途中下車制度を活用して運賃を節約~交通系ICカードと普通乗車券の使い分け~

313系電車 運賃制度

鉄道を利用する場面ですっかり普及した、SuicaやICOCAなどの交通系ICカード。交通系ICカードの利用エリアが非常に広大になり、当該エリアの端から端まで数百kmにまたがるケースが出てきました。

交通系ICカードでIC乗車するか、途中下車制度がある従来からの紙のきっぷ(普通乗車券)を利用するかは利用者の任意であることから、うまく使い分けることで節約につながる場合があります。

交通系ICカードと普通乗車券では、運賃計算の考え方が異なります。そのため、普通乗車券を買っておくと、IC乗車よりも運賃の総額が安くなることが多々あるわけです(逆に、IC乗車の方が総額が安くなることがあるので、注意したいです)。

この記事では、JR線で101km以上の中遠距離区間を移動する際、発駅から着駅まで通しで運賃計算された紙のきっぷ(普通乗車券)をあらかじめ買って、途中下車制度を活用して運賃の節約を図る方法を探っていきます。

普通乗車券の途中下車制度は利用者目線で優れていますが、IC乗車ではその恩恵を受けられません。IC乗車に強引に誘導するのではなく、どのように乗車するか、利用者に主導権があるべきです。

なお、本記事の内容に関連して、JR東日本管内におけるSuicaエリア拡大に伴って、途中下車制度が骨抜きにされる問題があります。別の記事で詳しく考察したので、本記事とあわせて是非ご一読ください。

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IC乗車にはない途中下車制度~普通乗車券のみの特長~

北千住駅改札口

交通系ICカードによるIC乗車が始まる前、鉄道を利用する際は紙のきっぷを購入しました。紙のきっぷといっても種類が多くありますが、本記事では「普通乗車券=紙のきっぷ」という前提でお話を進めます。

鉄道の利用を開始する発駅から利用を終了する着駅までの区間にある途中駅で改札を出てもきっぷを使い続けることができる制度が、途中下車制度です。この制度のポイントは、次の通りです。

● 経路全体で101km以上
● 後戻りしない
● 運賃(普通乗車券)のみの概念

途中下車制度は、運賃部分(普通乗車券)のみに適用されます。特急券やグリーン券といった料金券は1回につきいくらなので、もともと途中下車の概念はありません。また、多くの割引きっぷや「新幹線eチケット」「EX予約」などの新幹線チケットレス乗車はいずれも企画商品で、途中下車は認められていません。

交通系ICカードを利用するには、あらかじめカードに運賃をチャージします。そして、乗車する区間に応じた運賃を、チャージした残高から引き落とします。IC乗車において運賃を引き落とすこの仕組みを、規定上「ストアードフェア乗車(SF乗車)」といいます。

改札を出る都度残高が引き落とされるので、運賃の差額を調整するような仕組みは今のところありません。普通乗車券とは仕組みが異なるので、交通系ICカードにはもともと途中下車の概念はありません

そんなわけで、途中下車制度は、現在広く普及した交通系ICカードにはない、普通乗車券だけが持つ優れた特長です。

例えば、発駅Aから着駅Cまで200kmを移動するのに、経路上の途中駅Bに寄り道することが考えられます。交通系ICカードでIC乗車すると、A駅からB駅までの運賃とB駅からC駅までの運賃がICカードからその都度引き落とされます。

一方で、従来からある紙のきっぷ(普通乗車券)は、基本的には途中下車が可能です。この場合、A駅からC駅まで200km分の普通乗車券をあらかじめ買っておくと、途中のB駅で一旦改札を出ても当該きっぷが回収されず、1枚のきっぷで移動を続けられます。B駅では、C駅ゆきのきっぷを買いなおす必要がないわけです。

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普通乗車券を買うための準備が一手間

普通乗車券
普通乗車券のイメージ

普通乗車券は原則的には割引なしのきっぷで、運賃・料金が割引された企画商品とは対となるものです。しかし、学割証を持つ学生や障害者に対して割引が提供されるので、一概に無割引とは断定できません。

普通乗車券の媒体は、すでにお話ししているように紙のきっぷです。普通乗車券の大きな特徴は、乗車を始める前にあらかじめ乗車経路を決めて運賃計算し、紙のきっぷを運送契約の証として交付することです。

したがって、旅行開始後に列車の運休などのイレギュラーがあった場合、運送契約を完遂するために振替乗車などの便宜が提供されます。一方、交通系ICカードのSF乗車では経路が確定していないため、振替乗車などの便宜提供は一切ありません。

