乗継割引の廃止がもたらす鉄道の将来像~乗継割引の利用体験を振り返る~

特急サンダーバード 運賃制度

新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐ場合、長年にわたり適用されていた料金低減策の「乗継割引」。多くの人にとって経済的に移動するための助けとなった制度でしたが、2024年3月をもって終息します。

乗継割引の制度は、元々新幹線と在来線特急列車の2個の列車を利用する場合の経済的負担を減少するためのものですが、大きく2つのパターンがあります。

一つは、新幹線と単に接続するだけ関係で、その例に特急「しなの」号があります。もう一つは、新幹線が建設途上で未開通の区間を走る在来線特急列車を乗り継ぐ関係で、その例に特急「北斗」号があります。前者の意義は形骸化していますが、後者の必要性はなお高いです。

北海道新幹線や北陸新幹線、西九州新幹線には未通の区間があるにもかかわらず、従来の乗継割引が適用されなくなります。乗継割引制度の廃止は実質的な料金引き上げにつながり、多くの利用者に影響をもたらします。

この記事では、JR運賃・料金制度の根幹を成し、おなじみだった「乗継割引」について、一通り振り返ります。筆者が乗継割引をこれまで利用した事例も、実際に使用したきっぷを出した上でご紹介します。

条件さえ満たせば、知識がなくても利用できた「乗継割引」制度。経済的に移動することは皆の権利にもかかわらず、デジタルリテラシーの有無で格差が生じることを危惧します。

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ネット予約サービスでも購入できる乗継割引

新幹線特急券と在来線特急列車の特急券および乗車券を同時購入することで、乗継割引が自動的に適用されます。この制度では、在来線特急列車の特急券に関して料金が半額になります。

きっぷの買い方に条件があるため、駅のみどりの窓口で購入することが基本です。しかし、窓口が縮小するなかで、この割引が適用されたきっぷを購入しづらくなりました。

実は、ネット予約サービス「えきねっと」を利用すると、同日乗り継ぎに限りますが乗継割引を適用できます(翌日乗り継ぎの場合は窓口購入限り)。

えきねっとウェブサイトより引用

一例として、北陸本線武生駅(福井県武生市)から金沢駅(石川県金沢市)を経て、北陸新幹線新高岡駅(富山県高岡市)までの経路を、えきねっとで検索してみました。新幹線のきっぷとして紙のきっぷを選択することで、在来線特急列車の乗継割引が選択できます。

この場合、新幹線の区間では「新幹線eチケット」を利用できず、在来線の区間も「チケットレス特急券」や「eチケットレス特急券」を利用できません。紙のきっぷを使用する乗継割引の制度は、確かに時代の遺物かもしれません。

とはいえ、2024年3月ダイヤ改正まで利用可能です。一度試用されてはいかがでしょうか。

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乗継割引制度についておさらい

東海道新幹線N700系三島駅にて

新幹線と在来線特急列車とを乗り継ぐ場合に適用されていた「乗継割引」の取り扱いを終了する旨、2023年9月下旬になってJR各社から発表されました。

JR西日本の一部エリアおよびJR四国管内における乗継割引制度は、2023年度当初から先行して終了しました。そして、2023年度末をもって、残りのJR会社の全エリアにおいてもこの制度が全廃されます。なお、JR九州管内については、乗継割引制度をいち早く取りやめていました。

この制度は1964年10月の東海道新幹線開通時に設定された古い制度で、終了までちょうど60年間続いたことになります。新幹線の乗り継ぎの他、かつては青函航路や宇高航路の乗り継ぎが絡む場合にも乗継割引が適用されました。

最後まで残ったのが、新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐ際に、在来線特急料金が割引対象になるパターンです。最初に新幹線に乗車する場合、当日中に在来線特急列車に乗車する場合に限り、在来線特急列車の料金が半額となります。一方、最初に在来線特急列車に乗車する場合、当日もしくは翌日中に新幹線に乗り継ぐ場合に、在来線特急列車の料金が半額となります。

制度開始当初は多くの路線や航路に設定されていましたが、近年は縮小傾向にありました。とはいえ、部分開業した新幹線の補完としての乗継割引の設定の他、新幹線と乗り継ぐ列車にも広範に設定されていました。全ての列車に同条件で乗継割引を適用することが真に必要だったか、議論の余地があるでしょう。

