米原駅(滋賀県米原市)から金沢駅(石川県金沢市)を経て、直江津駅(新潟県上越市)までは、JR西日本が北陸本線として運営する区間と、第三セクターの会社が各社の路線として運営する区間で成り立っています。かつては北陸本線として、全線で353.8kmと長大な路線をJR西日本が一体的に運営していました(本記事では「旧北陸本線」と呼びます)。
北陸新幹線の延伸によって、JR西日本運営の区間がこれまで大幅に短縮されました。来たる2024年3月の北陸新幹線敦賀駅延伸で、JR北陸本線の区間は米原駅から敦賀駅(福井県敦賀市)までのわずか45.9kmに短縮されます。
そのような中、旧北陸本線のほぼ全区間が乗り放題のパスがあることをご存じでしょうか。「北陸おでかけtabiwaパス」というデジタルフリーきっぷがJR西日本から発売されていて、上記の区間のうち、敦賀駅以北の区間が1日乗り放題です。
このフリーきっぷを活用すると、JR西日本北陸本線、IRいしかわ鉄道線、あいの風とやま鉄道線およびえちごトキめき鉄道線で構成される旧北陸本線のフリー乗車区間を安価に乗りつぶせます。
この記事では、デジタルフリーきっぷの「北陸おでかけtabiwaパス」を購入し、実際に使用する方法を、筆者の体験からご説明します。そして、米原駅から直江津駅までの旧北陸本線全区間を乗りつぶした体験を振り返ります。

「北陸おでかけtabiwaパス」のデジタル化によって、従来の紙のきっぷと違い、いつでもどこでも誰でも購入できる利点が際立っています。発売期間限定のきっぷですが、存分に活用したいです。
307.9kmの区間がわずか2,450円で乗り放題の「北陸おでかけtabiwaパス」

JR西日本が運営するMaaSアプリ「tabiwa by WESTER」にて、旧北陸本線のほぼ全区間を中心に、北陸エリアの在来線が1日乗り放題の「北陸おでかけtabiwaパス」が発売されています。
従来は紙のきっぷの「北陸おでかけパス」が発売されていて、北陸エリアの在来線が土休日の1日乗り放題でした。その商品性をそのまま引き継ぐ形で、2023年度以降はデジタルきっぷの「北陸おでかけtabiwaパス」が発売されています。

「北陸おでかけtabiwaパス」のフリー乗車区間は、上図の通りです。北陸本線の敦賀駅から金沢駅までの区間、IRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道全線およびえちごトキめき鉄道の市振駅(新潟県糸魚川市)から直江津駅までの区間が有効です。このきっぷ一枚で、米原駅から敦賀駅までの区間を除く旧北陸本線の全区間307.9kmが乗り放題という、すばらしいものです(もちろん、エリア内のJR西日本他線も乗り放題!)。
「北陸おでかけtabiwaパス」の値段は、大人2,450円/子供980円と破格です。例えば、金沢駅を起点に富山駅や福井駅を在来線の列車で往復するのに使用したり、敦賀駅から直江津駅まで片道をひたすら進むのに使用できたりします。
このきっぷ、(あくまでも筆者の憶測ですが)北陸新幹線が敦賀駅まで延伸する2024年春をもって発売終了になる予感がします。読者の皆さまも、このきっぷを使って北陸エリアの乗り鉄を今のうちに楽しみたいと思いませんか?
「北陸おでかけtabiwaパス」の発売期間・使用期間
現時点では、2024年3月7日まで発売/同年3月10日まで使用可能とアナウンスされています。2024年度の発売に関しては、2024年2月頃に何らかの告知が行われるはずです。
紙のきっぷ「北陸おでかけパス」からデジタルきっぷ「北陸おでかけtabiwaパス」へ
北陸エリアの在来線が乗り放題のフリーきっぷとして、2023年3月までの長い間にわたり、紙のきっぷ「北陸おでかけパス」が発売されていました。
「北陸おでかけパス」は、使用開始日の3日前までにネット予約サービス「e5489」もしくは現地の駅で購入し、紙のきっぷを受け取る形でした。このように、発売方法に制約があったためきっぷを買える人には限りがあり、特に首都圏在住のユーザーにとっては敷居の高いきっぷでした。
そんなきっぷが、2023年4月以降、形を変えました。「北陸おでかけパス」の商品性や効力が変わることなく、きっぷの発売方法やきっぷの媒体が一新しました。具体的には、JR西日本が展開する「tabiwa by WESTER」というスマホアプリ上で、デジタルきっぷの「北陸おでかけtabiwaパス」を購入する形です。スマホの画面にこのデジタルきっぷを表示し、使用します。
この発売形態のとても良い点は、スマホさえあれば「いつでもどこでも誰でも」買えることです。従来の紙のきっぷの制約により買えなかった多くのユーザーにとって、気軽に手が届くものとなりました。
デジタルきっぷ「北陸おでかけtabiwaパス」の買い方

