東海道・山陽・九州新幹線を利用する際、ネット予約やチケットレス乗車が便利な「エクスプレス予約」および「スマートEX」。それらはまとめて「EXサービス」と呼ばれていますが、年会費の有無や料金面で違いがあります。
本サイトでも別の記事として投稿した通り、2001年に始まった有料会員制の「エクスプレス予約」の仕組みが、2023年10月以降大きく変わりました。その変更内容についてはJR東海・JR西日本から何回かに分けて情報が発信されたため、全容を把握しにくいです。
明確に言えることは、エクスプレス予約ならではの通年同額の分かりやすい料金体系がなくなったり、利用者にとってささやかなご褒美だったグリーンプログラムが終了したりと、利用者目線でエクスプレス予約会員であるメリットが感じにくくなったことです。
一方で年会費がない「スマートEX」には料金体系などサービス内容の変更がほとんどなく、年会費有料の「エクスプレス予約」からの移行が視野に入ります。
そこで、この記事では、EXサービスにおける2023年10月以降の体制について、批評抜きで簡潔に整理し、全体像をできるだけ明らかにしたいと思います。

料金体系が変わっても、EXサービスのメリットはあるんですか?

最繁忙期に新幹線のぞみ号の指定券を取るにあたっては、1年前から予約購入できる点で、EXサービスのユーザーにとって有利です。乗車1か月前に繰り広げられる指定席争奪戦の姿が、今後変わるかもしれません。
EXサービスユーザーでないと指定券が取れないかも

EXサービスに関する諸々のサービス変更の中で最も大きな部分を占めるのが、最繁忙期における列車の予約方法です。
お盆、年末年始、GWといった最繁忙期に新幹線「のぞみ」号が全車指定席になる点と、EXサービス会員に限って乗車1年前から指定券の予約購入が可能になる点から、EXサービスを利用して早期に指定券を購入しないといけない可能性が高いです。
つまり、EXサービスを利用しない場合、従来の発売開始時期である1か月前では指定券をとれず、門前払いとなってしまうリスクが考えられます。
エクスプレス予約会員もしくはスマートEXユーザーであることの意義が、この点にありそうです。率直なところ、ユーザーの囲い込み方がかなり巧妙だと思います。
EXサービスの内容が再編される背景
年会費が有料の「エクスプレス予約」を利用するには専用のクレジットカード保有が必要で、利用者は主にビジネスユーザーやヘビーユーザーです。一方で、年会費が無料で、登録さえすれば誰でも利用可能な「スマートEX」は、観光性ユーザーにとって気軽に利用できます。
2020年から2022年にかけてのCOVID-19を経て、ビジネス出張の需要が減少し、以前の状況には戻らないだろうと言われています。一方で、観光需要はインバウンドもあいまって、非常に好調です。鉄道会社側もこの変化を読み取って、ビジネスユーザーを優遇する施策から、観光性のユーザーの利便性を向上する施策にシフトしたように見受けられます。
実際に、料金体系の見直しでは、観光性ユーザーが多く利用するであろう早特商品を拡充させた一方、エクスプレス予約の料金が引き上げ基調になりました。早くから予定を固める必要がある早特商品は、ビジネス出張では利用しにくい一方、非業務の旅行にはよくマッチします。
その上、エクスプレス予約だけの特典だったグリーンプログラムを取りやめた結果、これまでのエクスプレス予約ユーザーにとっては魅力ない内容に変わってしまいました。今回の諸々の改定によって、既存のユーザーにとって利点だった部分がまるっと消え、エクスプレス予約会員でなければならない理由がほとんど見出せなくなりました。
結論としては、年会費を支払ってまでエクスプレス予約会員でいるだけのメリットが、ほぼほぼ消滅してしまったように思えます。単にネット予約やチケットレス乗車の利便性を享受したいのであれば、スマートEXで十分用が足りるといえましょう。
2023年5月末にJRから発表されたEXサービスの料金体系の変更については、以下の別記事(↓)にて詳細を記し、筆者個人としての意見を申し上げました。
また、同年8月下旬に追って発表されたエクスプレス予約のグリーンプログラム終了について、以下の別記事(↓)にて詳細を記し、こちらも個人的な意見を申し上げました。

それでは、EXサービスの会員制度やネット予約の方法、そして料金体系に関して明らかになったことを逐一整理していきます!
EXサービスの会員制度に関する変更点

エクスプレス予約とスマートEXサービスの会員制度自体には、従来と変更がありません。他のネット予約サービスにみられるような制限を受けずにネット予約の機能を活用し、ICカードでチケットレス乗車するためには、いずれかのユーザーでなければなりません。
エクスプレス予約については、JR東海エクスプレスカードを保有する場合でも、J-WESTカードやJQ CARDを保有する場合でも、従来通り年会費が1,100円かかります(プラスEXの場合、これらの専用クレカである必要はありません)。
一方で、スマートEXの利用登録には費用がかかりません(厳密に言えば「会員」ではありません)。
今後、エクスプレス予約の年会費1,100円の元を取るには、東京駅ー新大阪駅間など多くの区間で3回乗車する必要があります(指定席の場合)。従来は同駅間を1回乗ればちょうどペイできていたので、おトク感が薄れたのは確かです。
EXサービスへのログインに関する留意点
EXサービスにて予約操作を行うには、ウェブブラウザを使用するか「EXアプリ」を使用します。ログインの優先度合いは、年会費有料のエクスプレス予約が最優先で、その次にスマートEXとなります。これは今回変更された機能ではなく、従来から続いている仕組みです。

