JR駅の有人窓口や券売機で、日頃何気なく購入するきっぷ。どのようなきっぷが買えるか、あるいは買えないかを意識することは、あまりないかと思います。
JR駅の有人窓口を「みどりの窓口」と称する会社が多いですが、中には「JR全線きっぷうりば」と称する会社があります。文字通り、JR全線どの駅から出発するきっぷでも自由に買えると考えるのが自然なことです。
ところが、JR線のきっぷを駅で購入する場合、実はどんなきっぷでも買えるわけではありません。買えないきっぷがあるというと、不思議に思われるのではないでしょうか。
一見して買えるように思われるものの、実は買えないきっぷの代表例として、他駅発の乗車券があります。この記事では、筆者の経験をもとにして他駅発の乗車券の発売(他乗代)について深掘りします。
現在では、きっぷを駅で買うばかりではなく、旅行会社やネットで買うことも多いです。駅以外できっぷを購入する場合の情報も、本記事にて触れることにしたいと思います。

JR線の乗車券を購入する際、「みどりの窓口」では時に理不尽な状況に遭遇します。自由にきっぷを購入できる旅行会社の窓口を活用するのも、一つの選択肢です。
買いたいきっぷを自由に買えるわけではない

全国のJR線には4千以上の駅があり、実に多様な経路のきっぷ(乗車券類)が発売の対象になります。そのため、JR線の主な駅の窓口にはマルス端末が設置され、複雑なきっぷを瞬時に発売できるようになっています。また、マルス端末に準じた「指定席券売機」も多くの駅に設置され、利用者自身の操作で多様なパターンのきっぷを購入できます。
JR線のきっぷを発売する窓口の名称は、多くの会社では「みどりの窓口」や単に「きっぷうりば」と呼ばれますが、JR東海管内の駅では「JR全線きっぷうりば」と呼ばれます。
その表記を見る限り、どの駅から出発するきっぷも自在に買えると考えるのが自然です。しかし、鉄道業界には世間の非常識と言える常識が数多くあり、きっぷの発売はその最たるものです。実際、駅で発売できるきっぷには制限があり、買いたくても買えないきっぷがあります。
仮にそのようなきっぷを求めたとしても、JRの一部の会社や駅によっては本来発売できるきっぷであっても発売を断ることが常態化しています。
そのようなわけで、JR全線のきっぷを買える「JR全線きっぷうりば」に異状あり?とタイトルを打った次第です。
JR駅の窓口で発売できるきっぷ・発売できないきっぷ