「北陸おでかけtabiwaパス」は、スマホの画面上にきっぷを表示して使うデジタルきっぷです。そのため、従来の紙のきっぷとは買い方や使い方が大幅に異なります。
きっぷの購入・使用の際必要なもの
「北陸おでかけtabiwaパス」は、スマホの画面を見せて使用するデジタルきっぷのため、きっぷを表示できるスマホが必要です。また、きっぷ代金の決済には現金を使用できないため、任意のクレジットカードが必要です。きっぷを表示できないと使用できないため、スマホの電池切れには注意してください。
有効期間・発売期間~いつ使え、いつ買えるか~
土曜・休日のいずれか1日間有効です。乗車日の1か月前から3日前までの間に、きっぷをオンラインで購入します。
有効区間~どこで使えるか~
フリー区間内の乗車券として、上述した路線が乗り放題です。在来線特急列車や指定券が必要な観光列車・ライナー列車に乗車する場合、乗車券としてこのフリーきっぷを利用できます。このパスとは別に、特急券や指定席券、ライナー券を購入します。
なお、北陸新幹線には乗車できません(たとえ特急券を買ったとしても)。
ねだん
大人2,450円/子供980円
子供の料金が大人の半額以下と、安価に設定されています。
購入方法~どこでどのようにして買えるか~
「北陸おでかけtabiwaパス」は、JR西日本が展開するMaaSアプリ「tabiwa by WESTER」上で発売されています。駅のみどりの窓口やみどりの券売機では購入できません。
「tabiwa by WESTER」はスマホアプリの他、Webブラウザ上でも使用できますが、使い勝手の観点で、できるだけアプリをダウンロードしたいです。代金の決済はクレジットカードでオンライン決済します。これから、パス購入の流れを説明します。
● アプリ上で「北陸おでかけtabiwaパス」を検索
「tabiwa by WESTER」アプリを開いたら、まず北陸エリアを選択します。トップ画面に「おすすめtabiwa」周遊パス・チケットが表示されていますが、その中に「北陸おでかけtabiwaパス」が表示されているはずです。

● パスの購入手続
パスの詳細が表示されます。内容を確認したら、人数と使用開始日、連絡先の電話番号を入力し、クレジットカードで代金を決済します。後述しますが、できれば一人ずつ別々に買った方が使い勝手が良いです。
● パスが表示されるか確認
オンライン決済が完了すると、購入完了画面が表示されます。その後、パスは[チケット管理]タブから表示できるので、あらかじめ確認しておきましょう。

変更・払いもどし
使用日の変更は、使用開始前(3日前まで)に行います。払いもどしは、パスの有効期間内の使用開始前の状態に限って行えます。その際、1人当たり220円の払戻手数料がかかります。1グループ1枚でまとめて買っても、1人づつ別々に買っても、手数料の総額は変わらないことになります。
購入・使用上の注意点
デジタルきっぷ全般に言えることですが、紙のきっぷと違って1グループで1枚のきっぷ(画面)になります。そのため、2人以上できっぷを買った場合は代表者のスマホにしかきっぷが表示されません。同時行動が要求され、個別行動ができなくなります。そのため、スマホ1台ごとに1枚のきっぷを買うようにすると便利です。
また、スマホの電池切れには注意しましょう。画面を表示できないと乗車券として使用できません(まれにtabiwaのサーバーがダウンすることがありますが、その場合は駅員さんに相談してください)。
デジタルきっぷ「北陸おでかけtabiwaパス」の使い方

