JR西日本のデジタルきっぷ「tabiwa周遊パス」【北陸編】~「金沢能登tabiwaパス」を例に

和倉温泉駅 デジタル鉄(ネット)

北陸エリアでかつて発売されていた「北陸おでかけパス」といった紙のフリーきっぷが置き換わる形で、JR西日本から発売されるフリーきっぷが「tabiwa周遊パス(たびわ周遊パス)」として続々とデジタル化されています。

「北陸おでかけパス」の後継として期間限定で発売されているデジタルフリーきっぷ「北陸おでかけtabiwaパス」に加え、鉄道・バスと観光施設のチケットが一つにまとまった多くの種類の「tabiwa周遊パス」が、地域別に発売されています。

公共交通や観光のデジタル化の一つの形として「MaaS(マース)」が推進されています。MaaSでは、移動手段の検索、移動に必要なチケットの購入などが、スマホアプリから一手に利用可能です。観光型MaaSでは、それらに加えて観光スポットの情報検索や観光チケットの購入も可能です。

JR西日本版の観光型MaaS「tabiwa by WESTER(たびわ・ばい・うぇすたー)」では、いま申し上げた鉄道・バスのデジタル周遊チケットや観光・食事のチケットをスマホアプリで購入する形に変わっています。

この記事では、「tabiwa by WESTER」アプリにおける商品の一例として、筆者が実際に利用したデジタルフリーきっぷ「金沢能登tabiwaパス」を取り上げます。このパスの内容や使い方、実際に使用した感想から、デジタルフリーきっぷの可能性について検討したいと思います。

JR西日本エリアで利用できるフリーきっぷのデジタル化が、今後進みそうです。デジタルフリーきっぷには利点もありますが、浸透するまで丁寧なサポートが求められます。

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紙のフリーきっぷが続々とデジタル化

大手鉄道会社からきっぷのデジタル化が徐々に始まっていますが、JR西日本エリアも例外ではありません。

特定のエリアを鉄道やバスで回るフリーきっぷは、従来は紙のきっぷで提供されていました。その代表格が、北陸地方の広範なエリアを一枚のきっぷで乗車できる「北陸おでかけパス」でした。

北陸おでかけパスと同じ効力があるデジタルきっぷ「北陸おでかけtabiwaパス」が2022年11月から発売され、紙のきっぷの北陸おでかけパスは2023年3月をもって終息しました。

その他のフリーきっぷに関しても、紙のきっぷからデジタルきっぷへの置き換えが急速に進んでいます。

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MaaSとは~公共交通の利用をスマホで一元化~

兼六園

JR西日本版のデジタルフリーきっぷ「tabiwa周遊パス」について具体的にお話しする前に、その背景にある公共交通利用分野のデジタル化についてふれたいと思います。

政府(国土交通省)や大手鉄道会社が旗を振り、「MaaS」が推進されています。MaaS(マース)とは「Mobility as a Service」の略です。直訳すると「サービスとしての移動手段」といった意味合いです。

MaaSでは、鉄道やバス、船舶、レンタカーやレンタサイクルといった様々な交通手段を一つのサービスとして捉えます。そのおかげで、移動の際にそれらの交通手段の組み合わせを一発で検索できます。

移動手段の検索に加え、その移動に必要なデジタルきっぷを手元のスマホで一手に購入できます。これまで移動手段ごとにまちまちだったものが、一つに結合した形です。

日常的な移動に加え、公共交通を利用した観光にもMaaSが活用されます。移動手段に加え、観光スポットの入場や体験、食事の検索や代金の決済が一発で可能になるのも、MaaSの強みです。

MaaSの動きはまだ実証実験的な域を出ませんが、着々と進んでいます。公共交通機関や観光スポットの一元的な検索や代金決済をサポートするのが本来のMaaSの役割であって、きっぷの安売りをするための仕組みではないことに留意したいです。

JR西日本の他に、東武鉄道におけるMaaSに関する記事を投稿しています。興味がある方は、当該記事(↓)をあわせてご一読ください。

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JR西日本における観光型MaaS「tabiwa by WESTER」

tabiwa販売パンフレットより引用

MaaSが日本国内で最も推進されていると筆者が思うのが、JR西日本です。JR西日本ではデジタル化のための事業部が立ち上げられ、スマホアプリやサービスのデジタル化が熱心に進められています。

日常生活の場面や旅行・観光の場面の両面でMaaSが推進されていますが、前者が日常型MaaS、後者が観光型MaaSです。それぞれ、別のスマホアプリでサービスが提供されています。