それでは、JR駅にある窓口で購入できるきっぷと購入できないきっぷにはどのようなものがあるか、具体的な話に進みます。
JR線のきっぷのルールとして、運送約款である「旅客営業規則」があります。その中に、発売できるきっぷや発売方が明確に規定されています。
駅係員の中には、本来発売できるきっぷでありながらそのことを知らない場合や、売りたくないきっぷをなるべく発売しないよう誘導することが多くあります。そんなわけで、「売れるきっぷを売らない」と揶揄されます。筆者の経験では、JR東日本やJR西日本管内のみどりの窓口で多く遭遇する事象です。
自駅発の乗車券と他駅発の乗車券の「売れる・売れない」
売れるきっぷと売れないきっぷについては旅客営業規則に規定されていますが、実際には係員の裁量によるところが多く、利用者目線では基準が至って不明瞭です。
● 売れるきっぷ
自駅発のきっぷを乗車当日に発売するのが、きっぷ発売の原則です。特に、乗車券の発売については厳格な傾向にあります。
しかし、新幹線や在来線特急列車、その他指定席がある列車の指定券を購入する場合、料金券の他に乗車券を一緒に買うことが多いです。この場合、自駅発に限らず、他駅発であっても大丈夫です。これはきっぷの発売方の例外で、「他乗代」と呼ばれます。
● 売れないきっぷ
こんなことから、原則的には他駅発の乗車券を自由自在には購入できません。したがって、他駅発の乗車券を注文したところで、原則的には発売を断られます。
しかし、有人窓口にはマルス端末が設置され、どのようなきっぷも簡単に発行できます。また、利用者自身で操作できる指定席券売機の台数も増えてきました。
このような背景から、近年では本来発売できない乗車券であっても便宜的に広く発売されています。ただし、これはJR会社や駅係員の裁量の余地が多く、発売してもらえたりもらえなかったりすることがあるため、時にトラブルの種になります。
本記事のスコープ外ですが、他社線が絡む連絡乗車券(連絡運輸)の発売には、制限があります。JR各社によって他社線との契約の有無があり、設定範囲が明確に定められています。また、各種企画券についても発売箇所が個別に決められており、一部の駅でしか購入できなかったり、ネットでしか購入できなかったりします。
発売方の例外
いま申し上げた、指定券とともに乗車券を購入する場合に他駅発のきっぷとして発売できるのが、代表的な例外です(旅客営業規則20条1項)。その他に、他駅発の乗車券を購入できる例外がいくつかあります(あくまでも規則上は)。
● 有効な乗車券と区間が連続する乗車券(旅客営業規則20条2項)
ある乗車券の区間と連続する乗車券は、その乗車券を係員に提示すれば他駅発であっても購入できることになっています。例えば、フリーきっぷの有効範囲外の駅まで乗車する場合に購入する、区間が連続した乗車券が該当します。
● 近傍の無人駅発の乗車券(旅客営業規則20条3項)
無人駅発の乗車券については、隣接する有人駅の窓口で購入できることになっています。この範囲に限らず、全国のJR駅発の乗車券を扱うことが多いですが、時に問題が生じる場合があり、発売が制限されることがあります。
実際には、無人駅において乗車駅証明書や整理券を取ってから車内で支払うことが増えており、その実態がルールにも反映されています(旅客営業規則第13条1項・第13条の2)。
● 団体乗車券や料金券(旅客営業規則20条4項・5項)
特急券やグリーン券、および団体乗車券については、その駅発となるものでも制限なく購入できます。
例外がいくつかあるため、本則を厳格に適用せずに柔軟に発売されてきました。しかし、JR東日本管内の指定席券売機では、一定の基準で他駅発の乗車券が購入できなくなる動きがあります。
JR東日本における当該乗車券の不売には問題があるのですが、詳しい事情については別の記事(↓)を参照してください。
きっぷの発売範囲を制限する法的根拠
鉄道を利用して移動することの法的根拠は、運送主である鉄道会社と運送契約を結ぶことです。運送契約が締結された証が、運賃・料金の決済が済んだ時点で発行されるきっぷ(乗車券類)です。
いま見た通り、駅におけるきっぷの発売については、運送約款である旅客営業規則に細かく規定されています。きっぷの発売については旅客営業規則第20条によりますが、その内容は上述した通りです。
基本的に民間企業である鉄道会社と、利用者である個人間で結ばれる運送契約は、私人間の契約です。契約自由の原則があるため、他の法的規制がない限り当該契約が優先されます。本来は両者の関係性が対等であるべきですが、実際は鉄道会社にきっぷを発売するか否かの自由な裁量があるといえます。
しかも、不特定多数の利用者と各々契約を結ぶのは困難なことから、鉄道会社が運送約款を提示し、利用者に同意を求める形です。そのため、約款に不服があるのなら利用しなくてもいいよと言える鉄道会社の立場が、現実的には強いです。
消費者である鉄道利用者の不利な立場を保護するため、鉄道事業には行政による数々の規制があります。本記事のトピックからそれますが、行政による規制の中で代表的なものには、運賃・料金上限額の認可制度や、料金の許可・届出制度があります。

それでは、自駅発や他駅発のきっぷの数々をみていきましょう!
自駅発のきっぷ

きっぷを発売する上での基本は、乗車当日のきっぷを発駅にて発売することです。前述した諸規則に則った基本的なきっぷの発売方であり、指定券のみならずその他の料金券や乗車券を発駅にて購入できます。
入場券については当日に当駅で発売する分のみであることから、入場券に記載された日時に現地を訪れたことが証明されます。
有人窓口

JR東海三島駅(静岡県三島市)にて購入した三島駅発の普通乗車券です。乗車当日に発駅である三島駅にて購入した、基本形のきっぷです。窓口では、クレジットカードにて決済できます。
指定席券売機(MV)

JR東日本大宮駅(さいたま市大宮区)にて購入した大宮駅発の普通乗車券です。これも乗車当日に発駅である大宮駅にて購入しました。指定席券売機でも、クレジットカードにて決済可能です。窓口買いのきっぷと並び、基本形のきっぷです。
近距離券売機