例えば、列車が運休になったり大幅に遅延したりした場合に予約の取り直し操作をする時、ネット予約画面へのトラフィックが急増してログインしにくくなります。その際、スマートEXよりもエクスプレス予約の方が、ログインのしやすさの面でベターです。同じEXサービスの中にも格差があることを、この事象を通じて筆者も経験しました。
東海道・山陽・九州新幹線の予約方法に関する変更点

今回の見直しで、東海道・山陽・九州新幹線の予約方法(指定券の買い方)が大幅に変わりました。EXサービスユーザーのみならず、すべての新幹線利用者に影響があります。以下に詳述するように、最繁忙期における「のぞみ」号の指定券は、EXサービスのユーザーでないと確保が難しくなるかもしれません。
● 最繁忙期における「のぞみ」号が全車指定席に
お盆、年末年始、GWといった最繁忙期には、「のぞみ」号にあった自由席の設定がなくなり、全車指定席になります。この時期にのぞみ号を利用する場合、指定券を取る必要があります。指定券を取らなかった場合、座席には座れません。これはEXサービス利用のいかんにかかわらず、すべてのユーザーに関係があります。
● 乗車1年前から予約可能【EXサービスユーザーのみ】
エクスプレス予約会員およびスマートEXユーザーに限って、乗車1年前から指定券の予約・購入がEXサービスのネット予約にて可能となりました。最繁忙期に指定券を取るのは、従来は乗車1か月前の発売開始が勝負時でしたが、それが前倒しになると考えられます。
EXサービスを利用しない場合、従来通り乗車1か月前の発売開始を待つ必要があります。
このような理由で、東海道・山陽・九州新幹線に限っては、乗車1か月前10時の発売開始で一斉に指定券の争奪戦になる、いわゆる「10時打ち」の概念がなくなりそうです。
● EXサービスにおける事前申込サービスの終了
乗車1年前から指定券の予約購入が可能になることから、乗車1か月7日前からエントリー可能だった事前申込サービスが終了になりました。これが終了になったのは、あくまでもEXサービスにおけるネット予約に限ります。
JR東日本のネット予約サービス「えきねっと」では、東海道・山陽・九州新幹線の事前受付は元々対象外です。一方、JR西日本のネット予約サービス「e5489」では、当該会員に限り乗車1か月7日前からの事前申込が可能です。しかし、e5489で事前申込をかけたとしても、最繁忙期の列車はEXサービスからの予約ですでに満席、ということになりそうです。
新大阪駅以西の区間のみの利用は「e5489」で
最繁忙期における指定券の確保について、EXサービスユーザーの優位性をお話ししましたが、旅客数が少なくなる新大阪駅以西の山陽新幹線各駅相互間については、指定券の争奪戦がそこまで激しくないと考えられます。
ふたを開けてみないと何とも言えませんが、新大阪駅以西の山陽新幹線の区間のみを利用する場合、事前申込が可能なe5489を利用して指定券を購入することで用が足りるかもしれません。
料金体系に関する変更点

今回刷新されるのは予約方法だけではなく、EXサービスにおける料金体系も含まれます。ここでは、その詳細をみていきましょう。
自由席は見直しなし
エクスプレス予約、スマートEXとも、普通車自由席については料金の見直しはありません。したがって、自由席しか利用しないのであれば、エクスプレス予約でも従来通りの料金の安さを享受できることになります。
しかし、最繁忙期におけるのぞみ号の全車指定席化にみられるように、将来的に自由席が縮小される可能性がないとは限りません。自由席が縮小されるから当該料金を見直さなかった、という可能性を否定できません。
最繁忙期にはのぞみ号の自由席設定がなくなることから、自由席ユーザーにとっては実質的に料金引き上げとなります。
早特商品の拡充
EXサービスにおける早特商品のラインナップが、10月から増えました。従来から利用できた「EX早特21ワイド」に加え、「EX早特28ワイド」の発売が始まりました。
予定がギリギリまで決まらず早特商品を利用しにくいビジネスユーザーよりも、早くから旅程が決まり、予約を確保できる旅行客にターゲットを置いていることが十分に推察できます。今回のサービス変更の背景を考えると、非常に理解しやすい動きです。
エクスプレス予約の普通車指定席・グリーン車の値上げ
従来通年で同額だったエクスプレス予約専用の料金が、スマートEXの料金体系と同じ形に変わりました。繁忙期や閑散期といった時期によるシーズナリティが導入され、のぞみ号とひかり・こだま号で異なる料金体系となります。
料金が引き上げられたエクスプレス予約用の料金とスマートEX用の料金は異なりますが、差が少額に留まります。指定席やグリーン車を利用する場合のエクスプレス予約の優位性が消えました。