「WESTER」アプリ

日常型MaaSのアプリです。JR西日本のポイント、WESTERポイントの残高を調べたり、お店の割引クーポンを表示したり、経路検索をしたりと、日常生活に即したサービスが中心です。

westerアプリより引用

例えば、アプリで経路検索をするのに、観光施設名でも検索が可能だったりします。

「tabiwa by WESTER」アプリ

観光型MaaSのアプリです。今のところ、周遊パスや観光チケット、食事チケットの購入や、購入したチケットの管理を行えます。観光旅行に必要なチケットの管理を一元的に行えるサービスとして、今後機能が増えることが想定されます。

以下「tabiwa by WESTER」アプリより引用

いずれのアプリも2021年から2022年にかけてローンチされましたが、それ以来バージョンアップが進んでいます。他社と比較する限り、JR西日本のMaaSが一歩抜きん出た状況にあると思います。

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「tabiwa by WESTER」で購入できるデジタルきっぷ【北陸エリア】

北陸本線普通列車

鉄道・バスのきっぷにとどまらず、観光施設の入場・体験チケット、お土産物の割引チケット、観光列車の食事代金決済など、さまざまな用途でデジタルきっぷを利用できます。

このアプリには、JR線や社線、バスのフリーきっぷに観光施設の入館料がセットになった「tabiwa周遊パス」と、現地交通機関のきっぷや観光施設の入場券、食事券が単品で発売される「tabiwaチケット」が含まれます。

本記事では、北陸エリアの「tabiwa周遊パス」および「tabiwaチケット」に絞って取り上げます。

tabiwa周遊パス

tabiwa周遊パスには、JR線のフリーきっぷが必ず含まれます。その他、鉄道の他社線、バスや路面電車のフリーきっぷ、観光施設の入場券や土産物店の割引券がセットになっている周遊パスもあります。

2024年春の北陸新幹線敦賀駅延伸で影響を受けそうなきっぷには、名称の後に★を付けました。

小浜線tabiwaパス

大人2,200円/2日間有効

JR小浜線全線(東舞鶴駅から敦賀駅までの区間)のフリーきっぷと沿線の観光施設の入場料金や優待クーポンが含まれています。

2024年春に開業する北陸新幹線敦賀駅が近いエリアなので、注目です。

越前tabiwaパス

大人2,500円/2日間有効

福井県内のJR線全線(北陸本線、越美北線)のフリーきっぷの他に、京福バスのフリーきっぷ、観光施設の入場券がセットのパスです。

2024年春に予測される商品内容の変更には要注意です。

金沢加賀tabiwaパス

大人2,500円/2日間有効

石川県内のJR北陸本線(大聖寺駅から金沢駅までの区間)のフリーきっぷと、加賀温泉・金沢市街エリアのバスのフリーきっぷ、金沢市街の観光施設の入場券がセットになった周遊パスです。加賀温泉に宿泊している人が日帰りで金沢を観光に訪れる場合に適しています。

2024年春には北陸新幹線の開業が控えており、この周遊パスの内容や北陸新幹線にも乗車できるか否か要注意です。

金沢能登tabiwaパス

大人3,260円/2日間有効

金沢駅からJR七尾駅を経て、のと鉄道穴水駅までの区間の鉄道フリーきっぷと、穴水駅以北のエリアの路線バスのフリーきっぷ、七尾地区の観光施設の入場券がセットになった周遊パスです。金沢をベースに能登半島を日帰りする場合や、能登半島に1泊してじっくり周遊する場合のいずれにも適しています。奥能登を路線バスで回る場合にはコスパが高く、必携と言えるでしょう。

北陸新幹線の延伸いかんを問わず、フリー乗車区間などの商品性に変化は起こりにくく、安定した商品だと思います。

とやま周遊2dayパス

大人1,520円/2日間有効

富山市・高岡市周辺の鉄道や路面電車のきっぷがセットになった周遊パスです。路線バスや観光施設の入場券が含まれていない分、値段が低めです。観光よりも鉄道の乗りつぶしに適しているように思います。特に、JR城端線やJR氷見線の観光列車「べるもんた」の乗車券として利用するのに適しています。

北陸新幹線の延伸に影響される心配があまりなく、現在の内容で商品が存続すると思います。

北陸おでかけtabiwaパス【期間限定】★

大人2,450円/当日限り有効

以前発売されていた「北陸おでかけパス」の代替として発売されているデジタル周遊パスです。西はJR小浜線の青郷駅(福井県高浜町)、東はえちごトキめき鉄道線の直江津駅(新潟県上越市)までの長大なエリアがフリー乗車区間に含まれます。