このように、利用者本位の優れた仕組みを持った普通乗車券ですが、現在は駅の有人窓口(みどりの窓口)が急速に減少していることから、入手にひと手間かかる状況です。指定席券売機でも一定の普通乗車券を購入できますが、複雑な経路の乗車券は購入しづらく、購入のための一定の知識が要求されます。

このように、従来のようには普通乗車券を気軽に入手できなくなってしまったことを覚えておきたいです。

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途中下車制度を活用した運賃節約効果を検証する

JR東日本自動改札機

それでは、発駅から着駅まで運賃計算が通算された普通乗車券を購入して途中下車する場合のコストと、途中駅で改札を出るごとに運賃計算が打ち切られるIC乗車のコストを、具体例を挙げて比較検証したいと思います。

JR各社の交通系IC利用エリアはいくつかありますが、それぞれ特徴があります。特徴を明らかにした上で、各エリア内での運賃計算例を挙げていく形を取りたいと思います。

各区間の運賃を比較するためには、それぞれの区間で運賃計算し、シミュレーションを行います。専用の運賃分割プログラムを利用できればベストですが、乗換案内などのスマホアプリでも簡単に運賃を算出できます。

少し手間がかかる作業ですが、お金の節約のためには見合うことではないでしょうか。

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Kitacaエリア(JR北海道)

733系電車

Kitacaエリアの概要

北海道の札幌都市圏を中心に展開されているJR北海道の交通系ICカードです。2024年春を目途に、Kitacaエリアが旭川駅まで拡大されます。

従前は概ね100kmの距離で収まっていたので、途中下車制度との整合性が問題にはなりませんでした。しかし、エリアの旭川駅拡大で普通乗車券の活用という観点が出てきました。

運賃計算例:札幌駅→滝川駅→旭川駅

発駅の札幌駅(札幌市北区)から旅行を開始し、途中の滝川駅(北海道滝川市)にて途中下車し、きっぷの有効期間内に着駅の旭川駅(北海道旭川市)まで旅行を続けます。

運賃シミュレーション

発駅の札幌駅から着駅の旭川駅まで通しの運賃計算で普通乗車券を購入すると、IC乗車に比べ320円低廉になります。寄り道する駅によって運賃計算の結果が変わりますが、途中下車制度を活用することで運賃が節約できるケースが多そうです。

Suicaエリア(JR東日本)

E231系電車

Suicaエリアの概要

JR東日本管内で広く展開されている交通系ICカードです。広大なJR東日本エリアが一つにまとまることは今のところなく、首都圏・新潟地区・仙台地区などいくつかのエリアが点在します。

首都圏エリアでは、JR以外の会社線の交通系ICカードPASMOと密接に関係があります。

Suicaエリアの曲者が、大都市近郊区間の存在です。大都市近郊区間で完結する普通乗車券には、通常のきっぷにはない以下の制限があります。

● きっぷの有効期間が当日限り
● 途中下車前途無効(改札を出るときっぷを回収される)
● エリア内の経路選択が自由

在来線経由の普通乗車券を購入すると、Suicaの特徴である有効期間当日限りかつ途中下車前途無効と同等の条件が強制的に付いてきます

新幹線の並行在来線については、新幹線経由の乗車券とすることで途中下車制度の恩恵を受けられます。とはいえ、新幹線のないエリアではどうしようもありません。裏技を使わなければならない程度に選択の自由が奪われた状況で、旅客営業制度を勉強したプロや鉄オタ以外の利用者が気軽に利用できる状況ではありません。

以下の2例は発駅と着駅が同じですが、それぞれ途中下車する駅が異なります。

運賃計算例1:横浜駅→大宮駅→高崎駅

発駅の横浜駅(横浜市西区)から旅行を開始し、途中の大宮駅(さいたま市大宮区)にて途中下車し、きっぷの有効期間内に着駅の高崎駅(群馬県高崎市)まで旅行を続けます。大宮駅から高崎駅までの区間は便宜的に新幹線経由としますが、実際は全区間在来線を利用可能です。

運賃シミュレーション

本記事の意図とは正反対の結果ですが、この場合はIC乗車した方が運賃が低額です。横浜駅から大宮駅までの区間が電車特定区間で、運賃が低廉です。そのため、通しの運賃計算での節約効果が残念ながら出ません。

