日光・鬼怒川温泉に向かうための足となる東武線。乗車するために買うきっぷとして、駅や旅行会社で買う紙のきっぷ(普通乗車券やフリーきっぷ)や、運賃をチャージしてから使う交通系ICカードを最初にイメージするのではないかと思います。
それらのきっぷの進化系として、デジタルきっぷが発売され始めたのをご存じでしょうか。全国的に「MaaS(マース)」という取り組みが始まっていて、公共交通手段と現地交通・観光スポットのきっぷをネット上でワンストップで購入できるようになってきました。
東京と日光・鬼怒川温泉を結ぶ東武鉄道でも同様の動きが始まっていて、現在ではネット上から日光・鬼怒川温泉のフリーきっぷや現地のバス乗車券・観光スポットの入場券を購入できます。
筆者も、浅草駅から東武日光駅を往復するのに、デジタル版フリーきっぷの「デジタル日光世界遺産フリーパス」を利用してみました。交通系ICカードでチャージ乗車したり乗車券を買うよりも、随分安く上がりました。
この記事では、東武鉄道が提供する「NIKKO Maas」について簡単に概要をお話ししてから、NIKKO Maasサイトから購入できるデジタルフリーきっぷにはどのような種類があって、どの程度おトクかを探っていきます。

東武鉄道でも、日光・鬼怒川に向かう際に利用できるデジタルフリーきっぷが4種類発売されています。価格設定が安めなので、株主優待乗車証を使えない場合にこのきっぷの利用をおススメします。
MaaS(Mobility as a Service)とは~交通手段を結び付ける~

東武鉄道のデジタルフリーきっぷについて具体的なお話を進める前に、その背景にある公共交通に関する大きな動きについてふれたいと思います。
いま、全国の公共交通機関や観光地で「MaaS(マース)」という取り組みが始まっています。
MaaSとは、「Mobility as a Service」の頭文字で、直訳すると「サービスとしての移動手段」といった意味合いになります。近年、日本でも政府(国土交通省)によってこの取り組みが始まりました。観光だけではなく医療福祉分野も含んだ移動の概念なので、学問的でとっつきにくい領域です。
MaaSは、現在は社会実験の域を出ないような取り組みで、世間にはまだあまり知られていません。ごくごく簡単に言えば、これまでバラバラだった各交通機関や観光施設のサービスを一つに結び付けて、簡単かつ便利にサービスを提供しましょう、という考え方です。誰でも、公共交通機関をより利用しやすくなることに結びつくはずです。
公共交通の分野では、鉄道、バス、航空、航路の他、レンタカーやレンタサイクルといったあらゆる交通手段が対象に含まれます。例えば、ある目的地まで向かうための鉄道やバス、レンタカーをセットで発売(予約・決済)できるサービスを指します。
乗客が交通手段の手配をあれこれと迷うことなく利用できるようにサポートするのが「MaaS」の本来の目的であって、きっぷを安売りするための仕組みでは決してないことを、最初に押さえておきたいです。
本記事で扱う東武鉄道以外の交通事業者では、JR東日本が提供する東北地方限定の「TOHOKU MaaS」やJR西日本が推進する「tabiwa by WESTER」が該当します。
東武鉄道「NIKKO MaaS」とは

このMaaSの流れを東武鉄道なりに落とし込んだのが「NIKKO MaaS」です。東武鉄道が主体となり、旅行会社のJTBなど多くの会社と協業する形で、2021年秋から開始しました。
東武鉄道圏内の大観光地である栃木県日光・鬼怒川地区において、鉄道、バス、観光スポットのきっぷを専用のウェブサイトから一元的に購入できるようになっています。また、当該ウェブサイトからレンタカーやレンタサイクルの予約ページに飛べるようになっています。
現時点では一部のデジタルフリーきっぷやデジタル観光券を安く買える程度なので、MaaSの考え方が十分に浸透した成熟したサービスとはとても言えません。まずは実証実験的に、鉄道やバスのフリーきっぷから始めてみるという感じでしょうか。
NIKKO MaaSの推進が発表された直前、2021年夏に東武鉄道から「東武本線乗り放題デジタルきっぷ」なるものが1回きりで発売されました。今考えれば、NIKKO MaaS展開のための先行実験だったのかもしれません。
「NIKKO Maas」ウェブサイトで買えるきっぷ【2023年】