乗車当日になったら、パスの画面をスマホ上で表示します。上述した[チケット管理]の中に「北陸おでかけtabiwaパス」が表示されているので、選択します。
使用開始時に改札口から入場するまでに、パスを使用開始します。
使用開始の操作が完了すると、以下の提示用画面が表示されます。スマホの画面では自動改札機を通れないので、有人窓口を通って駅員さんにその都度画面を見せます。

きっぷの券面を紙に印刷して使用したり、画面のスクリーンショットを代わりに使用したりはできないので、注意してください(非常時に備え、スクリーンショットの保存がおススメ)。
「北陸おでかけtabiwaパス」と他の乗車券との併用
デジタルきっぷの場合、購入から使用まで手元で行えるため、他の乗車券との併用がしやすいです。例えば、特急サンダーバード号に乗車する際、大阪駅から敦賀駅ゆき普通乗車券(紙のきっぷ)および全区間の特急券をあらかじめ購入しておくと、敦賀駅から先の区間が有効なこのパスと併用して、通しで乗車することが可能です。
紙のきっぷの時代のように、きっぷを受け取るために途中の駅で一度下車しなければならないということがなく、とても便利です。きっぷが常に手元にあるデジタルきっぷの特性が活きる形です。
交通系ICカードとの併用はあいにく相性が悪いため、併用するきっぷには紙のきっぷをおススメします。きっぷを併用する際は、連続する区間のきっぷを買うよう、くれぐれも注意してください。

それでは、筆者の旧北陸本線全線乗りつぶし体験を紹介します!
「北陸おでかけtabiwaパス」で旧北陸本線乗りつぶし!
北陸新幹線敦賀駅延伸まであと5か月余りになった2023年10月中旬、北陸本線米原駅から金沢駅を経て、えちごトキめき鉄道直江津駅までの区間を乗りつぶしました。
今回の乗りつぶしのためのきっぷとして、あらかじめ仕込んでおいた「北陸おでかけtabiwaパス」を使用しました。
米原駅→敦賀駅【JR線区間】

米原駅には、東海道新幹線で入りました。特急しらさぎ号で敦賀駅まで向かうために乗継割引にて特急券を仕込んでいたものの、列車の発車時刻を勘違いしていて乗り遅れ。それで、急遽特急券を買いなおしました。

JR西日本のネット予約「e5489」できっぷを買った際、普通車指定席のチケットレス特急料金に加え、WESTERポイント500ポイントを消費するとグリーン車へアップグレード、というものを発見。支払額650円で、グリーン車に乗車できました。

北陸本線の在来線特急列車が発車する5番線ホームにある発車標。金沢駅ゆきと表示されるのも、そう長い話ではありません。

この日乗車した特急「しらさぎ」11号は名古屋駅始発で、米原駅には発車定刻の8分前に到着。米原駅から列車の進行方向が変わります。

「しらさぎ」金沢駅ゆきの表示も、来年春に見納めになります。

米原駅から30分で、敦賀駅に到着。敦賀駅はお祭りモードで、北陸新幹線の開業日までのカウントダウンが始まっていました。駅チカのホテルに投宿し、明日への力を蓄えました。
敦賀駅→金沢駅【JR線区間】

そして、敦賀駅からはいよいよ「北陸おでかけtabiwaパス」を使用開始。朝イチでスマホを操作し、このきっぷを有効に。

敦賀駅から金沢駅までは、ずっと普通列車に乗車。朝7時前には、敦賀駅のホームに立っていました。

この日は冬型の気圧配置で北陸地方は一日中雨天でしたが、敦賀駅で偶然虹を見られました。

列車の行先は、福井駅ゆき。座席は、JR西日本の車両の標準仕様の転換クロスシート。長旅を苦に感じることもありません。

金沢駅に移動する途中で、武生駅、鯖江駅、松任駅のみどりの窓口に立ち寄りました。鯖江駅のホームには、特急サンダーバード号がちょうど入線していました。いずれの駅も、第三セクター移管でJRの駅ではなくなるので、記念に入場券を求めました。
金沢駅に到着した際には、車内がかなり混雑していました。
金沢駅→直江津駅【第三セクター区間】
金沢駅から東側の区間(下り)ではすでに北陸新幹線が走っていて、並行在来線は第三セクターに移管されています。その区間でも「北陸おでかけtabiwaパス」が使用できます。