このパスに含まれているのはJR線のフリーきっぷのみで、他の交通機関のきっぷや観光施設の入場料は含まれていません。有効期間が1日なので、下車して観光するよりは、純粋な乗り鉄に適しています。

2024年春の北陸新幹線敦賀駅延伸でこのきっぷ自体が存続するか、フリー乗車区間の変更などの変更が伴うか、という点に要注目です。

tabiwaチケット

tabiwa by WESTERでは、上記の周遊パスのみならず、現地の交通機関や観光施設のチケット(船車券や観光券)を単品で購入できます。従来は旅行会社にて旅行商品の商材として発売していましたが、MaaSの流れで商品の一部として取り込もうということでしょうか。

このアプリでは、現在は宿泊を取り扱っていないものの、旅行会社の役割を担えるだけの能力を持ったアプリといえます。

また、このアプリならではの機能が、観光列車のオンライン代金決済(食事チケットの発行)の機能を持つことでしょうか。JR西日本の観光列車「花嫁のれん」号やJR四国の観光列車「伊予灘ものがたり」などの列車の食事代金の決済を行えます。

tabiwa周遊パス・tabiwaチケットのメリット・デメリット

このように、多種のデジタル周遊パスやデジタルチケットを購入できる「tabiwa by WESTER」ですが、以下のようなメリットやデメリットが挙げられます。

メリット

● 値段の安さ

何といっても、乗車するたびにきっぷを買う手間がないことと、値段が安いことに尽きます。鉄道利用だけでも十分元が取れる内容で、観光施設の入場券をすべて使えばコスパが抜群です。

● 購入場所を選ばない

この手の周遊パスは従来、購入箇所が限定されていたり、購入期限が設定されていたりして、誰でも利用できるものではありませんでした。しかし、決済がオンラインになったことで、場所や時間を選ばずに購入できるようになったのは、大きいです。

● 紙のきっぷ/クーポンの受け取りが不要

デジタルきっぷなので、紙のきっぷやクーポンを使用しません。きっぷを紛失する心配がありません。

デメリット

● 周遊パスがセット販売である点

例えば鉄道しか利用しない場合でも、tabiwa周遊パスには観光施設の入場券がセットになっています。パス自体の価格設定が安価なのであまり損に感じることがないはずですが、セット販売を抱き合わせととらえる向きもあるでしょう。

● 画面の表示・提示が面倒

筆者が実際にデジタルきっぷを利用して感じたのが、デジタルきっぷの画面を都度表示するのが大変で面倒なことです。同時に2つ以上のデジタルきっぷを併用している場合、両方を同時に提示できず、画面を切り替えるのに時間がかかります。

● スマホやクレジットカードの所持が前提

これらのデジタルきっぷの代金の決済は、事前にオンラインで行います。決済にはスマホやクレジットカードが必須になるため、クレカを持たない人にとっては利用できないきっぷになります。

● サーバーの障害やスマホの不具合

tabiwa by WESTERで購入したデジタルきっぷのデータそのものは、JR西日本のサーバーにあります。そのサーバーの稼働が今のところ盤石ではないと言われていて、時にチケットをスマホで表示できないことがあります。

当該サーバーの不具合を個人のスマホの不具合とみなされ、利用者の責めにされてしまいそうです。その点、筆者は懸念を抱いています。

ここからは、能登半島の鉄道・路線バスがフリー乗車エリアに含まれる「金沢能登tabiwaパス」の買い方・使い方です!

tabiwa周遊パスの購入方法・使用方法「金沢能登tabiwaパス」

のと鉄道普通列車穴水駅にて

ここでは、tabiwa周遊パスの一例として、筆者がのと鉄道の乗りつぶしに実際に利用した「金沢能登tabiwaパス」の購入方法や使用方法を説明します。

パスを購入するまでの手順

周遊パスを購入するには、「tabiwa by WESTER」アプリもしくはウェブサイトを開きます。いずれを使用しても、動作は同じです(購入操作に限ってはPCでも可能です)。