運賃計算例2:横浜駅→東京駅→高崎駅

発駅の横浜駅(横浜市西区)から旅行を開始し、途中の東京駅(東京都千代田区)にて途中下車し、きっぷの有効期間内に着駅の高崎駅(群馬県高崎市)まで旅行を続けます。東京駅から高崎駅までの区間は便宜的に新幹線経由としますが、実際は全区間在来線を利用可能です。

運賃シミュレーション

発駅と着駅が全く同じながら、寄り道する駅が違うだけで結果が大きく異なることが分かります。電車特定区間運賃(賃率)が適用される距離が上記よりも短いこともあり、運賃計算を通しで行うメリットが存分に現れています。

TOICAエリア(JR東海)

211系電車

TOICAエリアの概要

JR東海管内の全域が、一つのTOICAエリアとしてまとまっています(主要区間の駅が対象)。このエリアには大都市近郊区間がないため、普通乗車券を利用した場合の有効期間や途中下車の制限がありません。他のJR会社と比較して、交通系ICカード乗車と普通乗車券での乗車を自由に選択できる点で、柔軟性があります。

運賃計算例:熱海駅→名古屋駅→米原駅

発駅の熱海駅(静岡県熱海市)から旅行を開始し、途中の名古屋駅(名古屋市中村区)にて途中下車し、きっぷの有効期間内に着駅の米原駅(滋賀県米原市)まで旅行を続けます。

運賃シミュレーション

本例では、TOICAエリアの最長区間にてシミュレーションしてみました。この区間の営業キロが300kmを超えるため、運賃の遠距離逓減制が活きてきます。運賃計算を通しで行い、途中駅では途中下車することで運賃の節約を図れます。

ICOCAエリア(JR西日本)

207系電車

ICOCAエリアの概要

JR西日本管内で展開されている交通系ICカードです。利用エリアが複数に分かれたJR東日本とは異なり、JR西日本の主要区間が端から端まで一つのICOCAエリアとして統合されています。

単一のエリアとしては非常に広大ですが、乗車可能な距離に上限があるため(概ね200km)、管内全域をICOCA一枚で自由自在に乗車できるわけではありません。したがって、普通乗車券がまだまだ幅を利かせているエリアです。

ただし、JR他社エリアとは異なり、JR西日本の区間には難解な運賃計算の特例が数多くあるので、運賃の比較には要注意です。また、大阪近郊区間がとても広いので、JR西日本管内の区間で途中下車できるきっぷを入手できるチャンスは、思ったほどに多くないように思います。

運賃計算例:岡山駅→呉駅→広島駅

発駅の岡山駅(岡山市北区)から旅行を開始し、途中の呉駅(広島県呉市)にて途中下車し、きっぷの有効期間内に着駅の広島駅(広島市南区)まで旅行を続けます。

運賃シミュレーション

発駅から着駅までの距離が200kmを越えない程度では、通しの運賃計算の効果が顕著には現れてきません。JR西日本のICOCAエリアにおいては、IC乗車が200kmを超えないことになっています。そんなわけで、近距離の利用ではIC乗車の方が強いと感じます。

本事例の場合、経路には運賃計算の特例があります。通し計算の普通乗車券を購入して、途中下車を活用する効果が辛うじてあります。

まとめ

行先や経路が決まっていなくてもサクッと列車に飛び乗れる、交通系ICカードでのIC乗車。改札を出る時に初めて運賃額が確定します。

一方で、乗車経路をあらかじめ決めて普通乗車券を購入してから列車に乗るスタイルでは、前もってシミュレーションして運賃節約を考えることができます。

発駅から着駅までの距離が長くなるほど、遠距離逓減制の原則が活きる形で運賃(賃率)が低くなります。これが、通しの運賃計算で普通乗車券を購入し、途中の駅に寄り道する場合は途中下車制度を活用すると有利な場合があることの根拠です。

改札を出るたびに運賃計算が打ち切りになるIC乗車よりも、通しの普通乗車券のほうが運賃の総額が低くなる傾向があります。しかし、途中下車する駅でその結果が変わるため、スマホアプリなどを利用して、事前の運賃シミュレーションが欠かせません。

本記事で説明した運賃計算の原理を知らないと、IC乗車を勧めるために普通乗車券を売り渋る傾向がある(特にJR東日本の)出札係員に打ち勝つことができません。

ただし、途中下車制度を活用する上で障害となる要因として、途中下車を認めない大都市近郊区間の制度があります。首都圏における東京近郊区間や近畿圏における大阪近郊区間がそれに該当しますが、それぞれエリアが広大です。経路に新幹線を含めるなど、裏技の活用が欠かせません。