それでは、このウェブサイトで買える交通機関のデジタルきっぷやデジタル観光券にはどのようなものがあるか、見ていきましょう。
デジタルフリーきっぷ(往復の鉄道+路線バスのセット)
東武鉄道の出発駅から下今市駅までの往復分の普通乗車券に加え、下今市駅ー東武日光駅間、下今市駅ー新藤原駅間の鉄道フリーきっぷが付いています。
その鉄道フリーきっぷにバスのフリーきっぷが付いた形でデジタルフリーきっぷが発売されています。バスのフリー乗車区間に応じて、以下の4種類があります。
● 日光世界遺産デジタルフリーパス
日光二社一寺ゆき路線バスを含め、2日間有効です(浅草駅発大人2,500円)。東武線の出発駅から東武日光駅まで往復するだけで、代金の元が取れるおトクなきっぷです。このフリーきっぷに相当する紙のきっぷは発売されていないので、デジタルきっぷが唯一の選択肢です。
● 鬼怒川温泉デジタルフリーパス
鬼怒川温泉駅周辺の路線バスを含め、2日間有効です(浅草駅発大人2,500円)。東武線の出発駅から鬼怒川温泉駅まで往復するだけで、代金の元が取れるおトクなきっぷです。このフリーきっぷに相当する紙のきっぷは発売されていないので、デジタルきっぷが唯一の選択肢です。
● 中禅寺・奥日光デジタルフリーパス
中禅寺湖・奥日光方面の路線バスを含め、4日間有効です(浅草駅発大人4,500円)。紙のきっぷでは「まるごと日光東武フリーパス」に相当します(浅草駅発大人4,810円/4,390円)。
● 湯西川温泉デジタルフリーパス
野岩鉄道湯西川温泉駅までの鉄道および湯西川温泉周辺の路線バスを含め、4日間有効です(浅草駅発大人4,500円)。紙のきっぷでは「まるごと鬼怒川東武フリーパス」に相当します(浅草駅発大人4,830円/4,640円)。
路線バスの現地発デジタルフリーきっぷ
目的地に応じて多くの種類の現地発フリーきっぷがオンラインで発売されています。いずれも、バスで目的地を往復すれば代金の元を簡単に取れるような価格設定です。
● デジタル世界遺産めぐりバス フリーパス
● デジタル中禅寺温泉バス フリーパス
● デジタル湯元温泉バス フリーパス
● デジタル霧降高原バス フリーパス
● デジタル鬼怒川・江戸村・湯西川2日間バス フリーパス
デジタル観光券
以下の観光スポット他、多くの施設のデジタル観光券をオンラインで購入できます。
日光田母沢御用邸記念公園/日光二荒山神社神苑/日光東照宮/着物レンタル/陶芸体験、他多数
「日光世界遺産デジタルフリーパス」を使ってみた!

それでは、東武鉄道のデジタルフリーきっぷをどのように買い、どのように使うかを知るために、筆者が実際に買った「日光世界遺産デジタルフリーパス」を一例として示しつつ、説明したいと思います。
現状は補完的なデジタルフリーきっぷ
デジタルフリーきっぷの具体的なお話をする前に、そもそも論を。
東武鉄道には、株主に定期的に交付する「株主優待乗車証」なるものがあり、市中に安価で流通しています。ネットオークションでは、1枚800円から900円程度で落札できます。
この乗車証1枚で全線を片道1回乗車できるので、例えば浅草駅から鬼怒川温泉駅までこの乗車証を利用すると、正規のきっぷを利用するよりもかなり安上がりです。
というわけで、これらのデジタルフリーきっぷは、補完的な役割にとどまるといえるでしょう。
きっぷ使用上の留意点
東武鉄道のデジタルフリーきっぷを利用するうえでの共通ルールは、次の通りです。NIKKO MaaSの場合、紙のきっぷと違い、デジタルフリーきっぷの払戻手数料が無料です。その点が、デジタルフリーきっぷのメリットといえるでしょう。
● 発売会社
東武トップツアーズ(紙のきっぷと違い、グループの旅行会社が発売する形です)。
● 発売期間
乗車1か月前から当日まで
● 決済手段
クレジットカード(領収書は出ません)
● 有効期間
フリーきっぷによって2日間/4日間
● 途中下車
発駅から下今市駅までの区間は不可、フリー乗車区間は可(乗り放題)
● 乗車変更(人数変更や日付変更など)
不可 → いったんキャンセルしてから、改めて買いなおします。
● 払いもどし
使用開始前であれば、手数料無料で払いもどし可能。使用開始後は一切不可。
きっぷの購入手順
1.あらかじめ会員登録します。氏名、生年月日、住所、電話番号などの個人情報を入力します。