金沢駅から先、日中時間帯は列車の編成が2両で、金沢駅を発車する時点では混雑しがちな印象があります。

金沢駅から乗った列車の行先は泊駅ゆきでしたが、途中の高岡駅でいったん下車。高岡駅で小休止した後、後続の泊駅ゆきに乗車。
富山駅では20分余り停車し、終点の泊駅へ。富山駅を発車した時点では全ての座席が埋まっていましたが、魚津駅や黒部駅で大半の乗客が降りてしまい、泊駅まではローカル線の色が濃くなりました。天気が良ければ、日本海や立山連峰の眺めが素晴らしい区間です。

泊駅では、えちごトキめき鉄道直江津行きの普通列車に2分で乗り継ぎ。

泊駅では、あいの風とやま鉄道の車両がえちごトキめき鉄道の車両の10m手前まで接近します。したがって、乗り継ぎ時間が2分でも楽勝です。この時乗り継いだ乗客の数は、筆者を含めて10名。旧北陸本線の区間の中で、最も閑散な区間です。
糸魚川駅までの区間では、親不知海岸を通ります。本当は日本海の眺めが素晴らしいのですが、雨にたたられ残念な結果でした。糸魚川駅でも、約20分間停車。

終点の直江津駅には、16時32分に到着。直江津駅をもって、旧北陸本線の全区間を乗りつぶしました。敦賀駅を出発してから、約9時間30分の普通列車の旅でした。
おまけ:直江津駅→越後湯沢駅【北越急行線】
直江津駅から東京まで戻るには、本当は北陸新幹線を利用すれば十分です。ただし、今回は旧北陸本線の余韻に浸りたく、北越急行ほくほく線を走る普通列車に乗車し、越後湯沢駅を目指しました。

ほくほく線には、北陸新幹線が開業するまで在来線特急列車「はくたか」号が走っていました。この列車の運行が終了してからまもなく9年が経過しますが、現在では快速列車の設定さえなくなり、すっかりローカル線となってしまいました。
現在は全ての列車がほくほく線内の各駅に停車しますが、線形がよいためスピードが出て快適です。ほくほく線は電化されているため、単行の電車が走る珍しい区間です。
終点の越後湯沢駅に到着したのは、18時40分でした。米原駅からの乗り鉄、旅程にストーリー性を持たせることができました。
まとめ

北陸3県のJR線および第三セクターがフリー乗車区間に含まれる「北陸おでかけtabiwaパス」。2023年度以降、デジタルきっぷとしてオンラインで発売されています。
乗車日の3日前までに購入する必要がありますが、手元のスマホからいつでもどこでも誰でも買えるようになりました。この点がまさに、デジタルきっぷの大きな利点です。
「北陸おでかけtabiwaパス」は、JR西日本のMaaSアプリ「tabiwa by WESTER」上にてオンラインで購入します。決済にはクレジットカードが必要です。
土休日のいずれか1日間乗り放題のきっぷですが、大人で2,450円と、とにかく値段が安価です。普通列車だけではなく、特急券や指定席券を別に購入すれば特急列車や観光列車にも乗車できるので、大変コスパが高いです。
このきっぷはデジタルきっぷであることから紛失する心配はありませんが、その代わりスマホの電池切れには注意したいです。
筆者のように旧北陸本線をたどる乗り鉄にも活用できますし、金沢駅と福井駅を往復するきっぷとして活用することもできます。
現在のJR北陸本線が第三セクターに移管されるまで、あとわずかです。「北陸おでかけtabiwaパス」を惜別の旅に活用されてはいかがでしょうか。
参考資料 References
● 周遊パス「tabiwa by WESTER」 (JR西日本) 2023.10閲覧

● 「tabiwa by WESTER」北陸地区トップページ (JR西日本) 2023.10閲覧

● 特別企画乗車券の発売および見直しについて (JR西日本) 2023.10閲覧

改訂履歴 Revision History
2023年10月26日:初稿
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