JR西日本金沢駅(石川県金沢市)にて購入した金沢駅発の金額式普通乗車券および入場券です。近距離きっぷの券売機においては、券売機設置駅から有効な乗車券について乗車当日分のみ発売されます。自由席特急券など、指定券ではない料金券を購入できる場合もあります。
他駅発のきっぷ(他乗代)

乗車券は原則的には乗車する発駅にて当日に発売されますが、先に説明した通りいくつかの例外があります。例外的に他駅発のきっぷを発売することがありますが、そのことを「他乗代」と呼びます(特に乗車券)。他乗代の対象は乗車券や料金券で、入場券などは対象外です。
問題となるのが、指定券や料金券を伴わずに乗車券を単独で購入する場合です。そのような乗車券が絶対に発売できないわけではなく、相応の理由や事情があれば、窓口係員の裁量で発売してもらえます。しかし、現場の裁量に委ねられた部分が大きいため、時と場所によって取り扱いに差が生じます。トラブルを体験する場合が時にあり、鉄オタにとっては頭痛の種です。
有人窓口
指定券を伴う(特急列車を利用する)場合と、乗車券単独の場合をそれぞれ挙げます。
● 指定券と乗車券を同時購入
JR東日本新宿駅(東京都新宿区)のみどりの窓口にて購入した、勝田駅(茨城県ひたちなか市)発品川駅ゆきの座席未指定券(指定券)ならびに付随して発売された普通乗車券です。指定券を購入する場合、乗車券を含め他駅発でも制限なく購入できます。もちろん、乗車1か月前から前売りされます。

これは、特急列車の座席未指定券(指定券扱い)です。

指定券に付随して購入した往復乗車券のうち、かえりの券片です。
● 乗車券を単独で購入した例
JR東海三島駅のJR全線きっぷうりばにて購入した、新宿駅発大宮駅ゆき普通乗車券です。同区間を普通列車で移動したため、指定券は伴いません。

三島駅から小田原駅までのJR線を経て新宿駅まで小田急線に乗車し、新宿駅から再びJR線に乗り継ぐため、三島駅にて購入しました。小田原駅、新宿駅接続ともに、JR線と小田急線との連絡乗車券は現在購入できないため、JR線区間だけの乗車券を各々購入した次第です。
指定席券売機(MV)

JR九州香椎駅(福岡市東区)の指定席券売機にて購入した、北与野駅(さいたま市中央区)発大宮駅ゆき普通乗車券です。JR西日本を除くJR各社の駅では、現状他駅発の乗車券であっても購入できます。ただし、JR東日本管内の指定席券売機では、一定金額以下の他駅発乗車券の発売が制限されています(乗車券単独で購入する場合)。
ネット予約サービスで発売された乗車券
現在は駅できっぷを購入するのみならず、ネット予約サービスを利用してきっぷを購入できます。指定券や料金券を伴う場合は、取扱エリア内かつ定められた範囲で普通乗車券を購入できます。また、JR東日本のネット予約サービス「えきねっと」およびJR西日本のネット予約サービス「e5489」では、現状普通乗車券単独でも購入可能です。
えきねっと

えきねっとにて購入した、近距離の普通乗車券(日暮里駅発大宮駅ゆき)です。ネットできっぷを購入する場合、駅とは違い自駅発や他駅発の区別がありません。したがって、他乗代という概念もないことになります。
このきっぷは、ネット限定の企画券「えきねっとトクだ値」の設定区間に接続し、当該きっぷと同時に購入した普通乗車券です。
e5489

e5489にて購入した高崎問屋町駅(群馬県高崎市)発東京山手線内ゆき普通乗車券です。以前は乗車券単独の取り扱いがありませんでしたが、2023年2月のリニューアルを経て、単独でも購入可能になりました。
この普通乗車券も、特急券なしで購入しました(新幹線特急券は別途購入済み)。
ビジネスえきねっと
変わり種が、企業で利用される「ビジネスえきねっと」というシステムです。企業内で利用されるだけではなく、第三セクターの鉄道会社がこのシステムを利用し利用者のJR券を発売することがあります。

この場合も任意の区間の乗車券を単独で購入できます。今泉駅(山形県長井市)発犬川駅(山形県川西町)ゆき普通乗車券を、山形鉄道長井駅(山形県長井市)の旅行センターにて購入しました。
旅行会社等で発売された乗車券