乗継割引の適用条件に最低利用金額や最低利用距離の制限がなかったことから、時に料金節約のワザとして利用されたきらいがありました。本記事でも紹介しますが、隣接駅間の新幹線特定特急券よりも、それに付随する(在来線の)特急券の割引金額の方が高いこともありました。

かなり大雑把だった乗継割引の制度設計が見直されることがなく、今般一気に制度終了となった形です。利用者本位の良い制度がなくなることは、大変残念なことです。

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乗継割引2つのパターン

北海道新幹線E5系新函館北斗駅にて

新幹線と在来線特急列車に乗り継ぐ場合、新幹線の開通度によって2つのパターンに分類することができます。

新幹線に未通区間がある路線の乗継割引

かつては新幹線網が発展途上で、部分開業の状態で在来線特急列車に乗り継いで本来の終点まで向かうことが多かったです。現在では新幹線網がかなり完成してきていますが、それでも未通の区間がある新幹線が残っています。

● 北海道新幹線

新青森駅(青森県青森市)から札幌駅(札幌市北区)までの区間を結ぶ新幹線です。

北海道新幹線

最終的に札幌駅までが開通する見込みですが、現在新函館北斗駅(北海道北斗市)から札幌駅までの区間が未開通です。その区間には、在来線特急列車の「北斗」号が走っています。

函館本線および室蘭本線を走る特急「北斗」号に適用されていた乗継割引は、新幹線の全線開業を待たずに制度自体が終了となります。本来的には料金軽減が必要な区間で、何らかの施策が求められます。

● 北陸新幹線

高崎駅(群馬県高崎市)から長野駅(長野県長野市)および金沢駅を経て、将来新大阪駅(大阪市淀川区)までの区間を結ぶ新幹線です。

北陸新幹線

新大阪駅まで延伸される計画ですが、いまだに着工されていません。2024年3月に開通する敦賀駅(福井県敦賀市)が当面の間の終着駅となり、敦賀駅から新大阪駅までの区間は依然として在来線特急列車「サンダーバード」号に頼る形です。

北陸本線および湖西線を走る特急「サンダーバード」号および「しらさぎ」号にも、当該列車の料金が半額となる乗継割引が従来設定されていました。

北陸新幹線

2024年以降は下図の通り新たな割引制度が適用されますが、割引額が著しく低く抑えられます

JR西日本ニュースリリースより引用

● 西九州新幹線【非乗継割引】

博多駅(福岡市博多区)から新鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)および武雄温泉駅(佐賀県武雄市)を経て、長崎駅(長崎県長崎市)までの区間を結ぶ新幹線です。

西九州新幹線

北海道新幹線や北陸新幹線とは異なり、途中の区間が未通のパターンです。途中区間の新鳥栖駅から武雄温泉駅までの区間について着工のめどがつかず、在来線特急列車に乗り継ぐ状態が今後長く続く見込みです。

九州地区には元々乗継割引の制度が適用された列車は走っていませんでした。西九州新幹線と特急「かもめリレー」号と乗り継ぐ場合に限り、乗継割引制度とは別の割引制度が適用されています。

新幹線から枝分かれする列車の乗継割引

乗継割引制度の対象が広いのは、新幹線の未通区間を補う特急列車だけではなく、単に新幹線から乗り継ぐ在来線特急列車が多いからです。

このパターンの在来線特急列車で主なものには、次の列車があります。

列車名運行区間
特急「いなほ」号新潟駅ー酒田駅・秋田駅
特急「しなの」号名古屋駅ー長野駅
特急「ひだ」号名古屋駅・大阪駅ー高山駅・富山駅
特急「南紀」号名古屋駅ー紀伊勝浦駅
特急「きのさき」号京都駅ー城崎温泉駅
特急「はしだて」号京都駅ー天橋立駅
特急「スーパーはくと」号京都駅ー鳥取駅・倉吉駅
特急「やくも」号岡山駅ー出雲市駅
特急「しおかぜ」号岡山駅ー松山駅
特急「南風」号岡山駅ー高知駅