エクスプレス予約会員専用の「e特急券」料金の引き上げ
スマートEXユーザーが利用できないおトクな商品に、エクスプレス予約会員専用の「e特急券」というものがあります。これは、乗車券がセットになったチケットレス商品ではなく、エクスプレス予約会員専用のおトクな特急券です(紙のきっぷ)。乗車する際には、別に普通乗車券等を用意します。e特急券の安さと普通乗車券の柔軟性を活かし、よりおトクに新幹線を利用できます。
エクスプレス予約専用の料金の引き上げに連動して、普通車指定席およびグリーン車について「e特急券」の値段も引き上げになりました。
ポイントサービスの開始
従来からあったJR西日本のポイントサービス「WESTERポイント」、JR九州のポイントサービス「JRキューポ」に加え、JR東海においても新しいポイントサービスが開始しました。
エクスプレス予約会員が東京駅から新大阪駅までの区間を往復利用した場合のEXポイントが、166ポイントです。往復新幹線に乗ってペットドリンク1本分のポイント数です。
これと引き換えに、エクスプレス予約会員が新幹線をリピートで乗車することでグリーン車に無料でアップグレードできる「グリーンプログラム」が終了になってしまいました。
EXサービスでMaaSが始まった
東海道・山陽・九州新幹線にこれまでなかったMaaS(Mobility as a Service)が、EXサービスに導入されます。デジタル環境で公共交通を一元的に検索・購入できるようになるのがMaaSですが、これが「EX旅先予約」としてEXサービスの中で利用できるようになりました。
観光性MaaSの「EX旅先予約」では、旅行先のレンタカーや観光タクシー(二次アクセス)および観光サービスの予約・決済をEXサービス内で行えるとのことです。このサービスはビジネスユーザー向けではなく、むしろ旅行者向けのサービスと見受けられます。
また「EX旅パック」という名称で、新幹線と宿泊・観光スポットがセットとなった旅行商品の提供が始まります。MaaSというよりは、旅行商品のダイナミックパックを販売するような感じに見受けられます。
「ぷらっとこだま」は引き続き販売
EXサービスとは離れますが、関連する旅行商品に「ぷらっとこだま」があります。
JR東海の関連会社、JR東海ツアーズが販売する「こだま」号専用の格安乗車プラン「ぷらっとこだま」を、2023年10月以降も引き続き利用できます。
これはEXサービス(きっぷ)ではなく、同社が販売する旅行商品です。したがって、エクスプレス予約会員やスマートEXユーザーであるかどうかは一切関係がなく、誰でも購入できます。
「ぷらっとこだま」は、こだま号専用ながら好評な商品なので、EXサービスの代わりに利用してみるのも一計です。
まとめ

小出しに発表された「エクスプレス予約」の制度設計の変更、新幹線「のぞみ」号の予約方法の変更についての全容が明らかになりました。
お盆・年末年始・GW時期といった最繁忙期におけるのぞみ号が全車指定席になることから、自由席がなくなります。
また、EXサービス(エクスプレス予約およびスマートEX)における指定券の発売開始時期が、乗車1年前になりました。
したがって、最繁忙期におけるのぞみ号の指定券は、EXサービス利用者が早期に確保できることになります。従来の発売開始時期の乗車1か月前のタイミングでは、指定券がすでに売り切れといった事態も考えられます。
単に、東海道・山陽・九州新幹線の列車をネット予約し、ICカードでチケットレス乗車したいのであれば、年会費がかかるエクスプレス予約ではなく、スマートEXで用が足りるといえます。
一方、乗車券を別に用意するタイプの「e特急券」を利用する場合、エクスプレス予約会員に留まる必要があります。IC乗車できる乗車券・特急券がセットの商品を利用するよりも、普通乗車券の柔軟性を活かしておトクに利用できる場面が多いと考えます。
これまでの利用者層だったビジネスユーザーにとっては、今回の料金体系の変更は単なる料金の引き上げでしかありません。それに対し、一過性の旅行者にとっては、早特商品の拡充など、新幹線を利用しやすくなるようなメリットを享受できるようになりました。
参考資料 References
● この冬、年末年始は「のぞみ」号を全席指定席として運行します(JR西日本)2023.9閲覧

● 2023年10月1日、「エクスプレス予約」「スマートEX」で新たなサービスを開始します!(JR西日本)2023.8閲覧

● 「エクスプレス予約」「スマートEX」における価格体系の見直し及び新早特商品の発売について(JR東海)2023.5.30
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000042742.pdf
● 「エクスプレス予約」における価格体系の見直し及び新早特商品の発売について(JR東海)2023.5.30
改訂履歴 Revision History
2023年9月17日:初稿
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