2.ログインすると、きっぷの購入が可能になります。購入したいきっぷの詳細を表示します。

3.出発駅、人数、使用開始日を入力すると、初めて合計金額が表示されます。この段階まで値段を知れないのは困ったものです。

4.確認画面を見て間違いなければ、クレジットカードにて代金を決済します。

5.購入が完了し、チケットが表示されます。有効開始日前は、提示用画面を表示できません。

きっぷの使用手順
6.マイページを表示し[チケットを見せる]を押します。

7.利用を開始します。

8.絵柄が動く提示用画面が表示されます。この画面を駅の有人改札で駅員やバスの運転士に提示します。自動改札は通れません。

決済履歴が表示できますが、そこから領収書を表示することができません。改善が求められます。
まとめ

公共交通機関や観光スポットを一元的に利用できる「MaaS」が、東武鉄道管内でも展開されています。大観光地の日光・鬼怒川地区においては「NIKKO MaaS」が2021年にローンチされています。
具体的には、スマホでデジタルフリーきっぷやデジタル観光券を専用のウェブサイトで購入できたり、カーシェアやレンタサイクルのサイトに飛んだりできます。現在できるのはその程度のことなので、まだまだこれからといった段階です。
利用者目線では、スマホとクレジットカードがあれば、おトクなデジタルフリーきっぷを購入できることでしょうか。筆者も実際に「日光世界遺産デジタルフリーパス」を利用しましたが、まだ認知度が低いようで、他の利用者を見かけませんでした。
サービスがいまだ浸透していないため、サイトで買ったデジタルきっぷが本物かどうか、本当に使えるのかどうか不安を抱く節もあろうと感じます。
NIKKO MaaSのウェブサイトの管理者が誰かがいまいちわかりにくく、サポートが得にくいのが課題です。領収書が出せなかったり、問い合わせ窓口の回答がなかったり、運営上問題があるように感じました。これからどんな感じで推進されるか、見守りたいと思います。
Appendix:各フリーきっぷ値段表【2023年7月現行】
奥日光方面や湯西川温泉方面のフリーパスには、デジタル版と紙のきっぷ版があります。きっぷの効力はほとんど同じですが、デジタル版のほうが値段がいくらか安いです。
● 日光世界遺産デジタルフリーパス
発着駅 | 通年(大人) | 通年(小児) |
浅草駅ー鐘ヶ淵駅間・亀戸線各駅 | 2,500円 | 1,130円 |
堀切駅ー竹ノ塚駅間・大師前 | 2,370円 | 1,070円 |
谷塚駅ー越谷駅間・大宮駅・運河駅 | 2,260円 | 1,010円 |
北越谷駅ー春日部駅間・七里駅・七光台駅 | 2,150円 | 950円 |
● 鬼怒川温泉デジタルフリーパス
発着駅 | 通年(大人) | 通年(小児) |
浅草駅ー鐘ヶ淵駅間・亀戸線各駅 | 2,500円 | 1,260円 |
堀切駅ー竹ノ塚駅間・大師前 | 2,350円 | 1,190円 |
谷塚駅ー越谷駅間・大宮駅・運河駅 | 2,220円 | 1,120円 |
北越谷駅ー春日部駅間・七里駅・七光台駅 | 2,090円 | 1,050円 |
● 中禅寺・奥日光デジタルフリーパス
発着駅 | 冬季以外(大人) | 冬季以外(小児) |
浅草駅ー鐘ヶ淵駅間・亀戸線各駅 | 4,500円 | 2,210円 |
堀切駅ー竹ノ塚駅間・大師前 | 4,390円 | 2,160円 |
谷塚駅ー越谷駅間・大宮駅・運河駅 | 4,300円 | 2,110円 |
北越谷駅ー春日部駅間・七里駅・七光台駅 | 4,200円 | 2,060円 |
● 湯西川温泉デジタルフリーパス
発着駅 | 冬季以外(大人) | 冬季以外(小児) |
浅草駅ー鐘ヶ淵駅間・亀戸線各駅 | 4,500円 | 2,260円 |
堀切駅ー竹ノ塚駅間・大師前 | 4,380円 | 2,210円 |
谷塚駅ー越谷駅間・大宮駅・運河駅 | 4,270円 | 2,150円 |
北越谷駅ー春日部駅間・七里駅・七光台駅 | 4,160円 | 2,090円 |
● まるごと日光東武フリーパス【紙のきっぷ】
発着駅 | 冬季以外(大人) | 冬季(大人) | 冬季以外(小児) | 冬季(小児) |
浅草駅ー竹ノ塚駅間・亀戸線・大師線各駅 | 4,810円 | 4,390円 | 2,420円 | 2,200円 |
谷塚駅ー春日部駅間・大宮駅・運河駅 | 4,580円 | 4,180円 | 2,290円 | 2,090円 |
● まるごと鬼怒川東武フリーパス【紙のきっぷ】
発着駅 | 冬季以外(大人) | 冬季(大人) | 冬季以外(小児) | 冬季(小児) |
浅草駅ー竹ノ塚駅間・亀戸線・大師線各駅 | 4,830円 | 4,640円 | 2,430円 | 2,320円 |
谷塚駅ー春日部駅間・大宮駅・運河駅 | 4,580円 | 4,380円 | 2,310円 | 2,190円 |
参考資料 References
● 「NIKKO MaaS」トップページ

● 日本版MaaSの推進 (国土交通省)

● 「移動」の概念が変わる? 新たな移動サービス「MaaS(マース)」(政府広報オンライン)

● 東武鉄道ニュースリリース 2021.9
https://www.tobu.co.jp/pdf/news_20210930.pdf
● デジタル日光世界遺産フリーパス規約(東武トップツアーズ)2023.7閲覧
改訂履歴 Revision History
2023年7月25日:初稿
2023年7月26日:初稿 加筆
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