運賃制度をゆがめて強制的にIC乗車に誘導するのではなく、利便性に勝るIC乗車を取るか、節約かつ柔軟な使い方が可能な普通乗車券を取るかの選択を利用者に委ねるのが、平和なやり方ではないでしょうか。

参考資料 References

● Kitaca

Kitaca|駅・鉄道・観光|JR北海道- Hokkaido Railway Company
JR北海道のポータルサイト。鉄道情報、旅行情報、関連事業情報、企業情報などを掲載。列車や宿泊の予約も可能。

● Suica

Suica:JR東日本
ますます広がるタッチ&ゴー!JR東日本の「Suica」公式ホームページ。電車でも、バスでも、お買い物でも「ピッ」。Suicaを使えるエリアが広がって、ますます便利になりました。

● TOICA

TOICA|JR東海
タッチするだけで、鉄道のご乗車も、お買い物もラクラク。便利なJR東海のICカード『TOICA(トイカ)』のご紹介はこちら。

● ICOCA

ICOCA:JRおでかけネット
ICOCAはパスケースに入れたままタッチするだけで自動改札が通れる、JR西日本の便利なICカードです。

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則

(有効期間)
第154条 乗車券の有効期間は、別に定める場合の外、次の各号による。
(1) 普通乗車券
イ 片道乗車券
営業キロが100キロメートルまでのときは1日、100キロメートルを超え200キロメートルまでのときは2日とし、200キロメートルを超えるものは、200キロメートルまでを増すごとに、200キロメートルに対する有効期間に1日を加えたものとする。ただし、第156条第2号に規定する大都市近郊区間内各駅相互発着の乗車券の有効期間は、1日とする。

(途中下車)
第156条 旅客は、旅行開始後、その所持する乗車券によつて、その券面に表示された発着区間内の着駅(旅客運賃が同額のため2駅以上を共通の着駅とした乗車券については、最終着駅)以外の駅に下車して出場した後、再び列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、次の各号に定める駅を除く。
(2) 次に掲げる区間(以下「大都市近郊区間」という。)内の駅相互発着の普通乗車券を使用する場合は、その区間内の駅
イ 東京附近にあつては、

(選択乗車)
第157条
2 大都市近郊区間内相互発着の普通乗車券及び普通回数乗車券(併用となるものを含む。)を所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、同区間内の他の経路を選択して乗車することができる。

● 東日本旅客鉄道株式会社 ICカード乗車券取扱規則

(使用方法)
第22条 旅客は、ICカード乗車券を用いて乗車するときは、自動改札機による改札(新幹線停車駅における新幹線用の乗換改札機(奥羽本線福島・新庄間に運転する特別急行列車並びに田沢湖線及び奥羽本線大曲・秋田間に運転する特別急行列車の停車駅における乗換改札機を含みます。以下同じ。)での改札を含みます。以下同じ。)を受けて駅に入場し、同一のICカード乗車券により自動改札機による改札を受けて、駅から出場しなければなりません。

(Suica乗車券を使用する場合のIC運賃の減算)
第38条 Suica乗車券を第22条第1項の規定により使用する場合、出場駅において、入場駅から同一の取扱区間内を経由して最も低廉となる運賃計算経路で算出したIC運賃(第29条の2の規定によりIC運賃と鉄道駅バリアフリー料金とをあわせ収受する場合は、その合算額。以下この章において同じ。)をSF残額から減算します。この場合、小児用のSuica乗車券においては小児のIC運賃を、その他のSuica乗車券においては大人のIC運賃を減算します。

(Suica乗車券の効力)
第40条 第22条第1項の規定により使用する場合のSuica乗車券の効力は次の各号に定めるとおりとします。
(1)当該乗車区間において、片道乗車1回に限り有効なものとします。この場合、小児用のSuica乗車券においては1枚をもって小児1人、その他のSuica乗車券においては1枚をもって大人1人に限るものとします。ただし、小児用以外のSuica乗車券から大人のIC運賃(第29条の2の規定によりIC運賃と鉄道駅バリアフリー料金とをあわせ収受する場合はその合算額)相当額を減算することを承諾して使用する場合には、小児1人が使用することができます。
(2)第23条第1項の各号に規定する同一の取扱区間内にある駅相互間を前号の規定により乗車する場合で乗車経路が環状線1周とならないときは、当該取扱区間内に限りいずれの経路も乗車することができます。
(3)途中下車の取扱いはしません。
(4)入場後は、当日に限り有効とします。

改訂履歴 Revision History

2023年8月04日:初稿

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