JR線の乗車券はJRの駅やJRのネット予約サービスで発売されるだけではなく、JRきっぷを取り扱う旅行会社でも購入できます。多くの旅行会社がJR券を取り扱いますが、京王観光では以前不正があり、委託契約を解除(発売資格を剥奪)されました。
JTBなどの一般旅行会社だけではなく、第三セクターの地方鉄道会社の一部の駅でも全国のJR券を取り扱っています。
一般の旅行会社

JTBの某店カウンターにて購入した普通乗車券です。旅行会社は駅ではないため、これも他乗代の概念はありません。全国のJR駅発の乗車券を、任意の区間で購入できます。
第三セクターの鉄道会社

高知県の第三セクター鉄道会社の、土佐くろしお鉄道中村駅にて購入した普通乗車券です。基本的には、中村駅からJR線連絡となるきっぷをマルス端末で発行しています。ただし、土佐くろしお鉄道は旅行会社扱いのため、全国のJR駅発の乗車券を購入できます。
土佐くろしお鉄道のきっぷについては当駅発のきっぷしか発売しない一方、JR券については全国のきっぷを取り扱うレアなケースです。
土佐くろしお鉄道以外にも、いくつかの鉄道会社にて同じ形態でJR線のきっぷを購入できます(鉄道会社名は、時刻表等で確認してください)。
まとめ

あらゆるきっぷの発売を取り扱う「みどりの窓口」や「JR全線きっぷうりば」ですが、実は買えないきっぷがあります。
きっぷのルールである旅客営業規則上、きっぷを制限なく発売できるのは、駅が所在する自駅発の当日分のきっぷのみです。ただし、それには例外があり、他駅発のきっぷを扱うこともあります。他駅発のきっぷを発売することは「他乗代」と呼ばれます。
他乗代において扱うきっぷの代表格は、指定券が絡んだ普通乗車券です。その他には、団体乗車券や料金券、所持する乗車券と区間が連続する別の普通乗車券などが他乗代の対象です。
他乗代による他駅発のきっぷの発売・不売は駅係員の裁量によるところが多く、係員によって判断が異なることが往々にしてあります。そのため、時にトラブルを経験することもあります。
一方、昨今メジャーになったネット予約サービス「えきねっと」や「e5489」には、自駅発や他駅発といった概念がありません。したがって、ネット予約サービスにて乗車券を購入する場合、任意の駅発の乗車券を制限なく購入できます。
従来から日本全国のJR駅発のきっぷを取り扱う旅行会社のカウンターやネット予約サービスを活用することで、制限を受けずに購入できます。きっぷを駅で買うばかりではなく、一つの選択肢として活用を図りたいです。
参考資料 References
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第13条(乗車券類の購入及び所持)
列車に乗車する旅客は、その乗車する旅客車に有効な乗車券を購入し、これを所持しなければならない。ただし、当社において、特に指定する列車の場合で、乗車後乗務員の請求に応じて所定の旅客運賃及び料金を支払うときは、この限りでない。(以下省略)
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第13条の2(整理券等の所持)
前条第1項ただし書の規定による取扱いをする場合は、車内において整理券等を発行することがある。
2 旅客は、乗車する際交付された整理券等を所持し、運賃及び料金を支払う際には、その整理券等を係員に引き渡さなければならない。
● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 第20条(乗車券類の発売範囲)
駅において発売する乗車券類は、その駅から有効なものに限つて発売する。ただし、次の各号に掲げる場合は、他駅から有効な乗車券類を発売することがある。
(1) 指定券と同時に使用する普通乗車券を発売する場合。
(2) 乗車券(通学定期乗車券を除く。)を所持する旅客に対して、その券面の未使用区間の駅(着駅以外の駅については、途中下車のできる駅に限る。)を発駅とする普通乗車券を発売する場合。
(3) 駅員無配置駅から有効となる普通乗車券・定期乗車券又は普通回数乗車券を、その駅員無配置駅に隣接する駅員配置駅において発売する場合。
(4) 団体乗車券又は貸切乗車券を発売する場合。
(5) 急行券、特別車両券、寝台券、コンパートメント券及び座席指定券を発売する場合。ただし、立席特急券及び特定特急券にあつては、別に定める駅からのものに限つて発売することがある。
2 車内において発売する乗車券類は、旅客の当該乗車に有効な普通乗車券及び旅客の乗車した列車に有効なものに限つて発売する。ただし、前途の列車に有効な乗車券類を発売することがある。
改訂履歴 Revision History
2023年9月22日:初稿
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