求書(領収書)の発行は必須といえるでしょう。
利用者として留意すべきことは、1回の取引で3万円以上の決済となる場合、もらった領収書上に適用税率(10%)と当該鉄道会社の登録番号が記載されているかを確認することです(鉄道きっぷのため適格簡易請求書で足りるとされていますが、本来適格請求書が望ましいです)。また、券売機で発行された領収書にはインボイス対応されていないケースがあることから、場合によっては領収書の発行替えを依頼する必要があるでしょう。
電子帳簿保存法に対応するためには、電子領収書をダウンロードしてファイルとして保存するか、紙の領収書をスキャナやスマホのカメラでスキャンして、ファイルとして保存する等の対応が必要です。ネット予約サービス上で自動発行される電子領収書は適格請求書には対応していますが、タイムスタンプが付与されているとは限りません。あと少しといったところでしょうか。
インボイス制度について筆者の雑感
鉄道きっぷに関する適格請求書の話を離れますが、インボイス制度に関する筆者の雑感を少し。
インボイス制度は、これまで免税事業者であった個人事業主には不利と言われています。それに加え、いかなる事業者においてもインボイス対応のための事務量増加が懸念されるところです。
インボイス制度によって納税漏れがなくなり、透明性が高まることから、個人的にインボイス制度自体には反対しないと言いました。しかし、国民目線では消費税をしぼり取られるともいえます。免税事業者と取引する場合には消費税納税の肩代わりのリスクがあり、個人事業主の排除が懸念されます。個人事業主はもちろんのこと、いかなる事業者にとっても負担感が大きい制度に違いありません。
当事者の負荷を増やさないよう、いま一度制度設計の見直しや各事業者に対する国の経済的補助を期待したいです。
参考資料 References
● インボイス制度の概要|国税庁 (nta.go.jp) 2023.6閲覧
● 電子帳簿保存法関係|国税庁 (nta.go.jp) 2023.6閲覧
改訂履歴 Revision History
2023年6月19日:初稿
2023年6月21日:初稿 加筆
2023年9月03日:初稿 加筆
2023年9月05日:初稿 加筆
2023年9月09日:初稿 修正
2023年9月18日:初稿 修正
コメント
指定席券売機等マルスを経由するものから発行される領収証は10/1から一斉にインボイス対応の物に切り替るようです。
情報ありがとうございます!