これらの列車は新幹線の未通区間を補う列車ではありませんが、日本列島の旅客鉄道網の骨格を成す重要な列車です。ただし、新幹線網が発展途上だった時期に、未通区間を補うための本来の乗継割引制度とはかけ離れていることは否定できません。

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乗継割引制度廃止の背景を探る

北陸新幹線E7系金沢駅にて

乗継割引の取り扱いを終了する旨のJR各社からのアナウンスの中で、その終了の理由を「利用者が減少したため」と説明しています。しかし、決してそのようなことはないと考えます。

確かに「紙のきっぷ」の利用者は減少しているかもしれませんが、特急列車を利用する利用者全体が減少しているとは考えにくいです。

JR各社は、以前からこの制度の廃止をうかがっていたと思われます。ここにきて一斉に制度終了に動いた引き金がCOVID-19であることには違いありません。筆者が推測する理由は、以下の3点です。

● 駅窓口でのきっぷ発売を減らしたい

みどりの窓口が縮小される中、紙のきっぷである乗継割引のきっぷを購入するのが難しくなっています。ネット予約サービスへ移行する中で、そのままの制度では相性の悪い乗継割引制度が廃止された一面があります。

しかし、ネット予約であるからこそ、本来は多様な運賃計算結果を提示できるはずです。制度設計を見直すことなく、システムの改修を行うわけでもなく、安易に割引制度を終了するばかりであることが批判されてもやむを得ません。

● 乗継割引制度の濫用?

乗継割引制度の大雑把な点を突いて、想定外の利用をされていた点もあるかもしれませんが、それが廃止の理由の大きな部分を占めることはあまり考えられません。

乗継割引制度には様々なワザが存在し、使い方によっては節約につながります。しかし、乗継割引制度の趣旨とは反し、知る人だけが恩恵を受けられることになります。制度を巧みに活用することには賛否がありますが、制度に従う限りにおいては利用法に適切や不適切はありません。

● 割引廃止で収入の取りこぼしをなくす

筆者が考えるのは、JR各社が増収を図る一環として、その足を引っ張る乗継割引制度に手を付けたというストーリーです。

先に申し上げたCOVID-19が、2020年度から2021年度にわたってJR各社の決算を赤字にしました。将来的にも利用者数の増加が見込めない上に、運営のためのコストが増大しています。したがって、外見以上にJR各社の経営状況が苦しいことがうかがえます。

国の認可が必要でハードルが高い運賃・料金の上限引き上げを回避し、まずは料金の割引を見直して収入の取りこぼしをなくしたいと考えると、今回の動きを理解できると思います。

しかし、運賃・料金制度の全体像を見直すことなく、目の前にある割引制度だけ手を付けていびつにすることは、決して望ましいことではありません。昨今の経済状況では運賃・料金の底上げが必要であって、そのための社会的コンセンサスは十分に形成されうると思います。

鉄道運賃・料金に限りませんが、あらゆる割引制度の縮小には手を付けやすい一方、改悪として利用者に目立つために反発を招きやすいです。地域独占が約束されているインフラ企業が安易に料金体系をいじって利用者への負担を増すと、殿様商売と揶揄される結果となります。

それでは、きっぷから乗継割引制度を振り返りましょう!

乗継割引制度を利用した3件の実例

乗継割引制度が非常におなじみだった割には、筆者がこの割引を利用した機会は意外にも少なかったです。ここ10年間で利用したのは、以下の3例のみです。

乗継割引制度を適用するには、乗車券と特急券の全てのきっぷを同時に購入する必要があります(少なくとも建前上は)。そのことから、ネット予約サービスを併用すると乗継割引適用を受けにくくなる特性があり、乗継割引制度の利用実績減少につながったと思われます。筆者も、その一人ということです。

特急「サンダーバード」号と北陸新幹線の乗継割引

特急サンダーバード武生駅にて

北陸本線の敦賀駅以北の区間で特急「サンダーバード」号に乗車した際に購入したきっぷです。乗車券は別に持っていたので、特急券のみ購入しました。

在来線特急列車のサンダーバード号に乗車する日の翌日に北陸新幹線に乗車しても乗継割引が適用されますが、この時は同日乗り継ぎとして購入しました。乗継割引のことを知らなくても自動的に割引が適用されるのが、非常に利用者本位です。