最初に、チケットの詳細内容をよく読んで理解します。問題なければ[購入手続きに進む]を押します。

人数を選択します。1名ずつ分けて購入すると各自のスマホでチケットを表示できるため、同一行動でなくてもよくなるのでおススメです。

利用開始日を入力します。

支払額が表示されます。問題なければ[チケットを購入する]を押します。

緊急連絡先の電話番号を入力します。

クレジットカードで代金を決済します。

決済が完了すると、完了画面が表示されます。購入内容の詳細およびPDF領収書が、メールでも送付されてきます。

パスを利用開始する方法

チケットを利用する段階では、スマホ上に表示される画面を提示するため、スマホが必携です。電池切れには注意してください。

チケット管理画面から、使用開始するチケット、今回は「金沢能登tabiwaパス」を選択します。

未使用の状態のチケットでは[利用開始する]が押せるようになっています。最初に利用する駅の改札口で[利用開始する]を押します。駅員さんの目の前で操作すれば安心です。

チケットが表示されます(背景と時刻が動きます)。チケットには、利用開始日と有効期間、人数が表示されています。以降は、この画面を提示します。

tabiwaチケットの購入方法・使用方法「伊予灘ものがたり」「花嫁のれん」食事券

周遊パスと同じ要領で、観光列車の食事代金をオンライン決済し、電子チケットを受け取ることができます。

筆者が経験した「伊予灘ものがたり」および「花嫁のれん」号の食事代金決済についての詳細は、当該列車の記事に書いてあります。以下の別記事(↓)をそれぞれ参照してください。

便利そうなデジタルきっぷですが、まだまだ課題が多くあります。

デジタルきっぷ推進上の課題

のと鉄道沿線の車窓

tabiwa周遊パスやtabiwaチケットにみられるきっぷのデジタル化は新しい動きですが、その動きがとにかく速いです。既存のサービスをデジタル化によって置き換えるのは良いのですが、相応の配慮が必要なことはいうまでもありません。

筆者が周遊パスを利用して感じたのが、現場の駅員さんに浸透していないこと。今回利用した「金沢能登tabiwaパス」の利用エリア内の七尾駅は主要な駅ですが、駅員さんがデジタルきっぷの扱いに不慣れな感じがしました。きっぷは紙が当たり前で、デジタルって何よ、というのが物腰に出ていました。

現在では高齢者を含め、ほとんどの人がスマホを所持し、使用しますが、それでウェブサービスを使いこなせることにはなりません。ウェブを使いこなせるかこなせないかで生じるデジタルデバイドを考慮する必要があります。

現状は利用者、駅員さんともデジタルきっぷについていけてる感があまりないので、導入に前のめりになるばかりではなく、関係者への丁寧なフォローアップが欠かせません。

また、tabiwaのサーバーダウンを筆者も経験しました。デジタルきっぷのデータ自体はJR西日本のサーバーにあり、通信してスマホに表示する仕組みです。サーバーや通信障害でデジタルきっぷを表示できないのを、利用者の責任としてなすりつけることは決してあってはなりません。

まとめ

能登中島駅

MaaSの一環として、公共交通機関におけるデジタル化が推進されています。その動きのトップバッターともいえるのがJR西日本で、同社が運営する観光型MaaS「tabiwa by WESTER」にて、デジタルフリーきっぷ「tabiwa周遊パス」やデジタル観光チケット「tabiwaチケット」を発売しています。

「tabiwa by WESTER」はスマホアプリで、鉄道・バスのデジタル周遊チケットや、観光・食事のチケットを当該アプリ上で購入する形です。北陸エリアや瀬戸内エリアから始まったサービスですが、近未来的にJR西日本エリア全域に展開されると思います。

本記事で実例として取り上げた「金沢能登tabiwaパス」は、金沢駅から能登半島までの広い周遊エリアをカバーしていながら、値段は大人で3千円強とリーズナブルです。鉄道・バスのフリーきっぷの他に、七尾地区の観光施設の入場券も含まれますが、鉄道に乗車するだけでも十分に元を取れるほどコスパが高いです。

従来の紙のきっぷは事前購入に難がありましたが、このデジタルきっぷはいつでもどこでも買えるのが大きな利点です。従来の「北陸おでかけパス」にあったような購入に至るまでの障壁が、tabiwa周遊パスではなくなりました。

一方で、チケット画面を提示するのが煩雑かつ面倒で、スマホのトラブルも考えられます。それがデジタルきっぷの弱点ですが、利用者にしわ寄せが及ばないことを願ってやみません。

参考資料 References

● 第2回鳥取県東部地域交通まちづくり活性化会議(JR西日本山陰支社)

https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1315091/siryou3.pdf

● tabiwa by WESTER チケット一覧 (JR西日本) 2023.8閲覧

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改訂履歴 Revision History

2023年8月29日:初稿

2023年8月31日:初稿 修正

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