乗継割引適用の特急券

北陸新幹線の特定特急券が880円、特急サンダーバード号の特急料金が所定の1,720円の半額で、860円です(当時はB特急料金適用)。マルス端末がない駅で購入しましたが、指定券の取り次ぎ購入ができました。

北海道新幹線と特急「北斗」号の乗継割引

特急北斗号新函館北斗駅にて

北海道新幹線の新函館北斗駅から在来線特急列車「北斗」号に乗車して、札幌駅方面に向かう場合、および函館駅方面に向かう場合のいずれでも、乗継割引が適用されました。

新函館駅から函館駅ゆき自由席特急券

新函館北斗駅から函館駅(北海道函館市)ゆき自由席特急券です。乗継割引が適用され、券面には「乗継」が表示されています。新幹線から短区間の乗り継ぎですが、これが本来の乗継割引のある姿でしょう。

東京駅から新函館北斗駅ゆき新幹線特急券

新幹線区間の特急券については、所定料金です。普通車でもグリーン車でもグランクラスでも、客室のクラスに関係なく乗継割引の対象です。

東北新幹線と急行「はまなす」号の乗継割引

急行はまなす号青森駅にて

北海道新幹線が開業する前、在来線が青函トンネルを走っていた時に乗継割引を利用しました。現在では信じられませんが、青森駅から札幌駅までの区間に急行寝台列車「はまなす」号が走っていました。

青森駅から札幌駅ゆきB寝台券

急行券とB寝台券のコンビネーションはもはや見られませんが、こんなきっぷがあったということで。急行券部分のみに乗継割引が適用されて650円、寝台料金は所定の6,480円で、合計7,130円です。きっぷの券面にはやはり「乗継」が表示されています。

東京駅から新青森駅ゆき新幹線特急券

新幹線区間のきっぷです。はまなす号のきっぷと同時に発券されたため、こちらにも「乗継」が印字されています。

おわりに~乗継割引制度見直しの先にある将来~

特急サンダーバード

東海道新幹線が開通した1964年10月からちょうど60年経った2024年3月をもって、長く続いた乗継割引制度が完全に廃止されます。これは旧国鉄時代に制定された制度で、当時は利用者本位で優れた制度設計がされていたことが分かります。

乗継割引制度のいい点は、条件が整えば自動的に割引が適用される点です。運賃・料金制度の知識がなくても窓口できっぷを買えば恩恵を受けられます。一方で、乗継割引制度の制度設計がかなり大雑把なことから、新幹線特定特急券との組み合わせで特急料金の大幅な節約が可能でした。

この制度の廃止の引き金を引いたのが、COVID-19であることには違いありません。JR各社の経営が外見以上に厳しいことが、各種運賃・料金制度を容赦なく見直すことにつながったと思われます。

しかし、経営が苦しい中で増収を図るのが真の理由であるにもかかわらず、表面的な「利用者が減少したため」という理由付けでお茶を濁しています。利用者への説明が十分になされているとはいえず、強引さが感じられます。そんなことで、他の施策の見直しとともに、利用者の大炎上を招いています。

ネット予約への移行が声高に言われますが、公平公正であることが求められる鉄道運賃・料金制度の見直しは他のサービスと異なり、慎重に行われるべきです。民間企業としてのJR各社にとっては利用者を犠牲にしてでも利潤を追求しなければならず、公共インフラを運営する上で限界感があります。

公共交通機関を利用して経済的に移動できることは誰しもが持つ権利で、社会の持続的な発展に欠かせません。しかし、誰でも利用できる制度が次から次に廃止されることは、その権利をないがしろにします。

ネット予約のデメリットは、料金の選択が自己責任で、知っている人だけが安く利用できることです。交通弱者や情報弱者にとって経済的に利用できることが求められるのが、公共交通機関の使命です。本記事に挙げた料金制度の強引な見直しがもたらすデジタルデバイドが、さらなる格差を生み出すのではないでしょうか。

参考資料 References

● 新幹線と在来線特急列車との「乗継割引」の終了について(JR西日本)2023.9閲覧

新幹線と在来線特急列車との「乗継割引」の終了について:JR西日本
JR西日本ホームページ

● 旅客鉄道株式会社 旅客営業規則第57条の2(乗継急行券の発売)

改訂履歴 Revision History

2023年9月25日:初稿

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